第42話 男たちの? 対決……ですわ!
「話とは何だろうか?」
「殿下は、ジュスティーヌ姫のことをどうするおつもりなのでしょうか?」
「昨日も言った通りだが」
「それは、かの姫と結婚したいとお考えということでよろしいでしょうか?」
「もちろん、その通りだ」
「それは……かの姫のことを愛しているということで間違いないでしょうか?」
「もちろんだ」
「本当の本当に、ジュスティーヌ姫のことを真剣に愛していると?」
「ああ、そうだが…………さっきから、君は何が言いたいんだ?」
遠回しな質問が続き、寛容な人柄で通っているアルフォンスも困惑と苛立ちの色を見せた。
一触即発といった空気が流れ、二人を遠巻きにしていた聴衆たちは、二人の男のやり取りをごくりと唾を飲み込みながら見守った。
「私が殿下にお伝えしたいことは一つです」
「一体何だろうか? 早く言ってくれないか」
もったいぶった会話をしていたジーニアスは、意を決したかのようにもう一度愛用の眼鏡に手を添えた。
「かの姫との結婚は諦めていただきたい!」
きたわー! 男たちによる美しい姫の取り合いが!! さあ、もっと激しく取り合って、二人の貴公子をたぶらかしたわたしの悪女っぷりを宣伝して!
「君に、そのようなことを言われる筋合いはないと思うが?」
アルフォンスは少しムッとした表情をしている。
いいわよ、いいわよ、その調子! ほらほら、次はその男の胸倉をつかむのよ、腹黒皇子! 『ジュスティーヌ姫は俺のものだ! お前には渡さん!』と言いなさい!!
「そうかもしれません。だけど……だけど、あの姫は、絶対にやめたほうがいい!」
はっ?
「確かに、顔はかわいいし、おっぱい大きくて、そそる体もしています。それに強い。剣の腕も魔法も使える。賢い戦い方をしている。見た目と能力は完璧だ。ですが、あの性格!! 男心がまるで分っていない! 平気で低いだの小さいだの弱いだのと連発するのはひどすぎる! その上、人の話を聞かずにわがまま放題で、昨日もあれほど殿下を困らせていたではないですか!」
はあっ??
「うん、まあ、そうかもしれないが、そこがかわいいというか……」
アルフォンスはジーニアスの剣幕に若干気圧されながらも、愛するジュスティーヌを庇う。
「それに、魔法少女なのに、いきなり男を蹴飛ばすって信じられますか!? 魔法少女ならば、ときめきキラキラな決めポーズをとりながら魔法を使うべきでしょ! まぁ、美脚をおがめたので、一万歩譲って許せたとしても、行動自体は魔法少女のすることじゃない! それと、魔法少女自体は衣装が魅力的だから大歓迎ではありますが、あの口上! あ、殿下は聞いていないかもしれませんが、とにかくセンスがなさすぎる! あれは男のロマンをぶち壊すひどすぎる台詞だ! なぜ『悪い子は、お星さまにかわっておこっちゃうぞっ』みたいな、もっと魔法少女っぽいきゃわゆいことを言えないんだ! 言ってほしかった!!」
途中からは、ジュスティーヌ自身に対する問題点の指摘というよりは、彼の魔法少女に対する執着心からくるいちゃもんになっていた。
はあああっっっ!!??
「うん、まあ、聞かなくてもだいたい何を言ったかわかる気はするが、そんなところもかわいいと俺は思うけどな。彼女が君の理想と違うのであれば、君は自分の理想とする淑女と幸せになればいいのではないかな?」
やっぱり、アルフォンスは愛しいジュスティーヌを彼なりに庇った。
その時、ものすごい殺気を感じて、アルフォンスは群衆がいる方をチラリとみると、そこには完全に燃え上がって、火の玉のようになっているジュスティーヌの姿があった。
「ジーニーーアーーースーーーー!!」
肩を怒らせて憤怒の表情を浮かべ、大股でジーニアスのもとにやってくる。
「ヒィーーーッ!!」
地獄の門番・閻魔大王と化したジュスティーヌは、逃げようとする小鬼ジーニアスの首根っこをつかむ。
「すみません、すみません! 申し訳ございません!! 何でもするので許してください!!!」
ジーニアスは足をばたつかせて逃げようとするが、ジュスティーヌにしっかりとつかまれて動くことができない。
ジュスティーヌは怒りに任せて首根っこをつかんだまま、自分を軸にして、ハンマーを飛ばすかのようにジーニアスをぶんぶんとぶん回す。
「ひえええええ! お助けをーーーー!!」
十分に遠心力によって加速がついたところで、ジュスティーヌはジーニアスをそのまま天高く放り投げた。
「ぎゃああああぁぁぁーーー」というジーニアスの叫び声が空の彼方に消えたかと思うと、数秒後にまた「ぁぁぁぁああああーーー」と近づいてきた。地面にぶつかる寸前、ジュスティーヌの横にいたアルフォンスがジーニアスを受け止めて、そっと地面に下ろしてやった。
ジーニアスは完全に目を回していた。
「ジュティ、少しは気が済んだかい?」
ジュスティーヌは目を血走らせながら、肩で荒く息をしていた。
アルフォンスはジュスティーヌの肩を抱き寄せると、頭を包み込むようにして撫でた。
「ジュティ、君の怒りはもっともだ。彼の言葉を気にする必要はないよ。ちゃんと今のままの君を愛している人はたくさんいるのだから。君はそのままでいいんだ」
ジュスティーヌは怒りと悔しさといろいろな感情が込み上げてきて涙がでそうになった。だけど、こんなところで泣けない。だって悪役令嬢なんだから。ぎゅっと手を握り締めてなんとかこらえた。
ジュスティーヌが涙をこらえていることを察したアルフォンスは、彼女を担ぎ上げるように片手で抱きかかえると、そのまま黙って彼女の部屋に連れて行った。
群衆はその様子を茫然と見送った。




