聖戦いの日
僕とエンゼルは手を繋いだまま一緒に走っている、学舎を出てからの事だ。
すでに学園の敷地内ではそこらで戦闘が行われていて、心の力が飛び交う聖域と化していた。
我先にと塔へ向かう人達は塔へ急ぐ事無く、急がば回れと敵を蹴落とす為のを戦闘を行い始めて、祭り騒ぎになっている始末だ。
そんな騒々しさの中で君と駆け回る、それが何故か楽しく感じるのは君と一緒にいるからなのだろう。
「エンゼル、聖戦っていつもこんな激しい戦いをしてたんですか!?」
「あはは、そうだよ! 君が今まで体験して聖戦は、せいぜい新入生向けの軽い挨拶レベルだよ!」
其処彼処で衝撃による轟音や、炎に水そして風に雷まで荒ぶっている様子が見受けられる。
「見つけたぁ~!第11のダアトの神徒になったシフォン・ケーキさん!」
激しい戦場の中で、僕の事を神徒としての呼び名で呼ぶ声がした。
遠くから、この心の力の嵐の中を掻い潜り、走って僕達の下まで走り寄ってくる人物がそこにはいた。
「あ、貴方は諜報なんとかの人! って、何で僕が第11の神徒になった事をすでに知ってるんですか?」
「いや~、そういった情報収集は私の十八番ですから伝わってくるんですよ~。それと諜報新聞部ですよ、旦那!あ、それと取材良いですか?」
「取材を受けるなんて、もう君も有名人だね!」
僕達は走りながら会話をしている、息が切れそうだ体力にそれほど自身がある訳ではないが心の力を纏ってるお陰でまだまだ頑張れそうではある。
「見つけたぞ、第6のティファレトの神徒! 今日こそお前をぶっ潰してやる。覚悟しろ!」
僕達の目の前で、凄みを利かせ仁王立ちをして立ち塞がる相手が現れた。どうやらエンゼル絡みの相手のようだ。
彼は片手には氷塊を留めて、こちらに向け飛ばそうとしていた。
だがそれができる事は無かった。
「今は取材中ですからーー!!!!」
「うわ、何だッお前っ!?」
諜報新聞部の人が拡声器みたいな物を取り出して大きく叫ぶと音波的な攻撃なのか、これと言った変化は見受けられないのにも関わらず立ち塞がっていた生徒はよろめいてその場に倒れこんでしまった。
その隙に絡んできた生徒の横を僕等は走り抜け去って行った。
「あ、これ私の心装具です。メガホンって名前を付けました。これで邪魔者はいなくなりましたね、それで早速聞きたいんですけど神徒になった意気込みについて――――」
「ちょ、ちょっと、今じゃないと駄目ですか。結構危ない状況下ですよ!」
「あはは、良いじゃない、今助けて貰ったし取材受けてあげれば?」
エンゼルは始終楽しそうにこちらの様子を伺っている。確かに面倒事に巻き込まれずに済んだお礼と言わないが、代わりに取材を受けるくらい良いだろう。
「わかりました、えっとですね、えーっと、意気込みですよね!」
僕が意気込みを言おうとした時だった。
「いったあああああ、痺れるううう!?」
周囲から電撃が走り僕達に向かって撃たれ込んだ、僕はエンゼルの心の壁により防ぎ護られたが諜報部の人は見事に直撃を受けてしまった。
「痛たた、何処の誰よ!まったく、取材を妨害するなんて。それで続き良いですか?」
さすが心装具を扱えるだけの人物だ、心の力を纏う事での防御力の耐性が高い。
「た、タフな人なんですね、わかりました。えっと、意気込みはこれからも第6のティファレトの信徒として頑張りたいと思います。僕が神徒になってもそれは変わらないです!」
諜報部の生徒はふむふむと相槌をしながら、走っているにも関わらずペンを手帳に走らせてメモを取っている。
「なるほど、信徒として続けるんですね。と言う事は恋人関係は良好かな!?」
「私とシフォンの関係はとても良い関係だよ! さっきだって屋上で助けて貰ったし私の騎士って感じだよー。」
恋人関係に対して否定も肯定もしない曖昧な返答だったけど僕にとってはそれで十分な答えであった。
彼女とはどんな関係でも構わない、ずっと一緒にいられるなら。そんな想いが募ってゆく。
「おぉー、それはそれは。うーむ、実に面白い事ばかり聞けますね御二方は。」
「ちょ、また変な事を記事にされちゃいますよ、エンゼル!」
僕が”変な”と言うと諜報部の生徒はむっとした表情でペンを走らせるのを止め、こちらを軽く睨みを利かせて説教を始めた。
「シフォン・ケーキさん、良いですか!変な記事ではなく、私は真実の解釈を得てして新聞を書いているわけですよ!大体ですね、私が書く事は――――」
どうやら逆鱗に触れてしまったのか彼女は持論を僕に対して長々と早口で説き始めた。
だが僕には聞く余裕が無かった、何故なら再び流れ弾であろう物がこちらに飛んできているのだから。
「危ない、諜報新聞部さん!」
僕等を目掛けて飛んで来た炎弾を僕は咄嗟に心の力による重圧で叩き消した。
「あら、これはありがとうございます。そうだ、取材中でしたね。私の記事の事はまた今度で良いですね! それで第11のダアトの神徒として願いや思想はすでにお持ちになられてるんですか?」
「えっと、僕の願いは全て彼女の願いだから、つまりあれです。僕も天使になります!」
この戦場に慌てふためいてるせいか、僕は自分自身で何を言ってるのか頭でわからない状態になっていた。
だけど、それでも自分は正しい想いを述べているのだと心と身体で理解している。
「おお、恋人と一緒の願い。二人で天使ですか、うーん、かっこいいですね。もう愛の告白ですねこれは! どう思いますか、エンゼルさん?」
「まぁ、当然よね! シフォンと私は一心同体だもん。」
彼女は恥ずかしげも無く、そんな事を言う。でも、僕にとってはとても嬉しい事だ。
エンゼルにそんな風に思われているだなんて。
「なるほどー。相思相愛、これは入り込む余地は無いと言うことですね! 騎士だけに……。」
あ、今度は水塊が飛んできた。
「にょわああああああ~。」
新聞諜報部の人は見事な直撃を受け大きく吹き飛ばされ、そして僕達とは離れ離れになってしまった。
水塊の当たった衝撃により倒れたようだ、最後の最後まで取材等と口にしてその場に横たわった。
「あの人、大丈夫ですかね……。」
「結構元気そうだし、大丈夫でしょ! それより私達さっきから狙われてるね。」
狙われている? それは果たして私怨による物だろうか。
エンゼルは辺りを気にしてる様子だった、狙いを付けて来る相手を見極めようと周囲を警戒してるみたいだ。
「あれって全部故意だったんですか?」
「そうだよー、さすがに走ってる私達目掛けて何度も心の力が飛んできたりする訳ないじゃない。」
聖戦はこんな物だとばかりだと勝手に思い込んでた僕は全く気が付いてなかった。
◇
しばらくして学園の敷地内を出た僕達は、すぐに街の裏路地に身を置き走るのを止めて、その場で一息付く事にした。
「ふぅー、走り疲れた。しばらくは歩きながら向かいましょう。」
「はい、それにしても凄い戦闘の嵐でしたね。」
僕は学園の敷地内での戦闘を思い返してみたが、飛び交う心の力とそれを扱う人達。
最初は純粋な争いのみだと思ったが、印象としてはまるで御祭りの様にも思えた。
聖なる戦い、聖戦。その名の通りある意味では戦いに於ける御祭りであっているのだろう。
「エンゼル、やっぱり学園で狙われてたのって誰かの怨みなのかな。」
「っそうだねー、どちらかと言うと試されてたんじゃないかな。そうでしょ、眼鏡くん?」
彼女が眼鏡くんと呼ぶと僕達の後ろから、この路地に一人の少年が姿を現した。
その人物は第2のコクマーの神徒のヨッド・ラジエルという眼鏡を掛けた少年だ。
「あれ、ボクの事気付かれてたんだ。わざわざ心の性質を変え違う攻撃をしていたのに。」
心の性質を変える? 人一人の心は生まれつき決まった特徴と色合いを持っているのに彼は心を変えることができるのか。そんな疑問が僕の頭に思い浮かんだ。
「どういうつもりかな、わざわざ私達を狙うなんて?」
「心力学の時に魅せた君達の心装具に興味があってね、少しばかり試してみようと思っただけだよ。」
知的好奇心による物だろうか、その少年は眼鏡越しに眼を光らせて、まるで玩具を見つけた子供の様に嬉々として語り始める。
「今まで見たことが無いタイプの心装具だよ、君達は。僕やエルみたく物離型でもなくニャルの様な装備型でも無い、例えるなら憑依に近いモノだ。それも天使の翼の様な代物……。」
彼は自分の言葉で話しているせいか僕には理解できなかった、だが僕と彼女の心装具が何かしら特別なモノという認識だけはすることができた。
「それで、眼鏡くんは何が知りたいのかな?」
「僕が知りたいのは世界さ、その為に君達の心装具が何かの手掛りになるかと思ってね。」
そして語り終えた少年は、物静かに目的の遂行する為の強行を唱え始める。
「解読させてもらうよ! 知識の海に沈むは世界の心理、全てのモノを解読せし天より抱きし聖書、ボクの心の姿を具現化せ。」
光と共に現れた心装具は書物だった、彼はそれを片手に僕達の目の前へと立ちはだかった。
「私の傍を離れないでね、シフォン。って言っても君はもう大丈夫そうだけど。念の為ね!」
「はい、僕は大丈夫だけど。それよりも彼に僕達の心装具を見てあげれば丸く収まるんじゃないんですか?」
「……確かに。でも、ただで見せるのもちょっと癪じゃない? さっきも攻撃してきた訳なんだし!」
そう言うと彼女は僕の手を取り心装具の光を纏い、翼を現した。
いつ見ても綺麗だ、彼女の髪と同じ色をした白銀の羽根を持つ三対六枚の白翼。
「って、そうだ。見惚れてないで僕も出さないと。」
僕の手を取った彼女の手を握り返し、僕は心装具を現した。
彼女と比べると黒くまるで汚れている様な僕の髪と同じ色をした漆黒の羽根を持つ三対六枚の黒翼。
「それじゃあ、行くよ。手加減はするが目的の為には手段を選ばないよボクは!」
ヨッドは書を開いて何かを読み漁るように頁に眼を通し、そして唱えた。
「風よ、敵を制圧しろ! 火よ、敵を打ち払え! 水よ、敵を叩き上げろ! 雷よ、敵を撃ち砕け。」
すると彼の持つ書から火の連弾、水の水塊、雷のいかずち、風の竜巻が同時に僕達を襲った。
「えぇぇ、めちゃくちゃじゃないですか!? って、これって学園で僕達を襲った時より心の力の威力が格段に上がってますよ。」
エンゼルの心による防御壁が無ければ一発で吹き飛ばされダウンしていただろう。
「ぐぬぬ、さすが眼鏡くん。人の力を読み解いて自分の力として使える心装具!」
なるほど、彼の心装具は他人の心の力を自分の物として扱える様な力を持っていたのか。だから学園では別々の心の力が僕らに目掛けて飛んできた訳か。
エンゼルの心の壁の御陰で耐えてる僕達だが、食らいっ放しだとエンゼルの心の残量が危ないと思いすぐに僕は行動に移った。
「ヨッドさん先に謝って置きます、ごめんなさい! 僕の心の力を受けてください。」
手に心の力を集中させて重圧を対象に向けて放つ、彼に向けて僕は力を発動した。
地面へと叩き付ける力が行使される、そしてヨッドは地面へと膝を付いた。
「ぐあっ……ッ!? へえ。こっ、これは……重力に近い何か。き……興味深いね、でも――――」
一度は地面へと膝を付き彼を抑え込んだと思ったが僕の力を受けつつも、すぐに起き上がった。
「ふぅ、その力は原理さえわかればボクにとっては何の意味を成さないよ。僕に対して重力がプラスされたのなら、同じ力で逆に力を還元し作用させれば良い事だ。」
力の反転、僕が必死になって思い付いた事を軽く成し遂げた彼に驚きを隠せないでいた。
「君は新入生だったね。もっと自分の力について、よく考えるんだね。お返しだよ!」
彼はこちらに手を向け僕と同じ事を遣り返そうとしている?
だけど、僕はその力はエンゼルの心の壁には影響しない―――はずだった。
「っきゃ!? 嘘、ちょっと、これが君の感じる重さの力なの!? こ、これは……き、厳しいね。」
「えっ、エンゼルさん。影響を受けるんですか!?」
僕の心は彼女に対して影響はしなかったはずなのに、彼――ヨッドが執り行った重圧による力の行使は彼女に影響を及ぼした。
「あんまり調子に乗るんじゃないの――ッよ!」
エンゼルは手を空を振り払い全てを弾き飛ばす視えない何かをヨッドに向けて飛ばした。
「それは何度も見たことあるよ、君は有名だったから――ねッ!」
ヨッドも目の前の空を手を振り払い何かを飛ばすような仕草をした。その瞬間、僕等と彼の間で何かが衝突した力の衝撃を感じ取った。
「ちょっと、そこまで真似できるなんて、貴方の心装具って卑怯すぎるでしょ!」
「そうでもないさ、僕は他人の力を行使できても要領良くできたり効率化は無理だ。それに完全に再現できてる訳じゃないよ、まぁそれでも弱い人のなら僕の心が上回るだろうけどね。」
「むっかー! 私達が弱いって言いたいの!?」
どうやら彼は完全に同じ力を扱いこなせる訳じゃないみたいだ、それなら心の力をもっと上げて彼が届かない強さまで持って行けば通用するはずだ。
「それを聞いて安心しました、手加減できませんよ! もう一度、僕の心の力を喰らって下さい!」
再度、手に力を集中し彼に向けて放った。先程とは比べ物にならないくらいの力を込めて。
「ッ!? っぐぅ、な……なるほどね、考えたじゃないか……。確かに心の力を上げれば僕じゃ扱いきれない強さになる訳だけど、でもまだ君の力の前では動けるレベルさ。」
「エンゼル、今だ。彼に心の力を当てて。」
「なーるほど、任せて!」
「何だってっ!?」
元々は二対一の関係だ、僕が力を行使することで彼はそれを抑えるのに精一杯になるはず。そこにもう一人の彼女の力が向かえば彼はどちらかを対処しきれず心の力の容量の限界を超える。
「しまっ――――ぐぁっ!!」
彼はエンゼルの心の力を受けて大きく後方へと弾き飛ばされた。
「って、エンゼル。手加減しないと!?」
「えー、ちゃんと手加減したよー。」
僕と彼女は急いで彼の下へと駆け寄って無事を確かめた。
「良かった、無事だったみたいだね。怪我もしてないし。」
「当たり前だ、ボクを誰だと思ってる。それに弾き飛ばす攻撃が当たる寸前に君は力を緩めてくれただろ。」
どうやら気付かれた様だった、彼に攻撃が当たる寸前に僕は力を緩めた。もし弾き飛ばされた衝撃で彼が僕の力に対抗できなければ押し潰す力による事故が起こりえたから。
「まあいい、今回は僕の負けだ。諦めるよ、だが次こそは君達の心装具を――」
「あの、その事ですけど僕の見ますか?」
僕は背を向けて漆黒の翼を彼に手に宛がえた、すると彼はきょとんとした様子で目を丸くしていた。
「え、いいのかい?」
「はい。実はさっきの戦闘で僕の力に関するヒントを貰えたので、そのお礼に。」
「そ、そうか、そうだな。ボクは人に物を教えるのが上手いってよく言われるんだ。それじゃ遠慮なく。」
よくわからない言い分を述べると、彼は僕の翼に触れて色々と質問をして来た。
「感覚はあるのかい?」
「ええ、ある程度は。何かが当たってるてのはわかります。」
「自分で動かせる?」
「はい、まだ慣れてないですけど軽くなら。」
「一枚、羽根を取ってみてもいいかな?」
「え、それはちょっと怖いですけど、ゆっくりならどうぞ。」
ヨッドは僕の翼を触れ羽根を一枚抜き取った。すると一瞬の光の煌めきを魅せてすぐに消えて失くなった。
「ふむ、やっぱりそうだ。普通の心装具とは違うのが一目瞭然、ましてや感覚まで持っているなんて。それでこの心装具はどんな力を使えるんだい?」
「まだはっきりとしてないんですけど心の力を補助したり、心の想いを描く力を持っているみたいです。」
「心の想いを描く力……」
それを聞いたヨッドは何かを考えるような素振りを見せて、少しの間だけ沈黙を保った。
「ねえ、眼鏡くん。私達、塔へ向かいたいんだけどそろそろいいかなー、暇だよー。」
痺れを切らしたのかエンゼルがヨッドに向けて提言するとヨッドはあっさりと引き下がった。
「ああ、ごめんよ。少し考え事をしていた。そうだった、今は聖戦だったね。もう大丈夫だよ、感謝する。えっとシフォン・ケーキだったかな?」
「はい。どういたしまして。」
そしてシフォンとエンゼルは再び塔へと向けて聖戦に赴く事にした。その2人の後ろ姿を見詰めるヨッド、彼はこの時に何を考えていたのだろうか。
「心の想いを描く力……2人の天使……心の力によって生み出された世界……か……」
塔の全貌が見えないほどまで近づいて来た僕達は、そこへ辿り着くまでに大した戦闘は無く難なくと塔へと順調に向かって行けた。
このまま2人で願いを叶えられそうな錯覚を覚えるほどの距離まで――――
「シフォン、もしも塔に付いて天上の浮島で願いを叶えることができたらさ。私と一緒に天使になってくれるの?」
「もちろん、僕は何処までも君に付いて行くよ。」
あれ、僕はこんな遣り取りを昔にもした事があるような、気のせいかな?
「本当に? 人間じゃ無くなっちゃうんだよ?」
「それでも、ずっとエンゼルといられるなら大丈夫。」
あれ、私はこんな遣り取りを昔にもした事があるような、気のせいかな?
「実はエンゼルと初めて会った時から、ずっと昔から一緒にいた様な気がしてならないんだ。」
「私も、君といるとそんな錯覚?――いや、感覚の様な物に捉われるんだ。なんでだろう?」
実は前世で会っていたとか、そういった運命的な出会いなのだろうか。
彼女にそんな事を言ったら笑われるだろうか、それとも納得するのだろうかどっちだろう。
「あっ――見て、シフォン。塔の扉が見える……」
「本当だ、ここまで……来たんですね。」
僕達は塔の入口が見える位置まで来ると思わず立ち止まり躊躇った。
本当に塔まで来れて、そして願いを叶える。そんな事ができるのか不思議に思えてならない。
「うおーい、塔だぜ。俺たち一番最初に塔に着いたんだぜ!」
「ラッキーだな、神徒達より早く来れるなんてついてるな。」
どうやら別の道順から来た他の生徒が二人、塔の扉へと走り寄っている姿が見えた。
「あっ、エンゼル。僕達もこんな所で眺めてないで塔に向かおう!」
「え、う、うん。そうだね! いけない、いけない。――――って、何あれ?」
突然、扉の近くに大きくうねった動きを持つ白い人形と黒の人形のようなモノが現れ塔の扉へ近寄る生徒達の前に立ち塞がった。
「おいおい、何だこれ。塔の門番か? 俺達が一番だ、さぁ、開けてくれ。」
何を勘違いしたのか生徒はその得体の知れない白と黒の二体の人形相手に塔の扉を開けるようにと命令した。
だが次の瞬間それは間違えだった思わされる事となった、人形は生徒の心臓に目掛けて手を伸ばしたのだった。
「ぐああ、何だ、うわああああ、俺の身体の中に手が!?」
生徒の身体を貫通して、まるで人形は心臓だけを取り除こうとする行為に走った。
「お、おい、だ、大丈夫か!? 待ってろ今助け―――っああああああ。」
もう一体の人形が、もう一人の生徒の心臓に手を伸ばした。二人の生徒は宙に持ち上げられて心臓を鷲掴みにされている状態へとなった。
そして生徒の心臓から光を吸収していく様に見えた手は何かを奪っていった。
その一部始終を見ていたシフォンとエンゼルはその驚くべき光景に目を奪われ何もできずにいた。
「た、助けないと……」
僕は一言だけ言葉を発した。
「そ、そうだ、助けなきゃ。行くよ、シフォン! あれに近づいちゃ駄目だからね。」
「エンゼル、そしたら遠くから攻撃してみよう。それと人形の動きが素早いかも知れないから気をつけよう。」
僕達は見て感じてわかる限りの事を御互いに警戒を呼びかけ、急いで生徒達の近くへと回り込んだ。
僕は黒の人形に押し潰す力を、彼女は白の人形に弾き飛ばす力を。
すると心の力を受けたどちらの人形も溶けて消えてしまった。
「消えた……?――そうだ、さっきの生徒達は大丈夫なの?」
僕とエンゼルが生徒の下へ駆け寄り身体を起こしてあげると生きてはいるみたいだった。
「何だ、無事じゃない。あーあ、心配して損した!――って、あれ? 反応が無い……」
二人の生徒は外傷も無く生きてはいる物の虚ろな瞳をして無反応である。
まるで心が失った人形の様に――――
この時の聖戦はこれで終わった、だがここから問題が始まった。
――これから世界が変わる、僕達の周りに変化が起きようとしているのだ。――




