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第12話 悪役令嬢ですもの、プロパガンダだってお手の物ですわ!

 新入生たちが学園生活に慣れたころ、先輩たちによる各種委員会やクラブ活動の勧誘が始まった。


 ジュスティーヌたちの教室にも、昼前や放課後になると連日、冒険クラブや武術鍛錬クラブなどの先輩方が勧誘に来た。課外活動自体は必ずしも必須ではなかったが、より充実した学園生活を送りたいのであれば、絶対に外せないものだった。


 どこかのクラブが勧誘に来るたびにクラスメイトたちはどのクラブに入るかの話題で盛り上がった。


「ジュスティーヌ姫はやっぱり生徒会狙いなのかい?」


 カイト王子が聞いてきた。


「そういうカイトはどうなんですの?」

「う、うん、まあ、一応入れたらいいなとは思っているよ」

「だったら、ご安心を。わたくしは生徒会には微塵も興味がありませんので」

「そうなの? 今まで勧誘に来たクラブにあまり興味を示していなかったら、てっきり生徒会狙いかと思っていたよ」


 生徒会はいわば学園の顔である。王族や高位貴族の生徒にとっては、生徒会に入ることが一種のステータスだった。ただ、生徒会に入るには一定数の推薦が必要だ。推薦人は重複してなることができないので、仮にジュスティーヌとカイトがともに生徒会入りを希望しているならば、クラスメイトはどちらか一方しか応援できないのだ。


「わたくし、入学する前から学園に来たら、ジャーナリズムクラブに入ろうと決めていましたの」


 ジュスティーヌの答えに、同じ寮かつ平和防衛隊の取り巻き3号のボブが反応する。


「セドリック先輩と同じじゃないんですね?」


 なぜに悪の頂点を目指しているわたしがセドリックごとき小物の背中を追わないといけないの!


 ちなみに、セドリックは武術鍛錬クラブに所属している。騎士を目指している生徒はこのクラブに所属しているものが多い。ケヴィンやボブも武術鍛錬クラブに入るつもりらしい。


「ジャーナリズムクラブ? そりゃまた姫様としては変わった選択肢だな」


 公爵令息のフルードが会話に乱入してきた。


「ジャーナリズムクラブってどんなクラブなんですか?」


 今度はアカネが会話に加わる。


「簡単に言うと、様々な情報を集めて、その結果を皆に報告するクラブですわ」

「それに有名人に会ったりもできるのよ。取材とかインタビューとかで。生徒会をはじめとする学園の名物イケメン王子様たちと親しくなれちゃうかも!」


 ジュスティーヌの説明に比べて、ビビアンのそれは随分とわかりやすい。実際にジャーナリズムクラブにはそういったことを目的として加入する女子生徒も少なくはない。


「それは確かに、(諜報活動みたいで)面白そうですね……」

「でも、どうしてジュスティーヌ姫はジャーナリズムクラブに入ろうと思ったのかい?」


 そんなの、学園に通う紳士たちの情報を集めて分析を行うことで効果的に婚約を回避するためだ。さらに、自分自身に関する情報――つまりは「ジュスティーヌ姫が〇月×日、令嬢A・B・Cとののしりあいをして、完全勝利を収めた」といった類の悪い噂を流すためである。だが、さすがにまんま答えるわけにはいかない。それっぽい理由を考えるのだ!


「わたくし、情報は何よりも重要で価値があると思っていますの。それを自らの足で歩いて集めて回ると思うとワクワクしませんこと? それにジャーナリズムクラブは言論の自由を守る砦ではないですか」

「確かに、情報は価値があるものだという意見には同意するよ」

「でも、それを集めてくるのは王族じゃねえだろう?」


 フルードの言う通り、確かに情報収集そのものは王族の仕事ではない。それこそアカネのような諜報員の仕事だ。 


「確かに姫様はジャーナリズムクラブなんかに入らなくてもいくらでも王子様たちと知り合いになれちゃいそうですよね。羨ましいなぁ」


 顔がいい王子にだって信じがたい変態はいるんだからね。そんな変態と関わらないといけないのだから必ずしも羨ましくはないわよ。


「あの、姫様、私もそのクラブに興味があります。私も一緒に入ってもいいでしょうか?」

「わたくしもまだ入会はしていないけれども、もちろん大歓迎よ!」

「姫様、アカネちん、素敵な王子様がいたらぜひ教えてください! できれば写真がほしいですっ!!」


 それならばわかるわー、ビビアン! イケメンも遠目に見るだけだったらただの癒しで終わるものね。関わるのはごめんだけど。でも、写真を撮るってことは……。


「そ、それは隠し撮りをしろってことですの!? ビビアンも案外悪ですのね……」

「あ、いえ、ジャーナリズムクラブだったら、インタビューするときに堂々と撮れるじゃないですか!」

「なるほど。見目麗しい殿方の取材をでっちあげればよいのですね! やっぱり、ビビアンも相当な悪ですわよね……」


 どうして自分の提案がそこまで悪扱いされるのかよくわからないビビアンであった。


 ◇  ◇  ◇


 そして放課後、ジュスティーヌとアカネはジャーナリズムクラブの扉を叩いていた。


 ジャーナリズムクラブは中位貴族以下の令嬢には人気なのだが、さすがにお姫様の加入は史上初らしく、先輩方も恐縮気味だった。


 ジャーナリズムクラブは隔週で生徒向けの学内新聞を発行していた。あとは大きな行事や事件などがあった際には号外も発行している。そのため、単なるうわさ話まで含めて学園や生徒に関する情報はよく集まってきているようだった。例えば、つい先日、ジュスティーヌが繁華街でナンパ男を撃退したことなどもネタとしてあがってきていた。


 クラブの会長は、知識技術科に通う豪商の息子で名前はハッサンと言った。新入生は、ジュスティーヌたち以外に6名いて、2人はミーハーな伯爵令嬢と子爵令嬢で、残りの4人は知識技術科の平民だった。


 ジャーナリズムクラブの会員としての初仕事は、学内外の有名人から新入生へのお祝いのメッセージを受け取ってくることだった。


 取材を捏造しなくてもいきなり堂々とイケメンの写真を撮る機会に恵まれてしまったジュスティーヌであった。

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