第109話 ツンデレメイドさん始動ですわ。
14時過ぎに店に入れば、ツンデレメイドのジュスティーヌ姫に接客してもらえるということもあって、14時に合わせて行列に並ぶ生徒の多いこと、多いこと……。
この時間に当番ではないPJL44の女子たちや飛ばされ隊、PDFの男子たちはもちろんのこと、そうでない生徒も列を作っていた。
ジュスティーヌはビビアンたちが考案してくれたツンデレな台詞をもとに接客を行う。真っ先にやって来たのはPJL44の女子軍団6名。
「来てくれてありがとうって言うとでも思った? 別に、あなたたちが来るのを待ってなんてないし」
「キャー、姫様のツンデレ素敵すぎますぅ!!」
「もっと言ってください!!」
「ふんっ、そんなにタルトが食べたいの? そこの空いている席にとっとと座ってよね」
「姫様と殿下のスイートな愛のタルト食べたすぎですぅ!」
「で、何にするの? 早く決めてくれない?」
「クリームチーズタルト、オレンジショコラタルト、モンブランタルト、それぞれ2つずつお願いしまーす」
「もってきてあげるから、そこで大人しく待ってなさい」
「はーい! 姫様に給仕してもらえるなんて幸せすぎです!」
「ほら、食べなさい。あたしの好きなタルト、残したら許さないんだからね」
「もちろん、超おいしくいただきまーす!」
いやいや、メイドがご主人様にこんな言葉遣いしてはダメでしょう。にしても、この無礼なメイド、周りのお客さんたちにも普通に喜ばれているわ……。この学園って変人が多いのね……。
ジュスティーヌにはツンデレの魅力がいまいちわからない。
もし、もしもだ。
アルフォンスが、デートに誘っておきながら「別に、ジュティと会えるのを楽しみになんてしてないし」なんて言ってきたらどうだろう。
「はぁ? ふざけないで! それならばもう会ってあげないんだから!」と睨みつけて、3発ぐらい殴ってやるわ。
アルフォンスを殴るシミュレーションをする。
急に照れくさそうにエアーパンチを繰り出すかわいいメイドさんを見て、お客さんたちは幸せそうにしていた。
「姫様、妄想の中で誰を殴っているのかな?」
「ジーニアスあたりじゃないの?」
「いえ、姫様のお顔を見て! あのパンチには愛が込められているわ! あれは殿下への愛の鞭よ!」
ただ給仕しているだけでも十分お客さんに喜ばれているツンデレメイドの横では、モブ男くんたちが、女装男子にあーんをされているのだった。
PJL44のメンバーたちは入れ代わり立ち代わりでやってくるものの、あーんのくじは引かなかった。姫様のあーんは魅力的だが、外れたときのダメージと、単純に姫様のお手を煩わせてはいけないという配慮のようだった。
満を持して登場したのがレナードだ。
「妻、かわいい……ぽっ」
「ほ、ほめたってなにもでてこないんだからね。おにーちゃん。あと、さっきのイカおいしかったわ。一応お礼を言っておくわ」
ビビアンたちの案では、明らかな年上男子相手のときは、ただのうさ耳メイドさんではなく、兄・妹の設定らしい。
「お、お、お、おにーちゃん!! 何て魅惑的な呼び方なんだ!! 妻よー! もう一度頼む!!」
「もう、おにーちゃん、邪魔だから早く席についてよね」
「い、妹よ! もう一度頼む!!」
「もう、手のかかるおにーちゃんなんだからぁ」
「い、妹よ! もう一度」
「いい加減にしてください、兄上」
レナードはついにカイトに腕をつかまれて空いている席まで強制連行された。
実の兄に対してでさえ「おにーちゃん」などと呼んだことはない。だが、おにーちゃんと口にすると、まるで兄を慕っている妹の気分になり、なんだかこそばゆい気持ちになる。そこが表情にでてしまうジュスティーヌの、ちょっと照れたような「おにーちゃん」は実際にいい味を醸し出していた。
「おにーちゃんの好きなクリームチーズタルトなんだから、残さずに食べてよね」
「キュートな妹よ! この兄にかかれば、この程度の量は1口で食べ終わるぞ!」
愛する妹(?)に残さずに食べろと言われ、レナードはうきうき気分であっという間にタルトを平らげる。
「愛しの妹よ! ほら見てくれ! 兄は完食したぞー!」
「おにーちゃん、そんなにお腹空いてたの? もう食いしん坊なんだから」
「兄上、残念でしたね。時間内に食べ終わらなければ、かわいい妹にあーんしてもらえたかもしれないのに」
「なっ、なにーーー!!」
そうだった。8分の1の確率であーんしてもらえるんだった。そうしてもらおうと思っていたのにッ!! ついうっかり、秒で食べ終わってしまった……。
「お、おかわり……」
「あるわけないでしょ、兄上。もしもう一つ食べたいのであれば、列に並び直してくださいね」
笑顔で真の弟に追い出される兄上だった。
「姫様ー! 我々僕一同ただいま参上いたしました!」
今度はジーニアスたち飛ばされ隊一同がやってくる。飛ばされ隊も順調に会員数を伸ばしているようで、会員は15人に増えていた。陰キャ軍団がゾロゾロと集団で入ってきたものだから、場の空気は一気に淀んだ。
「15人とか、そんな大人数で来ないでくれる? 迷惑なんですけど」
15人分のタルトとお茶を給仕しながらもツンデレメイドとして文句を言う。
「はい! ご褒美……ではなく罰として我々を殴ってください!」
「そうです! 我々を蹴飛ばしてください!!」
今、ご褒美って言ったわね……。
そうだった、この人たちは虐げられるのが好きなんだった。つまり、ツンデレのツンをこよなく愛するということ。よし、ここはひとつ逆方向の萌えメイドなるものにに挑戦してみるか……。
「やっぱり、さっきのは取り消すわ。お帰りなさいませ、ご主人様。おいしくな~れ、萌え萌えキュン」
ビビアンたちに教わった台詞を言った後で、ジュスティーヌは両手でハートマークをつくる。
ジーニアスたち、飛ばされ隊15人だけでなく、店員含めて多くの男子生徒が萌えキュンに心臓を撃ち抜かれて萌え死にした。カイトも真っ赤になった顔を両手で覆いながら「この場に兄もアルフォンス殿下もいなくてよかった」と心底思うのだった。




