第193話 冬休みの約束ですわ。
サミットも無事に終わり――本当に無事だったのかは疑問の残る所だが、学園は、ジュスティーヌが恐れていた年末年始の冬休みを迎えようとしていた。
「ジュスティーヌ姫はいつグランソード王国に戻るのかい?」
詳しい事情を知らないカイトにとって、実家は帰るかどうか思案する場所ではなく、帰るのは前提でいつ戻るのか考える場所らしい。
「そういうカイトはいつ帰るんですの?」
「僕は、両親に、兄を連れて早く帰って来いと言われていてね。だから、冬休みに入ったらすぐに戻らないといけないかな。2週間以上も皆に会えなくなると思うと残念だな」
「愛する妻よ! 妻も一緒に俺とフィデリス王国に行こう! うまいイセエビ食べ放題だぞ! 一緒に海を見て、漁に出て、マグロやヒラメを獲ろう! あ、あと、みみみ、水着を……」
「水着以外はとても魅力的ね。海も一度見てみたいわ。それにフィデリスの海だったら、パッシーにも会えるかもしれない。でも、わたしも国に戻らないと」
この際だから、本当にフィデリス王国に招かれて行ってしまいたいところだ。
だが、レナードの婚約者だと思われても困る。
それにフィデリス王国には年頃の女性にとってのラスボス的存在のクズ王太子アーロンがいる。しかも、確かその男、今はフリーだった気がする。そのような危険極まりない場所に、おいそれと足を踏み入れるわけにはいかない。
「ジュスティーヌ姫さまぁ。あたし実家に戻る時にここのお土産を買って帰りたいんです! 今度の週末、一緒に街にお買い物に行きませんかぁ?」
ビビアンが楽しそうな提案をしてくれる。
「あっ、ずるい! だったら、私も行きたいです! 姫様、久々に女子会しましょう!」
「ナイスアイディアだわ、アカネ! やりましょう、女子会」
「姫様! 私も参加したいです、女子会!!」
この後も「わたしも」の声が後を絶たず、結局女子20人近くで女子会をすることになった。
「ちぇっ、女子はいいよなー。女子会ができて!」
「じゃあ、男子たちもやればいいじゃん、男子会」
「んなもんやっても、女子がいないんじゃおもしろくねーし」
「男子会にはジュスティーヌ姫様来てくれないだろうからなぁーー」
「残念でしたぁ!」
これだけの人数が入れるお店で、すぐに予約が出来そうなところと言ったら、思い浮かぶのはアルフォンスの店「カフェ・テミス」の2階しかない。アルフォンスにお願いするのは癪だが、背に腹は代えられない。
ここのところ、アルフォンスを学園であまり見ない気がする。年末も近いので、ダンジョン演習も少しペースダウンしているのだ。それから、サミット以来、冒険者の教育にも力を注いでいるようで、アルフォンスは冒険者ギルドで活動していることが多かった。
ということで、ジュスティーヌは冒険者ギルドを訪ねてみた。そこに行けば、仮に直接会えなかったとしても、伝言をお願いすることができるからだ。
今やジュスティーヌも中級・ブロンズランクの冒険者まで昇格していた。ちょっと名の知れた冒険者なのである。
「あっ、ジュスティーヌ姫様、こんばんは! いやー、今日もお美しい! アルフォンス殿下にご用でしょうか?」
「キャー、私ついてるわ! 殿下と姫様のイチャラブが見られるなんて! 今日、ギルドにきてよかったぁ」
もちろん、それ以上に”アルフォンスの恋人”として名を馳せてしまっているところが、本人としては残念ではあるのだが。
見てなさい、腹黒皇子! そのうちにわたしは上級、いえ、特級をも超えた伝説級の冒険者になってみせるわ! そうしたらあなたは、「かの有名な偉大なる冒険者ジュスティーヌ姫の恋人」扱いされるのよ! どうよ! ふふふふっ。
今、自分が”アルフォンスの恋人扱い”されているからといって、アルフォンスが”自分の恋人扱い”でも構わないのだろうか? そもそもあなたの前提の中で二人は恋人設定でもいいの? という突っ込みはしないであげてほしい。
依頼書がペタペタ貼られている掲示板の前で一人「ふふふふっ」と笑っていると、後ろから抱きしめられる。
「やあ、ジュティ、もしかして俺に会いに来てくれたのかな?」
気の利く冒険者が、アルフォンスに「恋人が来ている」ことを教えに行ったらしい。
「もう! 急に後ろから抱きしめないでー! 放してよっ」
くっ、油断していたとはいえ、またしても簡単に背後をとられてしまったわ……。伝説級冒険者までの道のりは遠いわね……。
「もう少しこうしていたいな」
「皆見てるからー!」
その言葉の通り、皆じーっと見ている。特に女子たちは、美男美女による噂のイチャラブを見られて、めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「今更、隠す必要もないだろう? 皆知っているんだから」
外野からうんうんと頷く冒険者たち。
「で、ジュティは何をしにきたのかな? 俺が恋しくなった?」
「違うから! 全然違うから! 今度の土曜日の午後、あなたのお店の2階を借りたいと思って……」
「へー、今度の土曜日、もしかして誰かとデートでもするの?」
「デートじゃなくて女子会だから、女子会!」
「女子会か。だったら、構わないよ。店には連絡をしておくからいつでもどうぞ」
女子会でないならば貸してくれないつもりだったのだろうか。
「ところで、ジュティ。年末はやっぱり国に帰るの?」
「そうだけど」
「もしよかったらなんだけど、俺も行ってもいいかな?」
「えっ? グランソード王国に? あなたは帝国に帰らなくてもいいの?」
「うん、まあ、少しは帝国にも顔を出そうとは思っているけれども、基本的に年末年始含めて公式行事に顔を出すことは免除してもらっているからね」
「随分と自由で羨ましいわ」
こっちは、普段は放置のくせに公式行事の時だけ呼び出されて、仲良し家族ごっこをさせられているというのに。
でも、アルフォンスがいたら、さすがの王妃もジュスティーヌを無碍にはできない気がする。そして、さもアルフォンスと良好な関係であるとアピールできれば、あの王妃も、ジュスティーヌをやたらな男に嫁がせようと企むのをやめるかもしれない。
「学園でジュティに会って、同級生だったジュリアスと久々に顔を合わせたくなったってことにすれば、そこまでおかしくもないだろう?」
婚約のお願いに行くというのであれば話は別だが、そういう理由であれば、断る必要はない気がする。
「わかったわ。ただし、あなたとわたしはあくまでも学園の先輩後輩の関係ということにしてよ。王宮内では絶対に今みたいなこととか、後はキ、キスとかしないでよね」
「わかったよ、ジュティ。人目のある所では気を付けるよ」
「それじゃダメ! 人目のないところでも気を付けて!」
「う、うん、わかった。ジュティがそこまで言うならば、人目のないところでも気を付けよう……」
気を付けるが、絶対にしないとは約束しないアルフォンスだった。




