第41話 皇子さまの浮気者っ! でも別に嫉妬なんてしていませんわ!
「ところで、マジカール嬢。明日はお時間ありますか? あなたをお連れしたい場所があるのですが」
デートの誘いキターー!! とオリビアは叫びたくなった。が、必死に自分を律する。推しカプの邪魔をしてはいけない。ここは空気になって観察を続けるのだ。
「さあ、どうでしょう。正義の味方というのはだいたい忙しいので。それに神出鬼没なわけで、時間通り約束に場所に現れるとは限らないのですよ」
ジュスティーヌは魔法少女の何たるかを語りだした。が、アルフォンスが連れて行ってくれる場所はもしかするとあのおいしいタルト屋かもしれない。
あの時の珠玉のタルトの味が、蘇る。ジュスティーヌは完璧なスーパーヒロインであることよりも、己の食欲を優先することにした。
「……まあ、でもそうですね、どこに行くかにもよるんじゃないですかね? 例えば、行く場所がタルト屋とかであれば、少しは時間がとれるかもしれませんね」
途中までぼんやりと二人のやり取りをみていたセドリックも、これにはさすがに吹き出しそうになる。
(姫様……どんだけ食い意地張ってるんですか!)
「少々お待ちください! お二人は真の婚約者同士なのでしょうか?」
ずっと大人しくしていたジーニアスがついに口を出す。
「はあ!? そんなわけないでしょ!」
ジュスティーヌは立ち上がってインテリ王子に抗議する。が、すぐに座って言い換える。
「えっと、今日会ったばかりで全然知らない人と婚約しているだなんておかしな話、あると思いますか!?」
まあ、この男の場合、それがあったりするんだなぁ……。だって、出会って10分でプロポーズしてきたからね、この変態は。
正確には、再会して10分なのだが、どちらにしてもアルフォンスの行動がぶっ飛んでいることには変わりはない。
ジーニアスは真剣な目でアルフォンスをじっと見た。
「残念ながら、まだ口説いているところだよ」
大人の余裕なのか、アルフォンスは正直に現状を答えた。
「あなたね! 戦いしか興味のない堅物と聞いていたのに、軽すぎでしょ! 女だったら誰でもいいわけ!? この浮気者!!」
また、ジュスティーヌは立ち上がって、今度はアルフォンスに猛抗議をする。
一応、ジュスティーヌの中では、今の自分は別人のマジカールなので、アルフォンスはジュスティーヌとマジカール二人を同時に口説こうとしているような形になってしまったのだ。
自分で自分に嫉妬して、アルフォンスを浮気男だと責めていることになる。
「あ、いえ、戦いしか興味のない堅物っぽく見えるのに、実は恐ろしく軽い男なのね!」
そう言い直してアルフォンスを見ながらもう一度責めてみたが、実際のところ、大人の色気をこれでもかというぐらい漂わせているイケメンの彼は、どこからどうみても堅物には見えなかった。
口説きたいのに、口説こうとすると別の女を口説いていると責められるこの現状に、さすがのアルフォンスも苦笑いをしながらふぅーっとため息をついた。
「まあ、いいや。セドリック、悪いが君の姫君に伝えておいてくれないか。明日の11時、手土産にタルトを持って会いに行くと」
「あ、はい、承知しました」
セドリックは頭を下げながら、チラッとジュスティーヌの方を確認した。なぜか、ジュスティーヌは唇を噛んで悔しそうにしている。
クッ、この男、やはりまたタルトを人質にするとは……!! なんて腹黒い男!
「では、マジカール嬢、いつかまたどこかでお会いしましょう」
アルフォンスはテーブルの上に金貨を置くと、「ご馳走様」とその場で店主に声をかけて店を後にした。
「くー、かっこいいわ、これぞ大人の男だわああ!! ああ、私もあんな恋人がほしい!」
オリビアは理想的過ぎる皇子様の姿に、興奮しすぎて鼻血がでそうになった。店にいたほかの女性たちも彼女と同じような状況だった。
「で、で、行くんですよね? 明日のデート!!」
「し、仕方がないわ、わたしの愛するタルトを人質に取られているのだから……」
「キャーーー、楽しみだわ! ドキドキしちゃって今日は眠れなさそう!」
仕方がないと言いつつもタルトが楽しみなジュスティーヌだったが、それ以上にオリビアが、遠足前の子どものように浮かれまくっていた。
一方、盛り上がる女子たちを男たち――特にジーニアスは眼鏡を位置を直しながら、冷静な目で見ていた。
ここ”猫の長靴亭”の食事は、お世辞抜きにおいしかった。店主の人柄もよく、客層も落ち着いている。
ジュスティーヌは今度PJL24のメンバーとケヴィンたち防衛隊員も連れてきてあげたいと思った。
翌日、侍女のメリーは、ラベンダー色のパフスリーブのブラウスに紺色のひざ下丈バルーンスカートという、随分と清楚で上品な服を用意していた。
「これはどういう理由で? あんまり悪役令嬢っぽくない気がするのだけど?」
「マジカールの衣装とは真逆の路線で用意してみました。マジカールと姫が別人だと印象付けられるように!」
「なるほどね! さすがはメリー!」
実はメリーは真剣にジュスティーヌのことを考えて服を選んでいるわけではない。着せ替え人形感覚で、その時の気分で彼女が着せたい服を着せているだけだ。
そして、後付けで理由をうまく話しているだけなのである。長年、ジュスティーヌの侍女をしているだけあって、彼女の性格はよくわかっているし、なかなかの口達者なのだ。
「タールト、タルト、タルトットっ。今日は何のタルトかなぁ~♪」
ジュスティーヌは鼻歌を歌いながらロビーへと向かった。
前回のデートの際には、アルフォンス目当ての追っかけがロビーに溢れかえっていたが、どういうわけか今日は人っ子一人いない。
今日のことは、セドリックたち3人しか知らないので当然と言えば当然だが、それにしてもロビーに一人もいないのもさすがに不自然な気がしないでもない。
が、外がどうも騒がしい。
エントランスをでると、なんと外にすごい人だかりができている。一体何があったのかと思い、後ろからのぞき込もうとしていたら、ジュスティーヌに気が付いた生徒たちが軽く道をあけてくれた。
なんとそこにはアルフォンスとジーニアス王子が対峙していた。
ちょちょちょ、これって、もしかして、姫を取り合う男の決闘シーンだったりしちゃったりする!! そして、その二人の男をたぶらかした罪深き悪女な姫のわたし! そして男たちの血みどろの戦いを見守るこれだけのギャラリー! 久々にめちゃくちゃ悪役令嬢な展開じゃないこれ!
「俺に何か用かな?」
最初に口を開いたのはアルフォンスだ。
「ジュスティーヌ姫のことで殿下にお話ししたいことがあります」
厳しい表情で、眼鏡に指を当てながら、ジーニアスが口を開いた。




