6
――その昔、恐ろしいほどの力を持った魔法使いがいた。
彼は闇の魔法使いだった。
それだけではなく、心までもが邪悪だった。
彼は世界を恐怖に陥れようとした。
世界を闇に染め、悪を蔓延らせようとした。
人々は彼を恐れた。
しかしそれは、彼を余計に喜ばせるだけだった。
街は廃れ、草木は枯れた。
美しかった空の色も、川も湖も淀んだ色に変わった。
彼は言った。
『闇は全てを包み込み、やがて世界を灰塵と化す』
そしてその裂けたような赤く薄い唇が、弧を描くのだ。――
「その続きは?」
フィルが話し終えた後、アイリスは尋ねる。
同じような話を聞いたことがあるルークでさえ、その続きは思い出せなかった。
幼心には闇の魔法使いへの畏怖の念が強く残りすぎていて、話がどういう終結を迎えるのかを覚えていなかった。
「さあ?この手の昔話なら大抵誰かが闇の魔法使いを倒して、世界に平和が戻りましたって感じじゃないかな」
フィルはそう答えて両手を上げた。
「だけど実際のところは、闇の魔法使いの末裔だっていうアカ・マナフが存在してるからね。ただの作り話と誰かのイタズラなのかも」
そう言われても尚、アイリスは納得がいかないような顔をしていた。
「アカ・マナフ、闇の魔法使い、昔話、不思議な石…さっぱり理解できないわ」
アイリスはそう呟き、溜息をついた。
「…だけど、闇の棟で僕が見たり聞いたりしたことやこの石がただのイタズラだったとしたら、かなり悪質だな」
ポツリとルークが言った。
それで余計にアイリスの考えが纏まらなくなったようで、彼女はうーんと唸っている。
「とにかく。何か分かったらまた話すことにするわ。あなたたちも何か思い付くことがあったら教えて」