第25話 パトラーVSハンター=ベータ
私は魔法発生装置を振る。一筋の雷が異形の怪物、ハンター=ベータの頭を貫く。それで私に気がついたのか、ハンター=ベータは気を失ったフィルドさんの肩から爪を引き抜き、こっちに走って来る。
血を滴らせながら、こっちにやって来る怪物。私は自分とデミ・フィルドさんに物理シールドをかける。アイツの攻撃は物理攻撃だけだ。なら魔法シールドは必要ない!
「フィルドさんを……頼んだ。まだ生きてるハズだからっ」
私はデミ・フィルドさんにそう言うと、再び魔法発生装置を振る。水色のつぶてが飛び、ハンター=ベータの足元に着弾すると、鋭い氷の塊が槍のごとく飛び出し、彼の体を突き刺す。
その隙を突いてデミ・フィルドさんはハンター=ベータの遥か後ろで倒れているフィルドさんの元に向かった。
「来い!」
サブマシンガンを取りだすと、フラフラと立ち上がるハンター=ベータに向かって発砲する。何発もの銃弾が彼の体を撃ち抜いていく。
ダメージ量はそれほど多くないのかもしれないけど、意識をこっちに向けさせるのであれば充分だった。
「ぐぉぉぉッ!」
ハンター=ベータは雄叫びを上げると、体を白色に光らせ始める。……な、なに? 何する気?
「…………!」
一瞬の出来事――。ハンター=ベータの姿が消えた瞬間、私の体は大きく吹き飛ばされ、扉を背中を大きくぶつけ壊し、その後ろにまで吹き飛んだ!
さっきまで私がいた所にはなぜかハンター=ベータがいた。まさか、瞬間移動した……!? アイツ、ただ単にタフで強烈な物理攻撃を繰り返すだけじゃなかったの!?
「ぐッ……」
あまりの強烈な攻撃で私はその場に倒れ込む。激しい痛み。体がバラバラになってしまうんじゃないかって程の痛みに、涙が出そうになった。
そんな事をしている間にもハンター=ベータは走って来る。フィルドさんたちに気付いてないのはいいんだけど……。でも、私……!
「う、ぐっ……」
頬を涙で濡らしながらも魔法発生装置を振る。回復弾を自らに撃つと、震える脚でなんとか立ち上る。ここで倒れてる場合じゃない……!
ハンター=ベータは僅かに残っていた扉を破壊すると、狭く暗い内部通路に入ってきた。このエリアには多くの機械やタンクなどがあった。たぶん、発電・兵器製造工場だと思う。このエリアの奥には私とデミ・フィルドさんで止めた施設爆破装置のコントロールシステムがある。
「…………」
私は震える手で魔法発生装置を握りながら、後ずさる。ここでアイツの攻撃を喰らったら作業通路から落ちる。作業通路の下は暗くて見えない。どれだけ深いかは分からないけど……。
ハンター=ベータと私が歩くたびに金属の音が響き、通路が振動する。この通路、そんなに頑丈な造りじゃないな。下手な攻撃したら通路が壊れる。上手く使えるかな……?
「ぐぉぉッ!」
ハンター=ベータは雄叫びを上げると、急に走り出す。巨大な爪を振り上げて……! 私は素早く僅かに距離のあるベルトコンベアーに飛び移る。
上に乗っていた作りかけのバトル=アルファを背中で押し落とすと、私は魔法発生装置を振った。巨大な衝撃弾が飛び、ハンター=ベータの足元で着弾する。空気を振動させる強烈な爆音と共に、激しい音を立てながら通路は崩壊する。ハンター=ベータは暗闇の中に消えていった。
「やった……?」
だが、無情にも下はそんなに深くはなかった。割とすぐ近くでまた音が鳴り響く。通路とハンターB型が落ちた音が……!
大きくジャンプし、薄暗い空中に姿を現すのはハンター=ベータ。爪を振り上げ、私に向かって飛び込んで来る。私は、別のベルトコンベアーに飛び移る。ハンター=ベータは私のいた所に爪を突き刺す。ベルトコンベアーに大きくヒビが入る。
「なんて力……!」
今頃、彼に対してゾッとしながら私はベルトコンベアーから次の場所に乗り移ろうとジャンプする。
「…………!」
私は大きなミスを犯した。次に飛ぶ場所を詳しく見ないで飛んでしまった。たぶん、焦っていたのと、暗くて着地地点が見えていなかったせいだと思う。
着地したところは通路やベルトコンベアーではなく、何か四角形の大きな金属製のモノの中だった。おまけに何か入れているのか地面がデコボコしている。……柔らかい?
「ぐぉぉおお!」
ハンター=ベータの怒声と共にバトル=アルファが宙と飛ぶ。それらは壁や通路に叩きつけられ、バラバラになる。
たぶん、暗くてよく見えないから人型のモノを何もかも攻撃しているんだと思う。爪で弾き飛ばされるバトル=アルファ以外にも時々電撃や火炎弾のような音まで聞こえてくる。そして、通路や機械が壊れるような音まで……。
「ここは……?」
私は凸凹の地面に触れる。何か柔らかいものや毛のようなものまで指先に触れる。……人の顔? な、なんで人間の顔がっ……? 殺された人間をここに捨てた? じゃ、今私の足元にあるのはっ……!?
ガクガクと震えだす体。全身からイヤな汗を滲ませながら、生唾を飲み込み、私は魔法発生装置で小さな光を発生させ、それを見た。いや、見てしまった。
フィルドさん、気絶しといてよかったです――。




