第18話 クロント支部潜入
【クロント支部 付近】
冬の季節は終わり温かい春も過ぎていった。春の次、夏がやってきた。EF2010年7月。私はフィルドさんと共にこの地にやってきた。
政府代表に命令されたのがもう8ヶ月前にもなる。8ヶ月間、私たちは何も動くことが出来なかった。連合軍について調べても全く出て来ない。クロント支部が連合軍支部の1つだということしか分からない。
「フィルドさん、警備のバトル=アルファが……」
「お前なら大丈夫だ。この7ヶ月、頑張って来ただろ?」
私の肩にフィルドさんの手が乗せられる。私は彼女の顔を見て、少しだけ微笑む。そして、力強く頷いた。
私は封鎖区域テトラルでのような事にならないように必死で自分を鍛えた。これまでも頑張って来たケド、それよりも更に頑張ったつもり。
筋力、忍耐力、素早さ、魔法の適切な使い方、機械の使い方、射撃練習、魔物についての知識、世界地理……。あらゆる面で頑張ってきた。私は7ヶ月前より成長できたと思う。
「行きましょう。フィルドさん」
互い頷き合うと、大きなドーム状になっているクロント支部に向かう。私の視界の先にあるはクロント支部の正面入り口だった。
私たちに気がついた黒色をした人間型軍用兵器――バトル=アルファが集まってくる。その手にはアサルトライフル。政府軍以外のアサルトライフルの所持は禁止されてる。これだけで違法だ。
[止まれ]
黄色のラインが入ったバトル=コマンダーが声をかけてくる。私たちの周りにバトル=アルファが並ぶ。アサルトライフルの銃口が向けられていた。
フィルドさんと私は無言で赤色に太い黒のラインが入ったプラスチックカードを出す。連合軍のIDカード。政府代表から手渡された物だ。使えるといいけど、使えなかったら……。
私は祈るような気持ちでIDカードを渡す。バトル=コマンダーはそれを受け取ると裏側のバーコードを“目”で読み取る。
[ID認証。お役目、ご苦労様です]
彼(?)はそう言うと、IDカードを返す。そして、他のバトル=アルファたちと共に警備へと戻っていった。私は内心ニンマリとする。上手くいった!
でも、表情には出さなかった。私達は無表情のまま、正面ゲートへと向かう。鋼色のゲートは私たちが近づくと、自動で左右にスライドして開く。
いよいよクロント支部内部だ。財閥連合の施設じゃない。極秘組織かつ人間を実験体にせよ、と命令する組織の施設だ。危険度は封鎖区域テトラルと変わらない。いや、それよりも高い。常に周りに気を配り、尚且つ慎重に、慎重に……!
【クロント支部 1階】
灰色の金属床。壁の方は少しは白い。そこもきっと金属で造られている。廊下の広さはそこそこある。大体左右に4メートルほどだろうか。上下には3メートルほど。
一定間隔にある部屋。扉は全て金属で出来ている。どれもドアのようにノブがあるタイプではなく、自動ドアのように左右にスライドする扉だ。色は全て濃い灰色。扉の上にはランプ。ほとんどの扉が緑色になっていた。
「フィルドさん、あの部屋、第3研究室とありますが……」
「研究室か。行ってみるか」
私とフィルドさんはプレートに研究室と書かれた部屋に向かう。連合軍の研究……。何をしているのかは知りたくないけど、行くしかない。知らないと連合軍を倒せない。
幸いなことにこの研究室はキーロックされていなかった。近づいただけで扉は左右にスライドして開いた。私たちは意を決して中に入って行く。
中に入ってまず目に飛び込んできたのは部屋の奥に並べられた丸い水槽。円柱をした薄緑の水槽がずらっと並べられていた。
「…………?」
水槽の中には薄く土色をした小さな肉の塊みたいなモノが入っている。それは中の液体を吸収しているのかブヨブヨだった。気持ち悪っ……。
私は水槽から目を逸らし、部屋の中央に置かれた机の方を見る。たくさんの紙が乗っている。私はその数枚を手に取り読んでみるが、意味は全く理解できなかった。
複雑な記号が並び(もしかして計算式?)、それと共に理解不能な説明文が連なっている。聞いた事のない名前や薬品名、生体名……。
「興味深いが……いまいち分からんな。別の部屋に行こう」
「そうですね」
私は手に持った理解不能な内容がびっしりと書かれたA4サイズの紙を戻すと、扉を開けて研究室から出る。廊下に出るとフィルドさんは言った。
「ここは手分けして捜索するか?」
「え? 二手に分かれるんですか?」
「そうだ。分かれて捜索した方が手っ取り早いだろう」
私はフィルドさんと分かれて捜索するのにはあまり気が進まなかった。やっぱり、恐怖や不安があったんだと思う。でも、私は反対はしなかった。
「じゃ、頼んだぞ」
「任せて!」
フィルドさんとは違う方向へと足を進める。
私が反対しなかったのはフィルドさんの役に立ちたかったからだ。今、どうすれば役立てるか? もしそう聞かれたら二手に分かれて捜索する、と私は答えるだろう。だって、それが一番役に立つのだから。
胸の恐怖と不安を抑え、私は足を進める。フィルドさんの役に立つために……。