第14話 次代の悪役令嬢として、先代悪役令嬢にご挨拶に伺いますわ。
生徒会へのインタビューと、その後のソフィーとのバトルという大仕事を終えたジュスティーヌは記事を書き終えると、武術鍛錬クラブのセドリックの元を訪ねていた。
ジュスティーヌが修練場に姿を現すと場は騒然となった。もともと男たちが汗を流すさまを見に来ている女子のギャラリーは多いのだが、なんせ学園の隠れ新アイドル的な存在のお姫様が現れたのである。俄然男たちはやる気を増し、その矛先が向けられたセドリックは結構ボコボコにされていた。
「セディって案外弱いのね?」
「いや、どう見てもあなたが現れたことで集中攻撃を受けたからだろう? あんなの誰でも負けるって」
練習中にジュスティーヌの姿を見つけたセドリックは汗を拭いながらジュスティーヌの近くにやってきた。
「言い訳しない! それに伝説の勇者様だったらきっと負けないわよ」
「そりゃまあ、なんせ伝説だからなあ。ところで、俺に何か用ですか? 鍛錬を見に来ただけってわけじゃないですよね?」
「うーん、ちょっと話したいことがあるんだけど、ここには他にも人がいるから二人のときにする」
「……そういう誤解を招く言い方やめてもらえませんかね? 俺、またボコボコにされる……」
「鍛錬になっていいじゃない」
ジュスティーヌは軽く笑いながらそう言うと、セドリックが予想通りにボコボコにされる様を見守った。
武術鍛錬クラブには、クラスメイトのフルード公爵令息やジュスティーヌの僕……ではなく仲間のイケメン平民のケヴィンやフツメンのボブもいた。彼らはジュスティーヌに挨拶をしようとしたが、セドリックがボコられているのをみてやめた。賢明な判断だと言えよう。
寮までの帰り道でジュスティーヌはセドリックに生徒会にインタビューをしに行った話をした。
「ってな感じなんだけど、今年の生徒会って案外ポンコツ?」
「ははっ、まあ、みんな聖女候補のソフィーにはメロメロなんだよなぁ」
「やっぱり男ってバカね、なんであんな女がいいわけ?」
「さあ、なんでだろう? かわいいから?」
「はあ、セディももしかして同じ穴の狢?」
「まさか、俺は別にソフィーに惚れてたりはしてないよ」
「ふうーん」
「まあ、でもああいう感じの女性って貴族の令嬢にはなかなかいないからね。新鮮なんじゃないかな」
「ふうーん」
ああいう感じの女性は今まで身近にいなかったが、こういう感じの女性が身近にいるセドリックにとっては特別新鮮味がないのだ。なんせぶっ飛び度でいったらジュスティーヌのほうが数倍上をいっているのだから。
「まあ、でもジャーナリズムクラブの活動、楽しそうじゃないですか。よかったよかった!」
「あっ、誤魔化したでしょ!」
セドリックは「ソフィーとはあまり関わらないほうがいいですよ。あなたの評判が落ちますよ」と言おうとしてやめた。この姫は自分の評判を落とすことに執念を燃やしているのだから。
実際、ソフィーと関わって評判を落とした令嬢は少なくなかった。淑女から見て許せない彼女の行動の数々を咎めた結果、男性たちに「きつい女」だとか「嫉妬に狂っている」だとか言われ、婚約者からも冷たくされた令嬢たちが。
ジュスティーヌは嫌われたがっているが、幼馴染としては彼女が本当に嫌われ、傷つくところを見たくはなかったのだ。
そんなセドリックの親心も虚しく、ジュスティーヌは、ソフィーと令嬢たちの過去をジャーナリズムクラブの記録や会員の証言を通して知ってしまう。
「いやー、昨日はどうなるかと思いましたよ。ソフィー嬢も相変わらずで、まさか姫様にあんな感じで絡むなんて」
オリビアがちゃっかりしっかりメンバーに報告をする。貴族だろうと平民だろうと、ソフィーは男子には人気だが、女子には絶対的に不人気だった。
それもそのはず、あれが天然なのか養殖なのか判別ができないものの、とにかく彼女は女子という女子に絡んで回る悪癖があるようなのだ。
例えば、学業成績が優秀な平民のオリビアもかつて彼女に絡まれたことがあるらしい。
「めっ! お勉強できすぎても男の子に嫌われちゃうぞぉ、もっとかわいくかわいく、レッツゴーエンジョイスタディ以外だよお」
「はっ、何言ってんねん! このド天然ボケ頭が!」
「オリオリ、こわいぃ、あたしまた天然っていわれちゃったぁ。みんなに天然っていわれちゃう、くすんっ」
「(男たち)ソフィー、かわいい! オリビア、口が悪すぎだぞ、ソフィーに謝れよ!」
みたいな。
最初、彼女の取り巻きはクラスの男子ぐらいだった。だが、光魔法の使い手である彼女は聖女候補として学園内でも相当有名で、そのうちに貴族の令息たちにも愛されるようになった。そして、今では生徒会にまで入り、あの様子だと会長である皇子まで虜にしているのだ。
彼女が注目される前の学園のアイドルは、今の副会長であるエルドリック王子の婚約者の公爵令嬢ヴィクトリアだった。そのヴィクトリアも何度かソフィーとやりあっていた。
その時からヴィクトリア嬢は、すっかり”学園の悪役令嬢”と呼ばれるようになってしまったのだ。
待って、今なんて、悪役令嬢っていいました!? ということは、そのご令嬢が先代(←ジュスティーヌによって勝手に引退したことにされた)の悪役令嬢ってこと? それは是非とも、ご挨拶をしなければ!
ヴィクトリア公女は、ご令嬢たちの結婚養成所として知られる文化芸術科の二年生でボランティアクラブの所属らしい。ボランティアクラブでは、お嬢様方が集まってはお茶を飲みながら刺繍をする。その作品をバザーにだして得た収益を孤児院などに寄付するのだ。また、建国祭、聖人祭などの祝祭行事の際には令嬢たちの手作りお菓子を子どもたちにプレゼントしている。ご令嬢たちのノブレス・オブリージュを体現したようなクラブなのである。
ジュスティーヌも淑女のはしくれ、というか性格を置いておけばど真ん中な存在である。刺繍は得意なのだ。刺繍を手土産にボランティアクラブを訪問し、悪役令嬢のありようをご教授願おうと考えるのだった。




