第62話 兄弟の死闘の行方は……ですわ?
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明日は更新をお休みします。
次回は2月19日(木)18:30となりますので、今後ともよろしくお願いします。
結局、慌ただしかった週末が明け、また新しい一週間が始まる。
すっかりレナードはジュスティーヌに懐いてしまったようで、朝も寮のロビーでカイトと共にジュスティーヌを待ち構えていた。
「朝日のように光り輝く愛しい妻よー! あなたがいると思うとなんともすがすがしい朝だ!」
レナードがそういうと、すがすがしさとは程遠かった曇天模様の空は、その暗雲の重みに耐えかねたかのように雨を降らせた。ほとんど疫病神のような存在のレナードである。
そして、もう一つ、天変地異が起きるかもしれない事態が。なんとあのレナードが制服を着ているではないか。腕も胸も筋肉がムキムキすぎて、めちゃくちゃ窮屈そうではあり、今にも胸のボタンもはじけ飛びそうではあったが。
レナードが制服を着ている、ということは、しばらくはどこかに行かずに大人しく授業にでるつもりがあるということにほかならない。他の生徒たちにしてみると、ある意味恐怖である。
「姫様、俺が傘をお持ちしますので、どうぞこちらへ」
護衛騎士のセドリックが傘を差し出す。
「セドリック先輩は校舎が違いますよね? ジュスティーヌ姫、よかったら僕の傘に入らないかい?」
カイトの言葉に周りにいた者は少し驚いた。セドリックはともかく、カイトが積極的に女性を自らの傘に誘うなんて。これだけ見ると、なんだかセドリックとカイトがジュスティーヌを取り合っているみたいでもある。
「傘など不要だ!! スーパーヒーローである俺のウルトラスクリューボンバーな拳の風圧で、雨なんぞ地平の彼方まで吹き飛ばしてくれる! 妻よ! 俺の側にいれば雨に濡れないぞ!」
セドリックとカイトの間にあるのかないのかわからないほどの火花が飛び散る前に、レナードはパンチを繰り出した。確かに彼のパンチの風圧で数メートル先までの雨が数秒間、吹き飛んだ。だが、同時に他の生徒たちの傘やら何やらが吹き飛びそうになる。
「あの、レナード殿下、お気持ちはありがたいのですが、それだと雨に濡れる以上の被害が発生しそうなので、遠慮しますわ。カイト、レナード殿下をあなたの傘に入れて差し上げて」
そういうとジュスティーヌはセドリックの傘に入った。セドリックは自分が選ばれたことで、二人の王子に勝ったような気分で少しだけ誇らしかった。といっても、別にセドリックはジュスティーヌに惚れていたりはしないのだが。
一方、カイトは「遠慮は不要だ!」と無邪気に笑いながらガシガシ背中を叩いてくる兄を少しだけ睨みつけた。
「遠慮は不要って、僕が兄上を傘に入れて上げているんですけどね」
「はははっ、細かいことは気にするな、弟よ!」
申し込まれた決闘を拒否することも可能ではある。だが、ケガをしているといったようなよほどの理由がない限り、断ることは礼儀に反すると解されていた。つまり、決闘は申し込まれたら受けることがほぼ決まりのようなものだった。
その日の放課後、予告通り、レナードはソフィーの取り巻きモブ男Aのジョンピーと決闘を行った。ジョンピーはなすすべもなく、レナードの右手のパンチ3発でけちょんけちょんにされていた。ちなみに、ジョンピーの本名は、ジョン・何とかかと思ったら、ピエール・コールマンで全くもってジョの要素がない。ジョンピーの由来が何なのかすごく気になるところだ。
レナードは、「約束通り、愛する妻のために右手だけで勝ったぞ! 武士に二言はない! ははははっ」と上機嫌だった。ジュスティーヌは、約束もしてなければ、愛する妻でもないのだけどと思いながら黙って見守っていた。
そして、翌日の放課後、レナードの次なる餌食となったのが弟のカイトだった。カイトはジョンピーよりは善戦していた。しかし、以前二人がしていた会話の通り、カイトの攻撃はすべてレナードに見切られていて、簡単に避けられてしまっていた。
そう、レナードは非常に勘がいいのだ。相手の戦いのパターンを熟知していると言い換えてもいいかもしれない。
一方のカイトの攻撃は、その人柄が攻撃スタイルにも反映されていて、一言で言うと馬鹿正直だった。不意を衝くようなフェイントがほとんどない。基本に忠実なセオリー通りの攻撃で、おそらくレナードが最も得意とするような相手だろうなとジュスティーヌは感じていた。
しばらくすると、カイトの攻撃はレナードの”真剣白羽どり”によって止められ、腹部に膝蹴りを入れられて敗北した。カイトは負け惜しみで、ぼそっと一言、兄に対する文句を口にした。
「ジュスティーヌ姫にいいところを見せたい兄上は、右手しか使わないと思っていました」
レナードはその一言で珍しく相当な精神的ダメージを負っているようだった。勝利したにもかかわらず、絵に描いたようなガーンという顔でその場に立ち尽くしていた。
ジュスティーヌやクラスメイト、カイト親衛隊のご令嬢たちはカイトに駆け寄った。
「なかなかいい勝負でしたね」
「実の弟に本気を出すなんて血も涙もないですわね、レナード殿下は」
クラスメイトや親衛隊のご令嬢たちは口々に慰めてくれたが、カイトが一番気になったのはジュスティーヌの反応だった。弱いと言われるだろうか、あの兄に両手と脚を使わせたと褒めてくれるだろうか。
「カイト、わたしわかっちゃったかも!」
「えっ、何が、かな?」
「カイトの弱点」
「僕の弱点?」
ああ、やっぱり弱いって思われたなとカイトは気落ちした。
「そう、あなたに足りないのは腹黒さよ!」
「は、腹黒さ?」
「相手を騙してだしぬいてやろうという、そういうあくどい気持ちのことよ」
「う、うん?」
「レナード殿下は強いけど、案外精神攻撃が効きそうな気がするわ」
「えっ?」
「カイト、あなた最後に殿下に何か言ったでしょ? だから見て、今はもうあの歩く凶器が完全に木偶の坊と化しているわ。あれを最初にやらないと!」
ジュスティーヌは良くも悪くもただの戦闘バカだった。
ああ、そういえばこのお姫様はそういう人だった。そう思うと、カイトは肩の力が抜けたような気がした。
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