涙の皮(ぬえ)を振り返れ
保健室から怒りを込めてずかずかと歩き出した桜子はまっすぐに特撮班の部室に向かった。
特撮班のある物置小屋の扉を開くと
「潮!!!」
そこにいるはずの親友を呼んだ。
「はぁぁ~い」
息を切らせて叫んだ桜子に天使のほほえみで潮が答えた。
「はぁぁい…ぢゃねぇ!!!もどってないぢゃねぇか!」
桜子の姿のまま扉に手をかけて湊が激高した。
「あんまり怒ると禿るよ」
潮が小首をかしげる。
「あのままの…あのままの姿か!?」
部長の本町が震える手の動きを制するかのように天を仰いだ。
「ぶ、ぶ・ちょう?」
あまりの薄気味悪さに桜子が扉から後ずさった。
「ふ…ふはははははははははははははははぁ!!天は我に天啓をあたえり!!」
―与えたくねぇ
桜子は部長の姿に冷静な気持ちを取り戻した。
「やはり、君がヒロイン!端高祭のヒロインだ!!」
部長が何かに捧げるように天に向かい両手を広げた。
部員からぱらぱらと拍手がわく。
「だから!そういうことじゃないでしょう!!!俺の体がこんなことになったんですよ!!!」
「で」
箒を持った部長が首をこきこき鳴らしながら湊を見た。
「…だからぁ、なんでヒロインなんですか!!!」
「え、見た目…って思うだろ?匠ちゃん」
匠が深々とうなずく。
「そこに俺の意志は!?」
「え???必要?」
ものすごく不思議そうに本町部長が言った。
「…まちがえた…くるとこ間違えた」
桜子が扉をささえにしながらくずれおちると部長はこきこきと首をならした。
「間違ってはいない!」
「そうですわ、本町様」
澄んだその声の主は蓑亀だった。
本格的に桜子の腰が砕けた。
「湊様には私とゆにっととやらをくんでいただきますわ」
「はぁ?」
「私達はここでヒロインになるのですわ」
大きな黒い目をきらきらさせて蓑亀が天を仰ぎ、効果音のまばらな拍手の中のを見て湊は自分の中の心の背骨が崩れ落ちるのを感じていた。




