第4話 悪の女帝として学園の頂点を目指しますわ!
美貌の変態皇子のせいでほろ苦い悪役令嬢デビューとなった舞踏会から数か月後、ジュスティーヌは今日も元気に階段ダッシュ100本をこなしていた。
あの日、あの変態皇子は意外なことに割とあっさりと身を引いたのだ。そして、その後も婚約の申し込みなどはなく、恋文の一通さえも届いていない。
助かったと思う反面、それはそれで屈辱的だ。だってそれって完全に揶揄われていたということだから。
いつか必ずあの変態皇子に仕返しをしてやろうと固く誓いながら、ジュスティーヌは離宮の階段をダッシュで駆けあがるのだった。
10年以上に渡ってジュスティーヌの生活の場だったこの離宮とも明日でしばらくお別れである。というのも彼女は大陸にある中立都市、パックスウルブスに設立された魔法技術学園に入学するからだ。
大陸では戦乱が相次ぎ、これ以上の破壊を止めるために各国の協力の元で作られたのが、この中立都市だった。都市には各種ギルドや神殿、協力国の公館があり、大陸の国々と街道で結ばれた商業の中心地でもあった。パックスウルブスは、人材の宝庫であり、その養成機関が魔法技術学園なのだ。
魔法技術学園への入学条件はただ一つ、「優秀であること」だ。といっても多くの貴族は多額の寄付金と引き換えにその子女を学園へと送り込んでいた。特に令嬢にとっては将来の夫を探す格好の場でもあったからだ。
だからこそ、ジュスティーヌはこの学園への入学を決めた。将来の夫人候補が集う学園において、悪役令嬢の名をほしいままにすれば、もう誰もジュスティーヌと結婚しようとは思わないだろうから。
ジュスティーヌは、結婚と言う鳥かごに入れられることなく、自由な冒険に出たかったこともあって戦闘技術科に所属することにした。令嬢の多くは文化芸術科に入るのだが、一方で男性に人気なのがこの戦闘技術科だ。
女だてらにここに入学するだけでも”男好きの令嬢”との悪評を得ることができるだろう。あとついでのついでだが、幼馴染のセドリックもここにいる。
この科に入学したのは全部で3クラス、50名弱だったが、ジュスティーヌが所属するクラスは生徒数14名で、女性はジュスティーヌ以外には2名しかいなかった。
悪役令嬢としては最初が肝心である。なんと自己紹介すべきか。
「高貴で美しいわたくしをお下品な目で見ないでくださる?」か、それとも「身分の低いものとはお話したくないので、話しかけないでくださる?」だろうか。ただ、せっかくクラスメイトになったのに話をしないのも残念すぎる。
「わたくしこそがグランソード王国の第一王女ジュスティーヌですわ。国では魔性の女と言われていましたの(自称だけど)。ですがわたくし自身は殿方には興味がありませんので、取って食ったりはしませんわ。気軽に話しかけていただいても構いませんことよ。それからわたくしの悪い噂を広げたとしても、決して恨んだりはいたしませんので、どうぞご随意に」
クラスメイト達はジュスティーヌのへんてこな自己紹介にポカンとなった。
温かな反応がなかったということは、裏を返せば冷たい反応だったということで、ということは、彼らは寮に戻り、「うちのクラスにすげー男性遍歴の激しい悪女がいたぜ」と噂を広げてくれるに違いない。
同じクラスにはフィデリス王国のカイト王子なる人物もいた。おそらく彼が一番身分が高い。ということで、要注意人物である。この男には絶対に恐れてもらわなければいけない。
「僕はフィデリス王国の第三王子カイトです。剣術は好きですが、魔法が少し苦手です。身分の別なく学べるこの学園は、堅苦しい王宮の中で育った僕にとっては貴重な場だと思っています。こんな身分ではありますが、気軽に接してもらえると嬉しいです。どうぞ、僕のことは敬称は付けずにカイトと呼んでください」
このカイト王子はめちゃくちゃいいヤツっぽい。しかも、人の好さが顔ににじみ出た実に誠実な感じの好青年だ。
次に注意が必要な男がエルドフルーガ王国の公爵令息フルードだろう。
「俺はエルドフルーガ王国のヴァクト公爵家のフルードです。俺も剣術は得意だが、魔法が苦手だ。俺は公爵家の五男だから、家を継ぐこともないと思う。将来は祖国に戻って騎士になるか、冒険者ギルドに入りたいと思っている。実家の身分は高いが所詮俺は五男なので、気軽に接してほしい」
おっ、フルード、冒険者になりたいって仲間じゃん! しかも、公爵家を継がない五男ならばさすがにわたしと婚約しようとは思わないでしょうし。
あとは伯爵令息が二人いて、そのうちの一人はすでに婚約者がいるとのことだった。残りの男性は平民である。
残念……いやこの場合は幸運なことに容姿を見ただけで思わずときめいてしまいそうな美男子はいない。つまりは、身分の釣り合うカイト王子にさえ気を付ければいいということだ。
ちなみに、ジュスティーヌ以外の女性は、一人がアカネという東にある国の出身者で代々諜報員の家系らしい。もう一人はビビアンで両親とも冒険者とのこと。ビビアンは背も高く精悍で、女性ながら冒険者のお手本のような風貌だった。
この14人は3年間同じクラスの一員として学園生活を送ることになる。ジュスティーヌの学園悪女生活の滑り出しは上々だった。
と、彼女は勝手に評価していた。




