第110話 キラキラ皇子は、お友達と変態同盟を組んでいるものと思われますわ。
「ひ、姫様! 萌えメイドは……想像以上に破壊力が絶大すぎますので、い、今はやめておきましょう……」
息も絶え絶えになりながら萌えメイドプロデューサーでもあるトムとボブが提案してくる。
周りを見渡してみると、なぜか茹でダコのように赤くなりながら悶絶している男子が多数いた。
まさか、「萌え萌えキュン」がここまで恐ろしい技だとは。確かに、むやみやたらと撃たないほうがいいのかもしれない。
だけど、これって……これって、もしかして、ピンクのパンチラキックに代わる、対アルフォンス戦の新技になるのでは!?
そう思ったジュスティーヌは、両手でハートの形を作ると試しにもう一発撃ってみた。
「萌え萌えキュン!」
案の定、目の前でトムとボブが鼻血を吹いて倒れた。
これは使えるかもしれない。ジュスティーヌは小さくガッツポーズをした。
新技ゲットだわ! さあ、いつでもきなさい、腹黒皇子!
一方で、キュン死して、脳が正常に働かなくなっているジーニアスたちは、もう一人のメイドさんであるマッチョなダンとお姫様ドレスのマイクにタルトを食べさせてもらうのだった。きっと、彼らの脳の中では違う映像が再生されているに違いなかった。
それにしても、待てど暮らせど……というほど時間が経っているわけではないのだが、アルフォンスは姿を現さなかった。
よくよく考えてみたら、このタルトはあの男の店の物じゃない。わざわざ自分の店のタルトをお金払って食べになんて来るはずないわよね……。別に待っているわけじゃないし! ぜーんぜん、待ってませんからっ!
「姫様、次のお客様を12番テーブルまでご案内、お願いします」
そうトムに頼まれてジュスティーヌは入り口へと向かった。そこには、ジュスティーヌの姿を見て、いつものようにまぶしい笑顔でほほ笑むアルフォンスの姿があった。あと、その隣には、天才魔術師のユリシーズとクマがいた。
その図としては、まずクマ――といっても実物ではなく、かなりリアルなクマの着ぐるみを着た人物に目がいくべきなのだが、ジュスティーヌの目にはキラキラ皇子しか映っていない。
「別に、あなたのことなんて全然待っていなかったから」
「そうか、ずっと待っていてくれたんだね。待たせてゴメン」
「そもそも会いたいとか1ミリも思ってなかったし!」
「俺はずっと会いたいと思っていたよ、ジュティ」
ああ、そうだったわ。この男は、ツンとは無縁の、ひたすらデレデレな台詞を平気でいう腹黒皇子だったわ。
アルフォンスといつものような会話をしているとなんだか安心する。
「とっとと席に座ってよね、わたしは忙しいんだから」
ジュスティーヌはアルフォンスの袖を軽くひっぱると12番テーブルまで一緒に移動する。後ろからユリシーズとクマもついてくる。
「なあ、あのクマ誰だと思う?」
「さあ? でも、姫様がクマに無反応ってことは、知り合いなんじゃね?」
「あれは単純にアルフォンス殿下以外が目に入っていないだけじゃ……?」
クラスメイト達はクマが気になってコソコソ話をしていた。
「で、ご注文は何にするのかしら?」
「とてもかわいらしいメイドさんのおすすめは何でしょうか?」
それまで黙ってついてきていたユリシーズが口を開いた。
「あらっ、先生。うーん、先生にはあれがいいかな」
「では、僕はそれでお願いします」
相変わらずユリシーズは常人には理解できない頭脳回路でもって会話をしている。
「お、おにーちゃんは、何にするの?」
唐突にクマが立ち上がる。と思ったらすぐに座った。
「わっ、クマ」
クマにもユリシーズにも、やっぱり気が付いていなかったジュスティーヌ。
「ちょっと、おにーちゃん、ペットを連れてこないで!」
「おにーちゃんって、もしかして俺のこと?」
「そうだけど、他に誰がいるの?」
「そうか! 俺のことか、俺がおにーちゃんか。うんうん」
おにーちゃんと呼ばれて当初は戸惑っていたアルフォンスだったが、それが自分のことだとわかると妙に嬉しそだった。
「僕のこともおにーちゃんと呼んでください!」
「先生は先生でしょ?」
「いや、ぜひともおにーちゃんでお願いします!」
なぜそんなにみんなおにーちゃんと呼ばれたがるのかしら……?
「で、アルおにーちゃんと、そっちのクマは何にするの?」
「じゃあ、俺はオレンジショコラタルトで」
クマは何か言いたげに、アルフォンスやユリシーズを指さした後、自分を指さして腕で丸印を作り、一生懸命大振りにジェスチャーをする。
「クマもオレンジショコラタルトがいいってこと?」
クマは必死に首を振る。ジュスティーヌはメニュー表をクマに突き付ける。
「じゃあ、クマは何にするの!? 早く決めて!」
クマはシュンとなってオレンジショコラタルトを指さす。
「なによ! 結局クマもオレンジショコラタルトがいいんじゃないの! まったく手のかかるクマね!」
クマは両手を目の辺りに当てて泣いているようなジェスチャーをした。ジュスティーヌは「ふんっ、何なのこのクマは!」とぷんぷんしながらオレンジショコラタルトを取りに行った。
「オレンジショコラタルトを3つお願い」
「姫様、あのクマとはお知合いですか?」
「まさか! 確かにわたくしにはクマの親友がいるけれども、あのクマは全然知らないクマよ」
……親友にクマがいるんだ……。さすが姫様だ……とクラスメイト達は思った。
「アルおにーちゃん、ユリシーズおにーちゃん、あとクマ、オレンジショコラタルトよ。残さずに食べてよね」
「ユリシーズおにーちゃん! ああ、いい! 実にいい! かわいいメイドさん、できれば、もう一度お願いします」
ユリシーズはおにーちゃん呼びをもう一度要求したが、ジュスティーヌは冷たい視線を向けた。
「うおっ、そんな視線を向けられるのもゾクゾクして痺れますねぇ」
ユリシーズはそれはそれで幸せそうだった。アルフォンスの知り合いは、本人含めて変態ばかりだとジュスティーヌは心底呆れていた。




