神徒との日
僕と彼女は自分の存在を認めてくれるモノの居場所を探して、御互いを当て嵌めることにした。
それは特別の様に思えたけど、僕達に取ってはごく自然の当たり前の事の様に思えた。
「あの、ところでエンゼルさん。僕達はここで話合ってる訳ですけど広場の生徒達は大丈夫なんでしょうか?」
先程の聖戦時の広場での惨劇。その元凶とも言えるシフォンは、昼下がりに喫茶店で女性相手に悠長と昼食を摂りつつ一息ついている。
相手からの先制攻撃への正当防衛だとしても、やはり自責の念があるのだろう。
「うーん、どうだろう。確かにあの人達は可哀相だけど、元々は私達が怪我させられるところだったからね。悪いけどまた私に関わった事自体が自業自得のもあるかなー。」
確かにあの時に僕達に向けられた火球群は通常の人であれば心の力を纏っていたとしても、あれだけの数を受ければ火傷は必至だった。
それでも僕があの人達に向けて放った不安定で残忍な力を、自分で許すことができそうになかった。
「僕のせいでまたエンゼルさんの風当たりが強くなるかもしれないですね……」
「気にしないで、私の問題を受け止めてくれる君なのだから。私も君の問題を全てを受け止めるよ。」
彼女の掛けてくれた言葉は、過去の昔話がまるで嘘の様な心穏やかな言葉だった。
「ごめんなさい、エンゼルさん。やっぱり、僕は広場の生徒達の様子を見てきます。」
どうしても彼等の無事が気になり、僕は広場にへ戻ることに決めた。
「そっか、君って優しいんだね。私も君と連れ添って一緒に行きたいけどまたややこしくなるから、ここで大人しくしてるかな。」
彼女はそう言って、悠長な様子で飲み物を飲んでいた。慣れているのだろう、聖戦という争いに。
エンゼルさんと別れて店を出た僕は中央の広場の生徒達の所へ向かった、聖戦が終わり街の人々も繰り出して来た中で僕は広場まで辿り着いた。
すると、そこでは別の学園の生徒達と街の人に介抱されている場面に出くわした。
「良かった、あの人達は無事だったみたいかな。」
遠目から介抱されてる生徒達を見て安心したシフォンだった。
「あの、僕も手伝います。」
「ああ、助かるよ。ありがと――――って、お前は第6のティファレトの神徒と一緒にいたやつじゃないか!」
手を貸そうと介抱されている彼等に近寄って行ったが、あの場面を見て知っていた生徒だろう人が僕の事に気が付き声を上げた。
「あ、あの違うんです! 僕が直接的に関わったこと何ですが本意では無かったんです!」
「うわあああ、またやられる!? 俺達を弄り殺しに戻って来たんだ、きっと!!」
「嫌だ、あんな苦しいのはもう嫌だ! もう関わらないから許してくれ、何でもするから!」
弁解する暇も無く、その声に気がつき心の力にやられて地べたに這っていた生徒達まで騒ぎ出した。
街の人達は退き始め、介抱をしていた生徒達は身構え始めて一触即発の状況となってしまった。
シフォンはこの状況を打開するために咄嗟に思い立った事を実行した。
「ごめんなさい!!」
突然の大声を上げた、シフォンがその場で頭を下げ謝罪したのだった。
状況を打開する作戦。それは相手に自分の想いを表現して伝えるという事だった、その作戦は成功したようした様子で、不意な謝罪にその場にいた生徒たちは呆気に取られ固まっていた。
そして、その隙にシフォンは自分の弁明をする事を始めた。
「あの時は、僕が心の力を制御しきれなくて起きた事故だったんです。本当になんです、ごめんなさい!」
僕は精一杯の気持ちを込めて、その場にいる全員に対して謝った。
すると介抱していた生徒達の集団から一人、物腰の柔らかそうな女性の生徒が前へと出てきた。
「皆さん、その御方は誠心のある御方の様です。ここは私を信じて頂き、この場は心を収めてください。」
この介抱している生徒達の代表とも言える人なのだろうか、全員に自分を信じるようにとお願いして一触即発のこの場を収めた。
「この場は私の信徒さん達が引き受けてくれますので、貴方は私とこちらへ。」
「えっ、でも僕も手伝わないと。」
「彼方の謝罪は皆様にちゃんと伝わっておりますので、きっと大丈夫ですよ。」
その女性は僕を宥めてから広場を離れるよう連れ出し街中の道を進んでいった。
「私の名はフィーナ・エルロンです。第3のビナーを冠する神徒をしております。彼方様のお名前を聞いてもよろしいですか?」
とてもが付くほどの礼儀正しさと物腰の柔らかさの女性は第3のビナーの神徒であった。
思えば最初の方に”この場は私の信徒さん達が引き受けてくれる”などと言っていた気がした。
「はい、僕はシフォン・ケーキって言います。」
この頃、神徒と出会ってばかりの自分は感覚が鈍っているのか、特に驚きもせずに僕は自己紹介をした。
「ごめんなさいシフォンさん、無理に連れ出したりしてしまって。彼方があの場にいると生徒さん達の救済をする上で事の運びが宜しくないと思いまして。」
「いえ、それよりもありがとうございます。僕が引き起こした事態なのに、第3のビナーの信徒の方々に任せるような形になってしまって。」
僕が申し訳なさそうにしていると彼女はこちらを見詰めて何かを視ていた。
「あの状況を作り出した人は、どの様な罪深き隠者であるかと不安でしたが……。私の杞憂でして良かったです。とても礼儀正しい御人で驚きました、きっと彼方の罪も天使様も御許しになられるでしょう。」
「あ、ありがとうございます……。」
この言い回しは、どこか、自分の生まれ育った教会を思い出すような感じがした。
「あの。フィーナさんはどうしてあの場で倒れてた生徒達を助け始めたのですか? 聖戦もあったばかりで大変だと思ったのですけど。」
純粋な質問だった。
聖戦では敵同士である上に争いの起きた場で、生徒同士が助けあう事があるのだろうかと僕は思った。
「救いを求める人々に手を差し伸べるのは至極当然の事ですので。と言いたいのですが、本当は私の目指すモノの為なのかもしれません。」
「目指すモノの途中?」
はい、と言って彼女は立ち止まった。
「彼方は新しく学園に入ってきた方なのでしょう、聖戦においてあの様に罪の意識を持つ者は中々いませんから……」
「ええ、僕は新入生でまだ日も間もないですけど……」
「神徒がそれぞれ願いや目的そして掲げる思想があることは存じていると思いますが、私はその途中なのです。」
つまり彼女は人を助ける事が自分への願いの一歩だと言いたいのだろうか。
「この街では聖戦があり、そして当たり前のように戦いが起きています。ですが、それも元々はそれは争いの一つだと私は思います。私の願いは『この世界から争いを失くす』事です。人と争いあった人達を助ける事で私の想いを伝えて争いを失くそうと考えています。」
元々の優しさもある。だけどそれも含めて手を差し伸べることで自分の願い、目的や考えの全てを相手に伝えて行き渡らせようとしているのか。
だから彼女は人を助ける事のそれ自体が自分の願いを叶えるための途中、目的と言ってもいいのだろう。
僕が人一人に想いを伝えるための努力が、彼女にとっては当たり前の優しさの、そのおまけでついてくるのか。
「神徒の人は凄い人ばかりだ……」
「いえいえ、彼方もとても素晴らしい御方ですよ。それでは私は広場に戻ります、任せて貰って構わないのでどうかご自身を責めない様にしてください。」
「はい、あの場をよろしくお願いします……。」
街のどこか知らない道の途中で、僕とフィーナさんは別れた。
そして僕はその場で少し考えた。神徒の願い、そして掲げる思想と目的について。
第3のビナーの神徒のフィーナさんの想いの伝える方法、第5のゲブラーの神徒のマガルさんの覚悟の抱き方、第6のティファレトの神徒のエンゼルさんの天使になる願い、第9のイェソドの神徒のカイルさんの力の誇示による糾す事、どんどん新しい何かが僕の心に溶け込み得て行く何かの感覚がした。
「神徒について少し詳しく調べてみよう、確か学園の学舎の入り口で手に入れた資料もあったし寮に帰ったら見てみようかな……。」
それらが僕の心の何かに繋がる様な気がする。
そんなことを考えつつ僕はもう一度、エンゼルさんと一緒にいたお店へと広場を避けて足を運ぶことにした。
彼女から神徒について詳しく何か聞けるかもしれないだろう。
「いらっしゃい――おや、本日二度目のご来店かな? うちが気に入ってくれたのなら嬉しいね。」
店主に顔を覚えられてた僕は店に入ったと同時には声を掛けられた。
「あ、いえ、まだ友人がお店にいるのかなと思って様子を見に来たんです。」
「ああ、あのお嬢ちゃんかい。それなら君がさっき出てった後、しばらくして同じく出て行ったよ。」
どうやら僕とほとんど変わらない時間でエンゼルさんは店を出て行ったみたいだ。
「そうでしたか、ありがとうございます。」
「どうだい、また一杯。ゆっくりしていくかい?」
「折角ですけど、遠慮しておきます。また今後お願いします。」
店主は相槌をうつようにして作業に戻って行った、そして僕はお店を出た。
「エンゼルさん、たぶん学園の屋上かな……。空でも見てるのかも。」
僕は彼女に広場の生徒達の無事を伝えるべく探しに行く事にした、それと他の神徒について聞くために。
学園へ向かう街中の道の途中にそれは起きた、二回目の聖戦の合図だった。
「鐘の音!? 聖戦は一日一回とかじゃないのか!」
誰かに突っ込むように言い放つ僕。
それは自分の固定概念であったことだと鐘の音によって教えられた。
「どうしよう、エンゼルさんも近くにいないし困ったなぁ。僕だけじゃ危険だな……。仕方がない遠回りしてできるだけ人と遭わない道で学園に向かおう……。」
「……なら私と一緒に行動する?」
背後から声を掛けられた僕は、聖戦が行われてるこの聖域で最大限の緊張を走らせた。
急ぎ距離を取るように後ろへ跳び、正面を向いて心の力を纏った。
「……そんな怯えなくても大丈夫。……私だよ。」
「ジェラさん!」
シフォンの背後から声を掛けて来たのはジェラだった。
「どうして、ジェラさんがここに? もしかして、聖戦に参加でもしていたんですか?」
「……ううん。私は興味が無いから。街の本屋に立ち寄ってたら二度目の聖戦に入っちゃってね。……それより学園に戻るなら……一緒に行動する?」
彼女の心の力なら最大限に人と遭遇せず学園に戻ることができるだろう。
「助かります、ジェラさん! それに心強いです。」
「……残念だけど、人を避ける以外は私はどうしようもないから。……戦いは貴方がどうにかしてね。」
「そ、それでも、こ、心強いです……!」
得てして仲間を連れて僕は学園へと向かう道を歩いて行った。
「そういえば、ジェラさんは人と戦う心の力は持ってないんですか?」
「……たぶんね。ただ、試そうとしないだけかも。」
聖戦にも願いにもこれと言って興味を持たない彼女は本当に本の虫なようだ。
「自分が興味を持つ、好きな事の一つだけを集中できるなんて凄いですね。僕は色々な事に揺れ動いちゃって到底無理そうですよ。」
「……それでも良いと思う。揺れ動く針なら色んな事を指し示して、その後に全部まとめればいい。」
途轍もなく規模の大きい話になってしまった。
僕はふと考えた、確かに揺れ動く物なら一まとめにすれば完璧になるんじゃないかと。
「何だが凄い話ですね、でもできたらとても素敵なんだろうな。」
しかし、それはとても大変な事だろうとよくわかる気がする。
そんな事を考えてるとジェラさんは道の小脇に寄って立ち止った、向かい側から生徒達が走ってくるのが見える。
「……三人の生徒が向こうから来る。……見つからないで済むかな?……私の心の力とどちらが上だろう。」
「そうですね、心の力が強い人でしたら一発でばれてしまいますね。」
ジェラさんの心の力は感知しにくい空間を作り出すもの、通常の人は心の力が強くなければまともに場所すら把握できないはず。
後はフェンが視れなかった時の対処みたく心に力さえ入れてなければ――――
「って――――そうか、今は聖戦時。生徒達は皆、心の力を纏っている!」
「……そう、だから純粋に心の力量が上であるかどうかで私たちの存在が認識される。」
シフォンとジェラはその場で止まって道の反対側から走ってくる生徒達に向かい警戒を強めた。
「へっへー、俺が塔へ一番乗りしてやるぜ。 お前ら誰が塔に最初に付けるか勝負な、俺が勝ったら一日ぱしりだかんな!」
「おお、上等だ。その勝負乗った! なんならここで蹴り付けてもいいんだぜ?」
「まぁまぁ、こんなとこで消耗してもしょうがないし塔に着いたら勝ちにしよう。」
軽い調子で生徒達は僕たちの存在に気が付かず、横を通り過ぎて塔を目指して行った。
「ふう、何事もなくて良かったですね。」
「……そうね。……そろそろ学園も近いし。……もう大丈夫でしょう。」
二度目の聖戦、学園に近づけば塔から離れていく僕たちだが周りは塔へ向かい学園から離れていく生徒。必然と他の生徒と出くわす事は少なくなるはずだ。
「……ん。着いた、私は学園の庭で読書でもして聖戦が終わるのを待ってる。」
「わかりました、ありがとうございます。とても頼りになりましたよ、ジェラさん!」
「……うん。」
素直な気持ちで誉め称えたら、彼女は少し恥ずかしそうな素振りを見せてその場をそそくさと去って行った。
「さてと、僕は学園の屋上にエンゼルさんがいるか確認してこようっと。」
ジェラさんと別れたシフォンはいつもの屋上へと向かった。
「ふー、さすが学園の高さだけあってここはいつも良い風が通るな。エンゼルさんは――――いない……? もしかして、また聖戦に出ていっちゃったのかな。」
屋上へ続く扉を開くと最初に風が吹く、その感覚がとても清々しくて好きになってしまう。
「それにしても、こんな良い場所なのに相変わらず人がいないんだなー。でも、お陰でのんびり1人の時間を満喫できそうだ。」
「――――私がいるからね、近寄る生徒がいないんだよー。」
僕の真上からエンゼルさんの声がした。
屋上のさらに上の少しだけ高い場所に彼女はいた、学園の貯水庫のような設備が設置されてる所だ。
「エンゼルさん!良かった、いたんですね。」
「やあ、私はいるよー。君が無事で何よりだよ、二度目の聖戦に巻き込まれて困ってるんじゃないかと思ってた。」
「実際巻き込まれそうだったんですけど、友人に助けて貰って学園まで辿り着けました。」
「そっかそっかー。」
その自分より少し高い場所で座っている彼女は足をゆらゆらと動かしながら空を眺めて返答をしている。
「そうだ、エンゼルさん。広場の生徒さん達は怪我とか無くて大丈夫でした。他の生徒さん達と街の人達に介抱されてて無事でした。」
「それは良かったよー。」
彼女は相変わらず空を見ていて、どこか返答が曖昧だった。
「あの、エンゼルさん。何かあったんですか?」
「うん、実はね、君がここに来る前にさ。君が学園に最初に来た日だっけ、私と戦ってた男の神徒がいたじゃない? あの人が来てたんだ。」
「えっと、カイルさんですよね? 第9のイェソドの神徒の方ですよね。槍の心装具を使っていた。」
「名前も知ってるんだ、じゃあやっぱり君が何か言ってくれたのかな?」
彼女はその少し高い場所から飛び降りて僕の近くまで寄ってきて説明を始めた。
「実はあの武人くんが私の願い事について詳しく聞きに来てさ。ちょっと説明したんだ、そしたら――――『今まで済まなかった、以前の問題の事のせいで貴様の事を勘違いしていた。だが、願いを叶えるのは俺だ。次に相まみえる時は決着は着けるぞ!』――――ってさ。」
僕はカイルさんが、また戦いを挑みに訪れたのかと思って不安になったが彼女の説明を聞いて安心した。
そしてその説明の最中、彼女は何処か嬉しそうな表情を帯びてた。
「私さ、嬉しかったんだ。ちゃんと聞かせたのは君が初めてだけど、また別の誰かに知って貰って理解してくれたのがさ。だから、この喜びを与えてくれた君に感謝だよ!」
君が隣で嬉しそうに笑う、その表情が僕とっても嬉しかった。
「良かったです、余計な事かと思ったのだけどエンゼルさんが喜べるような結果になって。この調子で一緒に誤解を解いて行きましょう!」
「うん、それもまた良いかもねー。」
こうやって少しずつ理解を広めていければエンゼルさんは許されるはずだ今の彼女のその姿なら、そして成す事の全てが認められる、きっと。
――君の願いは僕の願いでもあるから。――
「そうだ、エンゼルさん。他の神徒の方々について詳しく教えて貰えませんか?」
「他の神徒? うーん、私は元々興味が無かったから詳しくないよ……。あ、でも野良猫のニャルと堅物お嬢様のシェリルの事なら知ってるね、あとは聖女のフィーナかな。」
エンゼルさん特有の愛称の名付け方が爆発していた。
「それでどんなことが知りたいの?」
「えっとですね、実は神徒の方々の願いや思想とか。後はどんな人物なのか聞きたいです。」
「うーん、願いとか思想は神徒について書いてある紙を見てくれた方が早いよー。人物像だったら私のあだ名のつけ方でわかって貰えればいいかな?」
とても適当だった。寮に帰ったら資料を見よう、うん、そうしよう。
「……あはは、そ、そうですか。ありがとうざいます。」
「うんうん、君のお役に立てて私は嬉しいよ!ところで、聖戦はどうする? また私と一緒に出てみる?」
「そうですねー、僕は信徒なのでエンゼルさんの判断に従いますよ。」
優柔不断にと彼女に選択権を任せた僕だったが、それは意味を成す事はなかった。
日が傾き始めた頃に、二度目の聖戦は早くも終わりの鐘の音を告げたのだから。
「ありゃ、終わっちゃったね。そしたらどうしようか、一緒に空でも見てる?」
「いえ、僕はこのまま寮に戻ることにします。神徒についての資料を読みたいので。」
「そかそかー。それじゃね! また明日かなー?」
「はい、それじゃあ。たぶん、また明日ですね。」
魅力的なお誘いだったが、僕は寮で神徒に関する事を調べたいと思い、断りを入れ別れを切り出した。
そして彼女と今日という日の別れの挨拶を終えて、僕は寮の自室へと戻った。
「さてと、何処にしまったかな。あの神徒についての資料を詳しく見てみよう何か僕に得るものがあるはずだ。」
自室の部屋を漁り、例の紙を手にしたシフォンは熱心に読み始めた。
「フェンと一緒に見たときは流し読みしてたけど、神徒についての事が色々な事が書かれているな。信徒の数に願いや思想そして本人による主張だとか。ふむふむ……」
僕がまだ会ったことの無い神徒も含めた願いや思想が書かれていた。
その中でも目に留まったのは第8のホドの神徒であるシェバトさんの願いだった、それは『世界から病魔を消し去る』と言った怪我や病気に関することだ。
これは僕とフェンが初めて出会った荷馬車の中で話した、フェンが世界への願いについての例えのそれに似ていた。
「やっぱりこういった、世界の願いが神徒として模範的で正しいのかもしれないのかな。」
次に僕が目にしたのは第10のマルクトの神徒であり、この寮の管理を任されてるシェリルさんの願いだ。
それは『心の力に対しての規律による法の制定』といった物だった。
「心の力の規則か……。確かにどこで誰が何に使おうとも今は誰でも使うことができるが、こぜり合いや犯罪での使用はもっと罰則を含めたルールが必要なのかもしれないのかな。」
雰囲気からして規則正しい思えるシェリルさんだからこそ、とても彼女らしい願い事だと思った。
そして次に見た願い事は第9のイェソドの神徒であるカイルさんの願いだった。
それは『義しき者に力を与え、悪しき者に力の枷を。』と言った物だった、僕は最初に理解するまでに時間が掛かったがつまり弱くとも善い人に力を与え、強くとも悪い人には心の制約をつけるそんな思想の現われなのだろうか。
「力で相手を正す、最初にエンゼルさんとぶつかった時みたいな感じかー。カイルさんも凄い自分をちゃんと持っているんだなぁ。」
さてと、他の願い事は――――次に項目に移ろうとした僕はお腹の虫の声によって日が沈みかけ夕日が窓に映し出されてることに気づかされた。
「もう、こんな時間か。ついつい読みふけっちゃったな。先に食堂でご飯を済ませてまた後で読もう。」
そう言ってシフォンは自室を出て寮にある食堂へと向かった。
「わわ、少し早いかなって思ったけどさすがは寮の食堂だ。人がたくさんいる分、混み入るのが早い!」
人の多さにたじろいでいるとシフォンの肩へと軽く挨拶のように叩き入れる人物が現れた。
「よっ、今日は初顔合わせだな! シフォン。」
「フェン! ちょうど良かった、今から夕飯?」
「おう、そうだぜ、一緒に食うか!」
「そうだね、今日の事も色々と話したいし。」
フェンが後ろから現れて挨拶を済ました、そして僕たちは意気投合しながら食堂でのメニューを選び、適当に空いてる席へと座った。
「なあ、お前は今日はどうだったんだ。その、なんだ、心の力のクラス分けって奴をだな……」
彼なりに気を使う場面であったのか、どこか聞き辛そうにしていた。
「あー、うん。大丈夫だったよ無事に決まった!」
「おお、そうだったのか良かったぜ。もしお前が駄目で学園を去るなんてことになったら俺は悲しいからな……。んでお前もCクラスからか?それともBクラスになれたのか?」
「それが何かの間違えかと思ったんだけど、僕はどうやらクラスAみたいなんだ……。」
フェンがシフォンからクラスの事を聞いた途端に固まり、何かを考えるようでいた。
そして理解が追いついたのか席を立ち上がり、その場で大きな声を上げた。
「なにぃぃぃ!? おま、お前、おまええええ本当なのかあ!?」
「ちょ、ちょっと声が大きいよフェン!」
彼が大きい声を上げながら席を立ち上がったせいか周囲から注目を浴びてしまった。
「わ、わりぃ。余りにも驚いたもんでよ。それにしても、Bだって凄いのにお前、いきなりAクラスだなんてとんでもねぇな! 親友として俺は鼻が高いぞ、ったく!」
辺りを気にしながら申し訳なさそうにと、席へと着席した。
彼は自分の事のように、どこか嬉しそうな感じだった。
「あはは、でも僕の心は強いだけで不完全だから、あまり喜べた物じゃないかも……」
「良いんだよ、んなこと後回しで強いだけでも儲けもんだと考えろって、適当でいいんだよ。」
「………彼の言う通りよ。……強いければ後は安定させればいい。……どちらも駄目な人だっている、きっと。」
いつの間にか隣にジェラが座って僕たちの会話に混ざって来ていた。
「うわ、ジェラお前、いきなり驚くじゃねぇか!いつの間にいたんだよ。」
「……さっきの貴方の大声が目印になってこっちに来た。……私がいれば次に騒いでも大丈夫よ。」
「うっ、すまん……。」
彼女は近くで騒いでも大丈夫でいてくれるのだろうか、彼女なりの優しさだ。
そんなやり取りを見てて僕は笑った。
「……それより今始めて聞いたのだけど、クラスAなったのね、おめでとう。私は驚いた。……貴方もしかしたら神徒になれるかもね。」
「うーん、神徒になったら困るなぁ。今の僕は信徒だから神徒はできないんじゃないかな。」
「ったく、贅沢な悩みしてるぜシフォンよぉ。くぅー、俺もすぐ追いつくからな!」
フェンは悔しそうな言葉を述べているが、本当に楽しそうに僕たちを見ていてくれてる。
「……心配無いわ。……神徒でも他の神徒の傘下になることだってできるから。……同じ願いの神徒がいたら協力し合うのが得でしょ。」
「なるほどなー。てことは、神徒になってもシフォンは第6の信徒でもあるってことか。」
「あはは、まるでもう神徒になるのが決まってみたいな話しないでよー。Aクラスで神徒になってる人って第6のティファレトの神徒のエンゼルさんだけみたいですし、僕じゃ適わないですよ。」
二人は冗談も混じっていた様だったが僕は真面目に受け答えた。
「まあ、もしもって話だな。まぁ、そん時にお前自身の願いがあるなら信徒になってみたかったが今は第6の神徒様に恩返ししてるんだもんな。」
「……貴方達を見てると面白い。……だから私もその時は何か手伝ってあげる。」
「うん、二人ともありがとう!」
三人で談笑を交えて食事をしていると、食堂の入り口で大きな態度の男が声を上げて叫んだ。
「おい、ここの寮生でジェラ・アイトスって奴、ここにいるか!?」
すると周りの生徒達は騒ぎ出して、彼をこう呼んでいた――狂犬と。
『おい、狂犬だぜ。』『この寮に何のようだよ。』『今呼ばれた子、可哀相きっと因縁付けられたのね。』
ジェラを見ると顔を俯向かせて心の力で自分の居場所を隠そうとしていた。
僕とフェンはそれを見るや否や何があっても、彼女を助けようと目と目で合図を送りあった。
そして心の力を御互いに纏った。
「おっ、いるじゃねぇか。おい、ジェラ。」
狂犬と呼ばれた男がこちらに気がつき、ジェラに近づこうとしてきた。
それを阻むように僕とフェンは立ち塞がった。
「あん何だお前ら――――って、あの時の新入生二人じゃねぇか!」
狂犬と呼ばれた男は、僕とフェンがこの街について初めて巻き込まれた聖戦で指導と言い戦いを仕掛けてきた第8のホドの信徒だった。
「っげ、あの時の先輩ぃ!?って、そんなことはどうでもいい。ジェラに何のようですか。」
「ちょうど良いや、お前らにも後で話があるから待ってろ。」
狂犬と呼ばれた男は僕達を無視して通り過ぎようとしたが、僕とフェンは退かなかった。
「おい、何の真似だ。俺はジェラにようがあるんだよ。後にしろォ。」
「先輩には悪いけど、そうは行かないんですよ。親友が危険な目に合いそうになったらほっとけないんでね。」
「悪いですけど、あの時の僕と思わないでください。今度は戦いますよ。」
二人で狂犬と呼ばれてる先輩を威嚇した。
すると彼は心の力を纏い始めた彼は臨戦態勢を取った。
「おいおい、上等じゃねぇか。何なら無理にでも黙らせておくぞ?」
どちらも動かないでいた。だがその静寂を破るかのようにジェラが声を出した。
「……やめて、二人とも。……それと兄さんもやめてください。」
「おう、やめるぜ。」
ジェラの一言で心の力を止めた彼に呆気を取られてた、その前に彼がジェラのお兄さんだと言うことに僕とフェンは驚いたのだろう。
どうして、僕の夕食時はこうも問題が起きやすいのだろうか落ち着いて夕飯が食べたい。
――僕の心は良い傾向にある、足りない物は他から補い吸収すればいい。完成に近づいていく。――