問題との日
僕とフェンが対峙した相手、それは周りの生徒から狂犬と呼ばれ、そして初めての聖戦で僕達と戦った第8のホドの信徒である先輩。
そして彼はジェラのお兄さんでもあったのだった。
「ええ!? この先輩ってジェラさんのお兄さんなの? で、でも、そしたらどうしてジェラさんは見つからないようにしてたの?」
この街出身であるのに寮を借りてる身のジェラさんなのだから、どうやら何か家族間で問題があるみたいだ。
「……それは……兄さんはうるさいから。……どうせ家に戻れっとかの話に来たんだと思う。」
「そうだぜ。お兄ちゃんはなジェラが学園に通うことになって家から出て寮に住むって話を聞いてから、心配で心配で夜も眠れないんだよ!」
周りから今度は『シスコンだ』、『きっと妹萌えなのね』などと訳のわからない言葉が飛び交っていた。
この心配性からしてジェラのお兄さんはかなりジェラ本人に構っている様子だ、恐らく家を出た理由のは兄がうるさかった等そういった些細な問題なのだろう。
「まあ、お兄ちゃんはな、ジェラが決めた事は応援するけどよ。せめて手の届く範囲で頼むよ! いざと言う時守れないからさ!」
「……兄さん……うざっ。」
「エッ……。」
ジェラの兄はその一言で固まってしまった。兄妹喧嘩にすらならない様子だ、そして時は動き出す。
「わかったよ、家に戻れとはもう言わない、しゃーねぇけどよ。その代わりジェラ、お前は第8のホドの信徒になれ。聖戦は出なくていいがせめて勢力に付いてろ、うちは何かと手出しされにくいからな。」
信徒になる事で手を出されにくくなるなんて、第6のティファレトの信徒になった僕とは大違いだ。なんてエンゼルさんに申し訳ない事を考えた。
「それと、お前ら新入生二人にも関係ある話だ。どうだ、第8のホドの信徒にならねぇか? 俺個人としては、そこの短髪の熱血野郎は気に入ってるし、戦って即ダウンした軟弱野郎は心配だからな。」
何かと、この先輩は口が悪いが根は優しいみたいだ。第8のホドの神徒、シェバトさんの言う通りの人物のような気がした。
「お生憎さまですけど、俺はどんな願いや掲げる思想か知りもしないで信徒になるつもりはないです。それにシフォン――こいつはすでに第6のティファレトの信徒になっちまってますから。」
フェンは僕の説明も含めて、やんわりと断りを入れてくれている。
「何ぃ? あんな危険なとこの信徒になったのか軟弱野郎。お前じゃ、命がいくつあっても足りねぇぞ止めとけ。うちのが安全だぜ。」
「いえ、僕は自分で決めたので何がどうあれ変えるつもりは無いです。それと僕を、以前に出会った時と一緒にしないでください。」
ジェラの兄はシフォンの目を見て何かを探るようにと見詰めていた、その瞳から逃げずにシフォンは真っ直ぐ向き合い見詰め返した。
「……そうか、なら俺は何も言わねぇさ。せいぜいくたばんなよ。そっちはうちの方針ってか願い事について説明してからどうかで決めて貰うか、確かフェン・クラップつったっけ?」
「……兄さん、私の事は決めた事のように放って置かないで。……私も入るつもり無い。」
「それは駄目だ、納得しろ。その代わり寮までは関わりに来ないからさ、俺は寂しいけどよぉ……。」
あれは狂犬じゃないシスコンだ。と、また周りの生徒が騒いでいる。
それを聞いて渋々と納得する様子のジェラ・アイトスだった。
「それでな、うちの方針だけどよ。まず――――」
「クラック・アイトスくん。信徒の貴方が信徒勧誘に熱心なのは大変好い事ですけど、寮生でない貴方が勝手に入って来て騒いでるのはいただけないですね。」
後ろからジェラの兄の名前を呼びつつ、シフォンたちの会話に割り込んで来たのは寮長のシェリルだった。
どうやら僕達が騒ぎ過ぎたせいで、誰か呼びに言ったのだろう。毎度、何かと借り出されるシェリルさんは大変そうだ。
「っげ、シェリルさんじゃないですか! いやー、ちょっと妹の顔を見たくなって我慢できずに入っちゃいましたよぉー。」
「そうですね、でしたら満足したみたいなので出て行きましょうか。学園生であっても寮生でなければ受付で連絡をしてから入ってください。規則を守れない様なら学園に申し立てて第8のホドにペナルティを課せますよ?」
「ちょ、ちょっ!? シェバト様に迷惑を被るのは勘弁して貰いたい! シェリルさん悪かったって、すぐ出て行くぜ俺は。つーわけで、えっとフェン。考えとけうちの妹と一緒に第8のホドの信徒になること。ちゃんと世話もしやっからよ心の力も。」
最後に捨て台詞の様に吐いてジェラさんのお兄さんは食堂から立ち退いて行った。
「何かと騒ぎの現場に居合わせますね、シフォンくん……。」
「あはは、何だか申し訳ないです……。お疲れ様ですシェリルさん……」
一言だけ僕と会話を交わして、シェリルさんも食堂を出て行った。
そして嵐のような時が過ぎ去り、僕たちは再び席へと着いて会話を始めた。
「それで二人はどうするの? 第8のホドに入るの?」
「……私は兄さんがうるさいから。……これ以上、五月蠅くならない様に形だけでも入るつもり。」
「俺はどうだろうな、とりあえず第8のホドの願いについて調べたり色々と見て考えるかな。」
どうやらフェンは一考の余地はあるみたいに思える、僕は自室で読んでいた第8のホドに関する事をフェンに伝えようと思った。
「シェバトさんの願い事ってフェンの例えた願いと同じ様な事だったよ、世界から病気や怪我を失くすみたいな事だって。」
「へー……。病気や怪我を失くすか、凄いんだなシェバトさんの願いっつうのは。」
フェンは少し何かを考えてる様子で途中から生返事をしている。
「……私、兄がうるさくて疲れたから先に部屋に戻って休む。……それじゃあ。」
「あ、うん、ジェラさんまたね。」
「おう、また明日なジェラ。」
ジェラの後姿を軽く見送り出した二人はまたお互いの会話に戻った。
「僕が思うに、掲げている思想は凄く模範的かつ平和的だから生徒からの信頼も厚いみたい。信徒の数も一位二位を争う多さだよ。」
「なるほどな、ありがとよ。ちと俺も部屋に戻って、神徒の資料でも見直してみて自分なりに考えるぜ。」
「うん、どういたしましてだよ。わかった、それじゃあまた明日!」
「おう、また明日だな。」
フェンは返事をした後に食堂を出て行った、そしてシフォン1人が取り残された状態になった。
「さてと、そしたら僕も部屋に戻って神徒についてまた――――って、ん?」
シフォンが部屋に戻ろうと席を立とうとすると、相席なって来た女性の生徒がこちらをじっと見ている。
「ええっと……。ごめんなさい、僕に何か用ですか?」
シフォンが用件があるのかどうか尋ねると彼女は笑顔を作って話し切り出した。
「ねねね、君ってシフォン・ケーキくんだよね? ね? そうだよね? あのさ、私は学園の諜報新聞部って言う組織の部長をしてるんだけど。ちょっと聞きたい事とか色々あるんだけど良いかな?」
「えっと、はい。そうです、僕がシフォン・ケーキです。その聞きたいことがあるなら、ど……どうぞ。」
凄い勢いのある人だ、思わず尻込みしてしまうほどに。
「やった、良かった。あのさあのさ、君って最近来た新入生なのにクラスAになったって本当? それと、その胸に着けてる記章は第6のティファレトの信徒のだよね? 本当だったんだ、あのティファレトに信徒ができたなんて! どうして信徒になったのかな、そうだ君の心の力ってどんなの? あっ、先に聞くのは失礼か私の心の力ね、視覚と聴覚が格段に良くなる身体強化系なんだ。この組織じゃかなり有用なんだよ! それで―――」
質問に答えるどころか彼女一人だけ喋り出していて切りがない。
「ちょ、ちょっと。あ、あの、そんな一遍には答えられないですよ!」
「あ、ご、ごめん。ちょっと興奮しちゃって、ついつい悪い癖が出ちゃった!」
どうにか落ち着かせた僕は彼女の質問にひとつひとつ答えていった。
「僕のクラスがAになったのは本当です、それと学園の新入生になって間もないのも。第6のティファレトの信徒になったのは彼女にはお世話になったので恩返しをする為になりました、もちろん僕自身の願いのためですけど。」
「へー、そうなんだ。あの悪名高い第6のティファレトの神徒に世話になって恩返しかー。それで心の力はどんなのを使っているの?」
こちらの事情もお構いなしに彼女は続け様に質問を投げかけてくる。
「心の力に関してはごめんなさい、あまり人に言いたくないので。それにエンゼルさんは誤解されてるだけなんです、前は確かに酷かったかもしれないですけど今の彼女は本当に優しい人なんです。」
「ふむふむ……心の力は黙秘っと……。へー、あの人って今は変わったんだ。私はそういったのに事情通だから昔の酷さはそりゃ凄まじい物だって知ってるけど、意外だなー。」
どうやら、この質問攻めの女性の生徒はエンゼルさんの過去にしてきた事に詳しいようだ。
今は変わったエンゼルさんの事を意外だと言い放っている。
「あの人って敵ばかり作ってたけど、今更変わっても大変だと思うんだけどなー。彼方も巻き込まれるわよ?」
「それは散々言われて来ましたし実感もしてます、けど僕はそれでも良いと思ってます。彼女の傍にいて僕にできることができるのなら。」
僕の言葉を聞いた彼女は、にやりと笑い手帳を取り出して何かを記入し出した。
「その言葉貰った! ふむふむ。もしやお二人さん、お付き合いなされている……?」
「っごほ、ごほっ。」
急な話の展開に思わず咳き込んでしまった僕。
「そういうのは無いです、ただ僕は彼女の為に僕にできる一番の事を探してるんです。」
「……これは片思いか。いやー、苦労しますな旦那ぁー。あのエンゼル・ケイキスを相手に恋するなんて!確かにうちの学園じゃ相当な美人の部類に入るからねー。ミステリアスな所もグッドで何かと隠れファンもいるし!」
何やら僕とは話が噛み合わず違う方向へと流れが持って行かれているようだ……。
「だーかーら、違ますっって――――」
「それで、彼女はどういう風に変わったんですか?」
少し真剣な表情になり、僕にエンゼルさんの事について聞いてきた。
僕は誤解の無いようにと、このチャンスを生かして彼女の遺恨を振り払おうと考えた。
「彼女――――エンゼルさんは、昔の自分のして来た事を後悔してます。それで昔みたい事が二度と無い様にとできる限り他人と関わらないでいるみたいなんです。」
「なるほど、罪の意識が芽生えたと。それでいて他人を拒み始めた所に彼方が登場……。」
シフォンは真剣に思い考え発言している為、それを聞いている彼女が曲解していることに気がつかないでいる。
「だから、僕はエンゼルさんは変わって昔とは違うって皆に伝えて誤解を解きたいんです!」
「くぅー、泣けるね旦那ぁ! その役、私が一役買いましょう! 手伝いますよ。」
何が泣けるのか僕にはわからなかったが、手伝ってくれる事に僕は喜びを隠せないでいた。
「本当ですか! ありがとうございます、貴方にわかって貰えるだけでも話した甲斐がありました。」
「それでその誤解を解くのに今の取材を記事にして学園新聞にしたいのですが、良いですかぁ?」
彼女が凄い悪そうな顔をしているが、シフォンは喜びのあまり相手を伺うことを失念している。
「はい、宜しくお願いします!」
「わかりました、それじゃ早速取り掛かるので私はこれにて失礼!さらばー。」
颯爽と去って行く彼女を見て、また一つエンゼルへの皆の遺恨が解けて行く様な気がしてシフォンは嬉しくなっていた。
「良かった、また一つエンゼルさんに恩返しできそうだ……。」
満足げに再び自室へ戻ることにしたシフォンであった。
これが問題になるとは露ほども知らずに……。
「さてと、また神徒についての資料を読もうかな。」
自室に着いて、すぐに椅子に腰掛けて机の前で神徒についての資料を読み始めた。
これまで第10のマルクト、第9のイェソド、第8のホド、と見てきた次は順番に流れで見よう。
「第7のネツァクの神徒の願いだ、これは確かニャル・クァトネルさんだ。猫っぽい人だったなぁ。エンゼルさんも野良猫呼ばわりしてたし……」
願いはこうだった、『世界の全ての人々に自由の風を。』といった物。これはさすがに本人の主張や思想を見ないと理解できずにいた願い事である。
どうやらこれらを意味することは、彼女が空中で自由自在に跳べる様、それらの全てを皆が当たり前の様に空を跳べる状態にしたいみたいだ。
「皆が空を飛べたらか……それはどんなに素敵な事なのだろう。僕も空を自由に飛んでみたいな。」
そして次に見たのが僕が信徒である第6のティファレトの願いや情報についてだ。
自分が所属、就いている勢力を見るのは何だか不思議な気分だった。
「えっと、何々……?――――願いが『天使になる』で本人の主張や思想は無しで、信徒の数はゼロ……。」
うわ、凄い適当だ。エンゼルさんらしい。だけど、信徒の数は僕が入ったから1人になった訳か。
次は第5のゲブラーの神徒であるマガル・ギボルさんについてだ。食堂で問題で助けてもらったのには感謝しても仕切れない。
「えっと、『人々に峻厳たる覚悟を、そしてその力を与える。』か……。そういえば、覚悟の無い奴は嫌いだとか言っていた気がする。」
これはどちらかと言うと第9のイェソドのカイルさんと近しい願いなのかもしれない。
要約すると自分が行う全てに責任と覚悟を持たせ、その力を持たせると言った事なのだろうか。
「ふぅー、なんだろうご飯を食べてすぐ集中なんてすると眠くなるな。今日はもうここまでにして明日読もう……」
僕は寝る前に夜の必要事を済ましてから眠りに就くことにした。
微睡みの中、シフォンの意識が夜の時間に消え沈むと、また夢の日のように全身が黒く柔い光に包まれた。
僕は夢を見た。
(空を飛んでるみたいに宙に浮いている夢だ、僕はとても好きだな。あれ、そうだ、思い出した。この夢は前にも視たな。)
「そうだね、僕は僕だから気に入るのも当然だよ、ここは僕のお気に入りをイメージした場所だからね。」
人の形をした光の様なモノが語りかけてくる。
(君は……またあったね、夢の住人さんなのかな?)
「はぁ、まだ理解してなかったのか僕は。まぁいいや、それよりどうだい?最近の調子は。」
夢の住人は僕の調子を気遣ってきている、どうやら優しいヒトなのだろうか。
(あはは、おかげ様? で、今の所は順調だよー。昨日の夢の後は身体も軽かったし。ただ何か怖い体験をした気がするけど……)
「ああ、あれはちょっとした荒療治だよ、すまない。けど僕には良い薬だったろう?」
何をされたのか今一思い出せないでいるが何かとんでもないことをされたのはわかった。
(よくわからないけど、ありがとう。でも、君はどうして夢に出てくるの?どうして僕の為に何かしてくれるの?)
「僕は別に君の為に何かをしてあげてる訳じゃないよ。僕は僕のためにしている当然の配慮さ。僕は僕だからね。」
段々と何を言っているのか理解が追いつかなくなってきたシフォンだった。
(よくわからないけど、ありがとう。これからも宜しくね!)
「あはは、僕ながら僕は面白いね。ああ、最初からもこれからも宜しくさ。――――っとと、どうやら君が近くに来てるみたいだ。相手してあげないとすぐ機嫌を損ねてしまうよ、君は。さあ、寝てないで起きるんだ僕。」
夢の中で光に包まれた僕は夢の中で意識が沈み、現実での意識が覚醒し出した。
「うぅん、また夢か……。毎日見てる気がするような……?」
「夢って何の話?」
えっ?と驚いたシフォンはベッドの上で眠っていた身体を起こして隣を見てみた。すると、そこには寮の自室であるはずがエンゼルが傍で立っていた。
「にゃにゃにゃ、にゃんでエンゼルさんが僕の部屋に!?」
「おはよう、鍵が空いてたから入っちゃった。あはは、それにしても何それ、ニャルの真似かな。あはは。」
彼女だから良いけど、不法侵入もいい所だ。状況を飲み込めないシフォンはとりあえず質問してみた。
「え、えっと、エ、エンゼルさん僕に何か用ですか?」
「うん、君と一緒に学園に行きたくてね。君のところまで訪ねて来た訳だよ!」
とても彼女は自由気ままな人だった、でもそこが愛くるしい。
「そ、そうですか、わかりました急いで準備するので待ってて貰えますか。」
「うん、待ってる。そういえば、いくら寮だからって鍵を閉めないのは無用心だぞ!気をつけるよーに。」
勝手に入って来たエンゼルさん本人は棚に上げられて、叱られた僕だった。
そして急いで朝の支度と準備をすることにした。
「……あの、着替えたいんですけど外で待ってて貰えませんか……?」
「なーに女の子みたいな事言ってるの、男らしくばばーんって着替えなさい!」
何と言う無茶な考えというか、発想なのだろう。仕方が無く僕は彼女の前で着替えた。
「ふむふむ、なかなか良い身体してるじゃん! 聖戦も頑張っていけそうだね。」
少し恥ずかしかったが、彼女なりに真面目な話をしている様子だったので僕は大人しく聞いていた。
「そういえば、よく僕の部屋がわかりましたね、エンゼルさん。」
「んー、ああ。一度受け付けの入り口で名簿見て君の部屋を確認してきたんだよー。」
なるほどと言った感じで、僕は納得した。
「ところで、朝食はどうしますか?食堂で取っていきます?」
「あー。うん、寮の食堂はちょっとパスかな。あまり生徒が多い所は私は避けたいから。」
そうだった、彼女は周りからよく思われてないから生徒が沢山いる場所には顔を出せないでいたんだ。
道理で同じ寮住まいなのに一度も食堂で見かけたことが無かったんだ。
「よいしょ、準備完了です。それじゃあ街のお店へ朝食を食べに行きましょうか。」
「うんうん、君と一緒に食事いいね!行こう行こう。」
朝の支度を終えたシフォンは気を使ってエンゼルと共に寮を出て、街の店へと繰り出して行った。
その途中で僕はエンゼルさんに好き嫌いを聞かれたが特に無いと答えた。
「よし、なら今日はここのお店に決定だね! 入るよー。」
「はい。」
恐らく気分で選んだお店に入り、僕達は早々に席へと着いて注文をした。
「ところで、君は今日は学園で何をするつもりなの?」
「今日ですか? そうですね、クラスも決まった事だし一度授業に出てみようと思ってます。」
なるほどと言った様子で、頬杖を突きながら僕を見ている。
「君が出るなら私も出てみようかな、同じクラスAなんだし一緒にできるよね。」
「本当ですか? 実は心細かったんで一緒に授業を受けて貰えると助かります!」
「うんうん、可愛い弟分のお世話はお姉さんの役目だからね! 任せておいてよ。」
人目を避ける彼女が僕の為に一緒に授業を受けてくれる事が凄く嬉しく思う。
そして注文した朝食が並び僕と彼女は食事を終わらせ、また学園へと向かった。
「ところで授業ではどんなことするんですか?」
シフォンは初めて受ける授業についてエンゼルに訊ねてみると意外でもあり、そうでない答えが返ってきた。
「わかんない。昔の私は授業に出たこと無いから。それに今はずっと人目を避けてるからね、ほとんど授業を受けた事なんて無かったよ。」
そうだった、彼女は何かと昔の問題で人に恨まれているから人混みになる学園の授業などには出れる訳でもなかった。
「それなら、僕と一緒にこれから初めて受けるみたいな物ですね、あはは。」
どうにか元気な素振りを見せて彼女の悲しいモノを取り除こうとした。
「あはは、そうだね。君とこれから初めての授業が始まるんだね!よろしくー。」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします!」
これから楽しみだ。
そんな事を思いながら彼女と談笑していると学園に着いた頃、着いて早々何故かしら僕たちは奇異の目で見られているそんな錯覚を帯びた。
『おいおい、この記事は本当みたいだな。』『ええー、あの二人本当に? きゃーロマンチック!』『うぅ、俺あの子狙ってたのに……』
何やらと周囲の生徒達が騒がしい、エンゼルさんはいつもこんな中で学園を生活していたのか。
「ねぇねぇ、何だか周りおかしくない?」
と思ったが、彼女も疑問に思っていた。
「あれ、てっきりいつもこんな感じなのかと僕は思いました。」
「ちょっと、酷いじゃない! さすがにこんな奇異の目で見られたりしないよ。」
二人して困惑し、立ち止まって考えていると学園の敷地内中央に何やら叫びながら何かを配っている女性の生徒が見えた。
「号外~! 号外だよー! 今回のタイトルは愛は人を変える。あの第6のティファレトの神徒に信徒ができたお話だよ!」
あの人は……。昨日の食堂で会った取材といって色々と聞いてきた人だ。
確か、諜報新聞部っていう組織がどうとか……。
「……? 何あれ、君もしかして何かやらかしちゃった?」
「えーっと、ごめんなさい。もしかしたら僕かもです……。」
汗が何故か止まらない、嫌な感覚だ……。
中央から立ち止まっている僕達に気がついたのか、フェンとジェラが走ってくるのが見えた。
「はあはあ、お、おい、シフォン。お前、とんでもない事を言ったんだな!?」
「ふぅふぅ……。……貴方はもっと静かな人だと思ったのだけど。……違ったのね。」
嫌な予感が的中したのか何かを誤解している様子の二人を見て事情を聞いた。
「えっと、ごめん、フェン。ジェラさん。何の事かわからないんだけど、説明して貰えるかな……?」
「何!? お前が知らないってどういう事だ、これは嘘って事なのか?」
これ、と言って手渡された紙は何やら第6のティファレトの神徒と信徒について書かれている記事だった。
内容は――――
「えーっとなになに? 『あの第6のティファレトの神徒のエンゼル・ケイキスに恋人、それは初めての信徒。愛は人を変え、彼女は優しさを取り戻した。』って、何で私の事が勝手に書かれてるのよ!」
「ぼ、僕の事は、えっと『エンゼルは僕が護る、彼女の障害となる者は全てこの僕が倒す。彼女の恋人は信徒である僕、シフォン・ケーキだ!』って何で僕の事がこんな風に書かれてるの!?」
極め付けに新入生である僕が心のランクがAクラスだと言うことも掛かれ、次期神徒であるかもしれない等と色々な事が書かれていた。
「ちょ、ちょっと僕、あの人を止めてきます!」
そういってシフォンは学園の敷地内中央で、号外と叫び紙を配っている女性の生徒の元へとんでいった。
「……ふふ、本当に退屈しないのねシフォンって。」
「だなぁ、シフォンはこれからも学園で色々な問題に巻き込まれるんだろうなー。」
ジェラとフェンは遠い目をしながら薄らと生暖かい目で見ていてた。
「君たちってシフォンくんのお友達? 私はエンゼルよ、あの子の保護者ね! 今の所。」
「……私はジェラ・アイトス。……よろしくです。」
「俺はフェンだ、ってあんたが第6のティファレトの神徒さんか? いいのか、あんたの事も書かれてるんだろ、止めにいかなくて?」
フェンはのんびりしている彼女を見て疑問に思った。
「私は良いの、何だか面白そうになってきたからこのままで!」
そんな彼女を見てフェンとジェラは、またしてもシフォンの苦労が耐えない様な感じがして可哀想にと思った。
「ちょ、ちょっとそこの昨日の人、何してるんですか!」
「おや、シフォンの旦那じゃないですか。いや~、お陰で記事はバッチリでしたよ!好評も好評で、こんなに賑わったのは久しぶりです。」
彼女は悪びれる様子もなく嬉々としている。
「あの、これ僕が行った事と全然まったくこれっぽちも関係してないじゃないですか!」
「んー、そうでもないよ。私は内面を読み取った真実を記事にするからね。ちょっと抽象的で曖昧かつ適当で私的かもしれないけど大体あってる! 大丈夫だよ!」
何処から出てきて何の自信かよくわからないけど、彼女には困らされている。
「まぁまぁ、いいじゃないシフォンくん。君が私の事を護ってくれるの本当でしょ?それに面白そうじゃない。」
後ろから追いついてきたエンゼルさんが僕を宥めてきた。
「で、でも恋人って、エンゼルさんは困るんじゃないですか……?」
「んー、私は別に君が恋人でも構わないよ?」
エンゼルは、その一言を言いながらシフォンの腕に抱きつき寄り添うような形で絡めてきた。
それに対してシフォンは顔を真っ赤にして、たじろいでいる。
「おやおや、ご両人見せ付けてくれますね。それでは私はそろそろシェリル嬢に捕まる前に逃げますので!さいならー。」
昨日の様に、またしても颯爽と去っていった彼女であった。
「あんまりからかうと、君が可哀想だから止めとこうかな!」
そういって僕の腕から離れたエンゼルさんだったが、もっと触れ合っていたいと思ってしまう自分が心の中にいた。
「……でも、君なら本当に恋人でも構わないよ。」
彼女は聞き取れないほどの小さい声で何かを言ったが僕には聞こえないでいた。
この騒動の始まりはまた新しい出会いや問題の始まりになるのだった、そして新たな物語の始まり。
これからも巻き込まれていく僕、今度は君もまとめて一緒に。
――君と触れ合う事ができる、それは僕にとって一番の力になる。――




