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第53話 個性的過ぎるお兄様ですことね……。

 思いがけない事件が相次いだことで、すっかり時間をとられてしまった。ジュスティーヌとアカネはクラブに顔を出すことを諦めて、セドリックやカイトと共に寮に戻ってきていた。


 なぜか、あのレナード王子も一緒である。


 というのも、学園のクラスはなるべく同じ国の人間が同じクラスにならないように組まれているのだが、逆にスペード、ダイヤ、クローバー、ハートと4つある学園の寮は国ごとに入寮するケースがほとんどだった。ジュスティーヌとセドリックが同じ寮であるように、カイト王子がいるならば、レナード王子もここ”ハート寮”に自分の部屋があるのだ。といっても、レナードが自分の部屋を使うことは稀なのだが。


「あらっ、レナード殿下は寮ではなく、海の見える教会に行かれるのではないですか?」


 と意地悪を言いたくなるが、「では、姫もご一緒に!」などと返されては大変だ。彼が大人しく……はないが、ただしゃべりつづけているだけで何もしてこないのであれば、それに越したことはない。


 ジュスティーヌたち4人プラス1名は、寮の2階にある共有の談話室でお茶を飲みながら、今日起きた事件その1について整理をしていた。


「それにしても、10人もの人間に精神魔法をかけるとなると、相当な使い手だな」

「あの中に見知った顔がいました。4人は戦闘技術科所属の2年生ですね。俺とはクラスが異なりますが」

「イカ料理というのはイカんかー! やっぱり、魚料理のほうがびっくり()()うてんで魅力的かもしれん!」

「戦闘技術科の生徒にしては随分とへなちょこでしたわよ」

「おそらく操られていた分、動きが単調だったせいではないかな。兄上、兄上はどう思われましたか?」

「どうって、うおおおお!! 美しすぎだ、ジュスティーヌ姫!! 姫の動きはまるでサンゴと戯れるエンジェルフィッシュのように美しかった!!」

「あなたに聞いた僕が馬鹿でした」

「そうだぞ! お前は馬鹿だ! 超絶大天才の俺を見習え! ははははっ!」


 天才というよりは天災で、あんたのほうがずっとバカだろうとその場にいたものは一様に思った。


「ところで、兄上はいつまでここにおられるつもりで? そろそろ日没ですよ? 沈む太陽に向けて走らなくてもよろしいのですか?」

「おっ、おおおっ! そうであった! すまない、マイハニージュスティーヌ姫、通りすがりのカリスマヒーローである俺はこれから沈む夕日に向けて走らねばならないのだ! お名残り惜しいが、今日のところは失礼させていただく!」

「まあ、それはとても大切なご用事ですわ! 殿下、ぜひとも、地平の果てまで走ってくださいませ!」

「おう! では、行ってくる!!」


 そう言うと、レナードは西に沈む太陽に向かって、雄叫びをあげながら走り去っていった。


「本当にすまなかった、ジュスティーヌ姫」

「いえ、何というか、お察ししますわ、カイト。お兄様があのような愉快なお方だと、あなたに寄せられる期待もさぞかし大きいのでしょうね」

「まぁ、そうなるかな……」

「もしかして、そのことが婚約者選びにも影響を?」

「えっ?」

「実は、昨日、あなたの婚約者候補のご令嬢たちから相談を受けたのですよ、ね、アカネ」

「あ、はい、そうでしたね」

「あ、俺、外したほうがいいですか?」


 セドリックは結構気配りができる男なのである。


「いえ、僕は構いません。で、彼女たちは何と?」

「かくかくしかじかですわ。なぜ、カイトは自ら誰も選ばないと? どうせならば、少しでも気の合う女性と一緒になったほうがよろしいのでは?」


 それをあなたが言いますか、とセドリックは思う。


「そうだよね。ジュスティーヌ姫はアルフォンス殿下と相思相愛で、少し羨ましいよ」


 なにそれ、全然相思相愛じゃないけど! あんな腹黒とセットにしないでくれる? まぁ、そりゃ冒険好きとか、剣も魔法も両方達人でありたいところとかは残念ながら一致しちゃっているけど。


「ぜ、全然違いますわよ。殿下とは皆さんが思っているような関係ではなくて、そう、いわばデュラハンの胴体と首の関係ですわ」


 デュラハンの胴体と首って、それってほぼ一心同体ってことでは……と突っ込みたくなるセドリック。


「でも、それはそれでお互いがお互いにとってなくてはならない関係で、一言で言うと仲がいいってことだよね」


 カイトも同じ感想を抱いていた。


「もう、それはいいので、とにかく今はカイトの話をしているんですの!」


 そう言われて、カイトは身の上話をし出した。いい人なだけに孤独な王子でもある彼は、誰かに自分が抱えている悩みを聞いてもらいたかったのかもしれない。


「僕は、実は、積極的な女性が少し苦手なのかもしれない。しかも、彼女たちが見ているのは、僕自身じゃない。王子の僕に過ぎない。この身分がなかったら、誰も僕を相手にしないかもしれないじゃないかと」


 ああ、そういうやつね。結構メルヘンな王子様なのね、カイトは。


「カイト、正直申しますが、その考え方は危険ですわ。お忍びで訪れた先で出会った村娘Aに幻想を見て、恋に落ちるタイプですわよ、あなた。本当にその娘が純真であればよいのですが、実は計算高い純真()娘だったりすることがあるので、非常に危険ですわ」


 なんだその設定はとセドリックは思うが、ジュスティーヌが言わんとすることに心当たりのあるアカネは、うんうんと頷いている。


「ははっ、そうかもしれない……それに、僕がこう考えるようになってしまったのは兄の影響が大きくて。なんというか、僕の兄は本当にクズでね」


 いい人王子のカイトから、クズなんて言葉が出てくるとは! 一応彼もそういう言葉も使えるのね。


「クズってほどではないと思うわ。随分と個性的な方ですが」

「あ、いや、レナード兄さんのことではなくて、今の王太子、一番上の兄・アーロン兄様のことなんだ」


 そういってカイトが語りだした王太子・アーロンは、確かに救いようがないドクズとしか言いようがない男だった。

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