心装具の日
目覚めの朝、シフォンは自室のベッドの上で混乱していた。
昨日の心力学の授業中に心装具を具現化させ気絶した後の事だ。
学園の医務室へ運ばれ、そして目覚めた夜。僕とエンゼルは一緒に寮へと帰路に立ち、自分達の寮の自室へと戻って別れたはずだった。
それなのに、どうしてか彼女が僕の隣で一緒に眠っており共に朝を迎えている。
最近エンゼルと一緒にいる事が多すぎて夢見てるのかな?
「夢ならこの上ない機会だ、彼女の髪を撫でまくろう……。」
またとない機会に僕は全力で願望が発現された。
「この感触、手触り。うん、間違いない夢じゃないや……。」
満足してから夢でない事を確認する僕は中々の卑怯者だと自分で思った。
でも、どうして彼女が隣で寝ているのだろう?
また部屋の鍵を閉め忘れている所と制服を着ているのを見ると、彼女は恐らく僕と一緒にまた学園に行こうと誘いに部屋に入って来たのだろうか。
「えっち。」
「――――っ!?」
心臓が破裂しそうな位に驚いた、どうやら彼女は狸寝入りをしていたのだった。
「また、部屋の鍵を閉め忘れたでしょ。それに君って意外と紳士的なんだね、何をしてくるかなってドキドキしてたけどまさか髪を撫でてくるだなんて。」
「お、おはようございます……。あの、もしかして僕って試されてました……?」
彼女は肯定の意味で捉えられる様な微笑みをしながら、僕の髪を撫で返してきた。
「ふふふ、そうだよ。君がどれだけむっつりなのかチェックしてたんだ。」
何とも人が悪い。それにエンゼルほどの美貌を持ち主が、それを餌に男に与え試すなんてずるい。
普通の男であれば間違いなく、間違いを起こしていただろう。
僕で良かった。
「それで、そのチェック。僕は合格でしたか……?」
「うーん、紳士的な意味合いだったら合格だけど。男の子としての度胸は不合格だね!」
彼女は一体、僕に何をしたら満足だったのか不明である。
そして、彼女はベッドから起き上がると僕に向けて本来の目的を切り出した。
「さてと、今日も一緒に学園に行こう!」
それが本題であったかと、やっぱりという形で僕は納得した。
そして僕は、前と同じ彼女の目の前で朝の支度と着替えをしてから一緒に部屋を出たのだった。
「今日も朝食は街のお店で済ませるんですか?」
「うーん、それもいいけど今日は寮の食堂を使ってみようかなって。」
驚いた。人目を避けていた彼女が、一番生徒の目が集まるであろう寮の食堂を場所として選んだ。
昨日の面白可笑しな記事の一件で選択の余地ができたという事なのだろうか、それはそれで喜ばしいことだと僕はとても思う。
「今のエンゼルならきっと大丈夫ですよね。わかりました、行ってみましょう!」
「ねえねえ。呼び名変えたのに、その堅苦しい喋り方はどうかなって思うんだけど。直してねー?」
「えーっと、努力しま――努力する……です。」
しばらくは無理そうだ、癖になっている事はすぐには変えられそうにない。
やれやれといった様子で彼女はそのまま寮の食堂へと僕を連れ、歩いていった。
「へぇー、ここが食堂か。寮に住んでいるのに初めて来たよー。」
「街のお店とかと引けを取らないレベルの美味しさですよ、メニューも豊富ですし。」
相変わらずの生徒で賑わっている食堂である。
噂に名高い第6のティファレトの神徒がいるにしても特に騒ぎなどは起きず、当然の事みたく大丈夫な感じだった。
朝の忙しい時間帯にわざわざ周囲を確認見る生徒などいないだけかもしれないが、以前だったらちょっとした問題にでもなって良い事の一つだったはずなのに。
『きゃー、あの二人よ。朝から、一緒だなんて! 羨ましい、私も彼氏欲しい……』
『熱い熱い、さすが人を変えるだけの力を持ったカップルね! 侮れないわ……』
『ぐぬぬ、俺の恋心をぉ……。この恨み晴らさんでおくべきかぁー。』
訂正、ちょっとした騒ぎになってるかもしれない。
「それじゃ、メニューに選んでささっと食べて学園に行きましょー。」
「はい。」
僕達が適当に料理を選び、席を選び向かおうとするとエンゼルが気がついたように声を出した。
「あれ、あの黒髪の可愛い子。シフォンの友達のジェラちゃんじゃない?」
「ええっと、どこですか?――あ、本当だ。」
指摘された通りの人物だと確認してから、僕と彼女でジェラさんの席の下へと向かった。
「おはようございます、ジェラさん。席失礼しますね。」
「おはよー、ジェラちゃん。一緒に食べよー。」
「……御二人とも仲が良いんですね。……おはようございます。」
昨日の記事の件もあってか早々に二人でいる事に対して突っ込まれた。
「……第6のティファレトの神徒がこの場所を利用するなんて、昨日の可笑しな一件で今までの負が拭払されましたか?」
「うーん、まぁ関係ない人達に取ってはそうかもしれないけど。私と直接ぶつかっちゃった人はそういう訳にも行かないんじゃないかな。」
朝から何とも心配事の多い話をしていることだ。
「って、あれその胸に着けてる徽章は第8のホドの信徒の証じゃない。ジェラちゃん、信徒になったんだ。昨日は着けてなかったのに。」
「えっ?――本当だ、胸章が着いてる。お兄さんに言われたとおり信徒になったんだね、ジェラさん。」
「……ええ、兄さんがうるさいから仕方が無く。」
そうは言ってる物の何所か満足気な彼女だった、うるさい兄から解放された為だろうか。
「そうだ、フェンは信徒になった?」
「……わからない。……私が信徒になった時点では彼は信徒になってなかったわ。」
「そっか。」
そう単純に決める事では無い物だとわかっているからこそ、シフォンは淡白とした返事になった。
「……それじゃあ、私。……今日は部屋で本を読むことにするから自分の部屋に戻る。」
ジェラは食事を終えると立ち上がり、自身の今日の予定を口に出して去っていった。
何とも自然体な人だ。
どうやら今日は学園を休むようだ、この学園の自由さは彼女自身に合っているように思える。
「あらら、ジェラちゃん行っちゃった。今日は学園休むのかー。まぁ、そんな日もあるよね。」
「僕達はこの後、そのまま学園だね。今日の予定はどうするんですか?」
今日の学園での予定を任せ、彼女に聞いてみた。
「そうだねー……。授業も良いけど、ちょっと試したい事があるから最初は屋上かな!」
「試したい事……? それはいったい何です?」
「それはその時のお楽しみ!」
何をするかわからないが、彼女に任せた以上は従おう。それにエンゼルのすることなら僕は何だって協力するつもりだ。
そして食事を終えた僕達は学園へと向かった。
「君はシフォン・ケーキ君だね?」
学園に着いた頃、門前で講師であろう人に呼び止められた僕。
「はい、そうです。えっと、何かご用件でも……?」
「ああ、いや何、別に問題があって呼び止めてる訳では無いから身構えないでくれ。学園長が君に用があると仰っていたのでね、それで君が来るのを待っていたんだ。」
「学園長が……?」
特に新入生の挨拶をして以来、これと言った接点も無い僕だったから呼び出される事に疑問に思った。
「そういう訳だから、この後は学園長を訪ねる様に! 私は伝えたぞ、それではな。」
そう言うと講師の人は学舎の方へと去って行った。
「学園長に呼び出し……。もしかして、”あれ”かな? でも、流石に早過ぎる気もするから違うかな。」
「エンゼルは何か知ってる? 僕が呼ばれた理由を。」
「うーん、たぶんね。何はともあれ行って見ればわかるでしょ、私は先に屋上で待ってるよ!」
含みのある言い方をして彼女は一足先に屋上へと向かって行った。
取り残された僕はただ学園長室へ行くまでの間、ひたすら意味も無く何の用件なのかを考えていた。
「学園長、シフォン・ケーキです。失礼します!」
呼び出されたこともあってシフォンは相手の返答を待たず、扉を叩いてそのまま入室した。
学園長室には本来いるべきはずの学長本人はいなかった。代わりに、そこには車椅子に座っている少女が1人佇んでいた。
「あれ、君はエンゼル――――」
いや、違う。僕は何を言っているんだ、纏う雰囲気、ましてや容姿が全然違う車椅子の少女に僕は何故に彼女をエンゼルと見間違えたんだろう?
この少女は学園長の身内の子なのだろうか、それとも呼ばれた生徒かな。
わからない、とりあえず彼女に学長の居場所を聞いてみよう。
「あの、学園長が何処にいるか知りませんか?」
「……」
僕の方へ振り向き反応を示すが、その少女は喋らない。寡黙な車椅子の少女だ。
困った、呼ばれたのに学園長がいないんじゃどうしようも無い。出直してくるか……。
「……お父さん。」
「――――えっ?」
車椅子の少女はただ一言だけ、お父さんと言葉を発した。
すると次の瞬間、この部屋の扉が開き学園長が入ってきた。
「イヴ待たせて、ごめ――――ッ! 君はシフォンくんか。そうか来ていたんだね……。」
「あっ、すみません、学園長。勝手に入室してしまって。」
「いや、何。私が呼び立てたのだよ、気にする事は無い。少し待っていてくれないかな。」
そう言うと学長は車椅子の少女、イヴと呼んだ少女を隣室へと連れて行った。
そして再び僕の前へと戻ってきた。
「シフォンくん、君は彼女と何か話をしたかい?」
「いえ、特には。学園長の居所を聞いてみたのですが、どうやらわからない様子でしたので。」
「そうか……。彼女は少し不自由な所があってね、両親はいなく私が父親代わりなのだよ。」
だから彼女はお父さんと発言したのだろうか、学園長が入室するのをわかって?
「それはそうと、実は君に話があってだね。講師の人から聞いたのだが、君とエンゼルくんが心装具を具現化させたと報告を受けたのだが間違いないかね?」
「はい、確かに昨日、初めてそれらしいモノが具現化されましたけど……」
正直な所、あれが僕の心装具なのか、まだ理解できていない。
そもそもそんな簡単に出せるモノなのだろうか。
「心の力で形あるモノを創り出したのだ、自信を持っていい。それは心装具だよ。」
学園長は白長い顎鬚を自分で撫でながら楽しそうに笑っていた。
「それでだ、本題に入るとしよう。新入生で日の浅い君がここまで心を出すなど予想外なのだ、君には神徒の資格があると私は思うのだよ。」
「えっ――――僕が神徒ですか!?」
僕が10人の神徒の内の1人に選ばれるだなんて……。
そうなると誰かが神徒では無くなるのだろか僕のせいで、それはその人に悪い事をしてしまうみたいで嫌だな。
「うむ。だが今期の神徒達は皆粒揃いでな、誰かを落してしまうのは実に惜しいと私は思う。だから君には新しい神徒として、これから天使の数字を冠して貰おうと思う。」
良かった、僕のせいで誰かがいなくなるそんな風に思う事は無くなったんだ。
僕は新しい神徒として、つまり11人目の神徒になるのか。
「君はこれから”第11のダアトを冠する神徒”として学園生活を送るように。」
これから僕が神徒になる事で何かが起きなければ良いのだけど、どうも僕は不安や心配事が先に考えを起こしてしまう性格が恨めしい。
でも、これでエンゼルと同じ神徒なんだ。彼女と一緒な事柄、それだけでとても嬉しく感じる。
「君の願い、そして掲げる思想を一番に考え。常に精進を忘れぬよう心掛ける様に、頑張るのだ。」
「はい、ありがとうございます。」
話を終えると僕は部屋を退出してエンゼルが待っている屋上へと向かった。
僕が新たな神徒になった事が報告したくて駆け足になっている。
「エンゼル! 僕が新しい神徒に選ばれたよ!」
「うーん……――――あっ、シフォン。やっぱり神徒についての話だったんだ。」
屋上の扉を開き、飛び出した先には僕の神徒になった事を理解している様子で薄い反応を示していた彼女のがいた。
その原因として何かに悩んでいる様だった。
「うん、そうだけど。どうしたんですか? 何か悩んでるみたいだけど。」
「あ、うん。それがね、心装具が出せなくなってるんだよね。」
それは由々しき問題だ。
彼女はともかく僕までも出せなくなったとしてたら神徒として選ばれた理由が無くなってしまう。
「そ、それは大変じゃないですか!? ちょっと僕も試してみます。」
確か、まず心臓に手を当てて……。あの時は確かエンゼルの力になれるように強く願っていたはずだ、それを想い出そう。
――君に触れたい、それが僕の力になる。――
そうだ。この心の声が聞こえてきたんだ、君を求め触れたいと願う心の欲求。
「エンゼルさん、手を貸して貰って良いですか?」
「えっ? 手? 手なら別に――はい。」
彼女は僕の前に手を差し出した、それに僕は触れた。
すると黒い光が僕の心臓に集まり始めた。そしてその光は線状に弾け飛び身体を包み込むよう背中に回り纏い収束して、漆黒の翼を創り出した。
その翼は現れると同時に軽く羽ばたきを魅せた。
「……できたっ!」
シフォンは心装具を再び出せた事に喜びと安堵を色を表した。
「す、っ凄い、やっぱり何度見ても天使の翼みたいだね……。それにしても何で君はちゃんと、心装具を使えたんだろう?」
彼女は僕の羽根に触れながら疑問を抱いた。
「たぶんですけど、強い想いと言うか願いか何か目的が無いと駄目なんだと思います。」
「うーん、それなら試したはずなんだけどな。もう一度やってみようかな。」
彼女は僕と同じ様に心臓に片方の手を当てて、静かに目を瞑り強く想い願っているようだった。
「あれっ――聴こえてくる……? シフォン、君の手を貸して……。」
不思議だった、彼女の心の声も僕と同じで誰かに触れなければならないのか。いや、僕達の心は御互いを求めているのだろうか? 僕はそんな考えをしつつも手を伸ばし彼女に触れたあげた。
すると先程の僕と同じ様に光が彼女の心臓に集まり弾け、背中に白い光が集まりだすと白銀の翼を創り出した。
「私もできた……。何でだろう1人の時は何度やってもできなかったのに君が傍にいると心の声が聴こえて来た。」
「たぶん心の安定剤みたいな物じゃないですか? 誰かが傍に人いると安心できるみたいな。」
僕がそれらしい事を言って見るが彼女は何処か納得できていない様子で首を傾げていた。
「まぁ、いいや。実は試したいことってのは、この心装具だったんだ。」
彼女が、これで心装具で色々な事を試せると興奮しているみたいだった。その喜びを見せていると同時に、翼までその心を表してか揺れ動き羽ばたいて喜んでいた。
「これって見てて思うんだけど、天使の翼じゃない? だったら空を飛べるんじゃないかなって思ったんだけど、試してみない?」
「空ですか、でも、飛び方なんてわからないですよ?」
彼女の言ってることは尤もだった、翼である以上はその果たすべき役割は飛ぶことのはず。だけど、天使ならともかく僕達は人間だ。ましてや鳥のように空を飛ぶことを知っている訳でもない。
「あ、浮いた。」
「え?」
僕の否定的な考えの全てが否定された、彼女は少しだけだが宙に浮いている状態になっている。
「ちょ、ちょっと、どうやったんですか!?」
「いやー、何だか空をもっと近くで見たいなーって思ったら少し浮いちゃった。」
浮いちゃったってそんな軽い話ではない、人が自力で空に浮くほどの心の力なんて聞いたことが無い。
第7のネツァクの神徒のニャルさんだって空中で跳んでいるのが精一杯なはず。
「あ、心で想像するとその通りに動けるみたい。君もやってみなよ。」
「心で……」
空に飛ぶ、宙に浮くように? そういえば、夢で空に浮いてる様な感覚が再現されてたような。
それを思い出してみよう。
僕は暫く想像を膨らませ、あの時の感覚を思い出していた。
「ん~! 駄目だ、飛べないみたいです。僕のは違うやり方なんですかね?」
「えー、勿体無いなぁ。君と飛べたら楽しそうだったのに。そうだ、私ちょっと何処まで空を飛べるのか試してみるね!」
彼女のはもう要領を得たのか、滑らかな動きで低空で移動しながら浮いていた。
「ちょ、ちょっと危ないですって! まだ、初めての事ばかりでわかってないんですから。」
「だーいじょうぶだよ。」
シフォンの制止に聞く耳を持たず、そのまま空へと昇って行った。
この時、僕は酷く嫌な予感をしていた。
「エンゼル、危ないよー!」
「平気だよー! 空が近くて良い風、本当に素敵。」
速度はそれほど速くは無いが、すぐに数十メートルほどの距離まで達していた。
そしてその予感はすぐに悪い方向に見事に的中した。ある一定の距離の所で僕たちの心装具は突然、光が弾けそして翼が消えた。
「えっ―――――」
「エンゼル!!」
僕は叫んだ。
この後の事を想像するだけで胸が張り裂けそうになる。彼女が怪我をする、いや命までも失う? そんな事は絶対に嫌だ、僕はこの刹那の時で自分ができる精一杯の事を考えた。
受け止める? いや、例えできたとしても怪我は免れないし命の保障も無い。それに失敗する可能性だってある。
僕の力は何の為にある、何ができる! ここで大切な人を助けられないでどうする。
押さえ付ける力が何の役に立つんだ、逆ならともかく――――
逆? そうだ、力の反転だ。力の向きを変えることができれば地面に叩き付けられる事なく人は逆に空へ向かうんじゃないか。
つまり宙に浮くって事だ、これなら彼女を助けられる。でも、僕と彼女の心の力は御互いに影響しない。
いや、できるできないじゃない。やるんだ!
「――っぐ!!」
自らの力を抑えるのを止める事で通常の負担が身体に圧し掛かりシフォンは地面へと打ち付けられそうになる。
この周囲を押し潰す力を逆向きに、空に向ければ……。
「きゃああああああああ――――――」
僕の頭上でどんどん彼女の声が大きく聞こえ始めてくる。距離が、時間がもう無い事を知らされる。
浮いてくれ、浮け! 宙に、空に!!
「頼む、できてくれ。奇跡でも何でも良い、彼女を助けるための力を!!」
その時だった、再びシフォンに心装具が背中に具現化れた。
それと同時に彼の想う心の力の運用が施された。その力は地へ押し潰し抑え付ける力では無くなり、逆の方向へ空に向かった力に変換され周囲に対して反重力を描いていた。
「…………浮いたっ! そうだ、エンゼルは大丈夫なのか!?」
僕が急いでエンゼルを確認すると、宙で静止し浮遊している状態になっている。
どうやら僕の心の力が彼女にも届いたみたいだ。
「良かった…… エンゼル、大丈夫なの!?」
「あ、あれ、私、確か墜ちて……それで、あれ浮いて……る……?」
状況を飲み込めずに混乱はしているみたいだったが怪我一つ無い状態で無事な様子だ。
僕は少しずつ力を抑え、ゆっくりと地面に彼女を降ろし僕も着地した。
「エンゼル!!」
僕は真っ先に彼女に抱きついた。
「わわっ、急に積極的だね。」
「本当に良かった、君に怪我一つ無くて……。どうしてあんな無茶をしたんだ、僕は言ったじゃないか危ないって……。」
「……うん。ごめんね、ありがとう……。」
僕は情けなくもこの時泣いていた、彼女が助けられた安堵感と僕の力で大切な人を護る事ができた嬉しさで。
その様子を察してか彼女は僕のことを抱き返してくれて、ずっと頭を撫でてくれた。
「落ち着いた……?」
「うん、取り乱してごめん……。でも、あんな事あってエンゼルの方が落ち着いてるっておかしいよ。」
「私は君が護ってくれたからね、心の余裕があるんだよ!」
「あはは――――」
彼女は良くわからない余裕を自慢気に披露された、それが何とも可笑しくて思わず笑ってしまった。
「でも、エンゼル。これからはあんな危険な事は止めて欲しい、今回はたまたま僕が上手く助けられたから良かった物の下手したら怪我じゃすまなかったんだよ。」
「うん、ごめんなさい……。」
彼女は顔を下に向けて、普段の陽気な態度からは見られない反省の色を見せた。
「でも、どうして君の心の力が私に届いたんだろう。普段は御互いの力は影響を受けてなかったのに……」
確かに彼女の言う通り僕達の心の力は御互いに作用しないはず、なのに今回は彼女を助ける上で僕の力が彼女にも届き影響したのは恐らく心装具の御陰だと僕は考えた。
寸前までエンゼルに僕の心の力は影響してなかった、それなのに翼が出た瞬間、想い描いた通りの力が発動して彼女までその力の影響を受けたのだから。
「これが心装具の力なんだと思う、自分の心が想い描いた通りの力が使える様になる。例えば、さっきエンゼルが空を飛びたいって想い描く力が強かったから空を飛べたように。」
きっと心装具は自身にある本来の力を補助して強め自由に想い描ける効果があるのだろう。
「そっか、心で想い描く力の象徴みたいな物なんだね! 心装具って。」
納得したように彼女は頷きながらご機嫌になったみたいだ。
「でも、どうして心装具が消えたりしたんだろう? 初めての時だって、急に光になって消えちゃったよね。」
「たぶんだけど、想い描いた事が強すぎて心の力を激しく消耗したせいなのかな。それに僕たちはまだ不安定だからってのもあると思うんだ。」
今の僕達にわかる事は全て推論による、憶測でしかない。
「はぁー、自由に空を飛べると想ったんだけどな。」
「焦らずにゆっくりやって慣れて行けば良いと思うよ。でも、あんな高い所まで無茶するのは駄目だからね。それと僕が傍にいる時だけにしてね!」
先程とは打って変わって落ち込みを見せる彼女を、諭すようにシフォンは忠告した。
「あははは、君って私の保護者みたい――――って、あっ鐘の音が聴こえる。」
「本当だ、聖戦の合図だ。」
心の底から響き聞こえてくる金の音、聖戦の始まりだ。
僕たちは周囲を確認して塔のある位置を確認した、すると学園から南西つまり元々この街の南西にある学園の位置からさらに南西を位置する場所。つまり距離的には近い場所に塔が現れたようだ。
「近いですね、エンゼル。聖戦に出ますか?」
「そうだね、またと無いチャンスかも。それに心装具を試すのにちょうど良い機会かも。」
そう、僕も同じ事を考えていた。心装具はどこまで僕達に自由な力を与えてくれるのか試したい衝動に駆られていた。
「ちなみに、学園から塔が近いって事はすでにここらは激戦区だから覚悟するんだよー。あはは―――」
激戦区なんて言葉を使ってるのにも関わらず、嬉しそうに笑う君を見ていると僕まで嬉しくなってくる。
彼女と一緒なら何だってできる、そんな錯覚を覚える僕は今回の聖戦を楽しみにしていたのだった。
きっと彼女も一緒なのだろう、僕と一緒なら何だって楽しい。そうだったら良いな。
――君の全てが僕の想い、そして大切な願い。失わせることは無い、たった1人の半身――




