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第1話 悪役令嬢、華麗にデビューですわ!

 グランソード王国の第一王女ジュスティーヌには夢があった。それは王侯貴族のややこしい世界に囚われずに自由に生きるというものだ。


 しかし、王女という立場上、それは相当難しい。なぜならば、王国にとって王女という存在は格好の政治の道具だからである。高位の貴族を懐柔、あるいは慰撫(いぶ)するため、他国との親交のために結婚と言う形でその身を捧げるのは必定。生まれたときからの定めであった。


 せめて、婚約者となる男が互いに愛情を抱きあえる存在であればいい。だが、周りを見ても幸せな政略結婚をしているものの方が圧倒的に少ないのが現実。


 特に、男はすぐに浮気をするのだ。側室や愛人、妾を堂々と囲い込み、男という性であることを盾に、それがさも当然のごとく振舞う。政略結婚をほいほいと受け入れるような男は全くもって信用ならない。


 かといって、身分違いの大恋愛が上手くいくかと言うと、案外そうでもない。


 庶民や下級貴族が無理して王族や上級貴族に嫁ぐ場合、必ず苦労する。王族・貴族の気品や風格は一朝一夕に身につくものではないのだ。周りの者にその適正を疑われ、揶揄(やゆ)され、影に日向に(いじ)められるのはもはや身分違いの恋の定番といってもいい。


 それでも”愛”があればいい。


 だが、残念ながら熱しやすい愛ほど冷めるのも早い。燃え上がっていた時は庶民っぽさがかわいく思えても、時がたてば「どうしてこの女には周りのご夫人・令嬢が当然のごとく身に着けている品性がないのだ」となる。


 逆のパターンで、王族や上級貴族の淑女が身分を捨てた場合、その生活感の差に悩み、それはそれで苦しむことになるだろう。


 想像してみてほしい。姫君や令嬢たちは今まで煌びやかな衣装に身を包み、学問や淑女の(たしな)みを学ぶことに大半の時間を費やしてきたのだ。蝶よ花よともてはやされていたものが、それらをすべて捨てて急に地味でキツイ炊事洗濯にいそしまねばならない。美しい手にささくれでもできたらどうするのだ!


 国や領地の行く末を論じるのではなく、「二軒先の家の息子の乳歯が抜けた!」とか「斜め前のお宅のおばあさんの膝、今度は左側が痛み出した!」みたいな話題が生活の中心となるのだ。とてもではないが耐えられないだろう。


 賢い彼女は知っていた。王女にとって結婚で幸せになる道は、針の穴にドラゴンを通すよりも難しいと。


 持てる知識を総動員させて熟考した彼女が出した結論は、そう、誰とも結婚しないことだった。


 では、どうすれば結婚から逃れることができるのか。


 それは…………


 悪女または悪役令嬢になることだった!


 悪名をとどろかせている女と結婚したい物好きはそうはいない。ましてや王族、貴族となるとなおさらである。仮にいたとしても、その二人の間には燃え上がったり冷めたりするややこしい愛は絶対に存在しない。政略結婚中の政略結婚、いわゆる”白い結婚”だ。


 彼女の調査(出典は流行りの恋愛小説各種)によると、「(貴族の義務だから)結婚はしたが、君を愛するつもりはない」と政略結婚や偽装結婚の相手に告げる令息は少なくないらしい。


 これは、愛を夢見る乙女にとっては厳しい宣告だろう。だが、そう告げられれば、夫となる男に何ら遠慮することなく自由に生きられる! つまり、憧れの冒険者になれるのだ!


 これがジュスティーヌが目指すべき最低ラインである。


 まず彼女は、寝る間を惜しんで体を鍛えた。あらゆる書物を読みふけり、剣の腕を磨き、魔法の習得にも力を注いだ。なぜかというと、強くないと悪役令嬢のことを皆が恐れないだろうと思ったからだ。それにこちらとしても自信がないのに強い態度にでることなどできない。


 また、ジュスティーヌは、ゆくゆくは冒険者になりたいのだ。鍛錬は彼女にとって一石二鳥ともいえた。そして、気が付いたら、彼女はその辺の下っ端騎士はまるで歯がたたないほどの実力を身につけていた。


  ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで、ジュスティーヌは15歳になり、王室主催のパーティでいよいよデビュタントを迎えることになった。


 いわば彼女の悪役令嬢としての輝かしい第一歩である。


 彼女は全然洗練されていない、ただただ華美なだけのドレスを身に(まと)い、さらにありったけの高価な装飾品でやたらめったら身を飾り立てた。


 金がかかるのにセンスがないなんて最低すぎて最高! とまあ、これだけで随分と箔の付いた悪役令嬢に見えるじゃないのと自画自賛してみる。


 エスコートは幼馴染で1歳年上の伯爵令息のセドリックに頼んだ。


「『身分の低いお前にわたしをエスコートするという光栄を与えてあげたのよ、感謝なさい』って皆の前で言うからね」


 流石にこのような悪役令嬢ど真ん中な台詞をいきなり言うのは相手に申し訳ないと思い、ジュスティーヌは予告しておいた。


 セドリックは苦笑いを浮かべて、「なんですか、それは……それよりもその宝石の数、もしかして、”悪役令嬢”として他のご令嬢たちにマウント取ろうとしてます?」と言ってきた。


 おお! わかっているではないか、セドリックよ! セドリックの目にもちゃんとわたしが史上稀にみる悪役令嬢に映っているということね、よしよし。


 宮廷騎士団所属のセドリックは()()()()のイケメンで()()()()の剣の腕を有していた。彼と結婚すれば()()()()幸せになれるかもしれないが、いかんせん、伯爵と王女では身分が違いすぎる。


 悲劇的なことにこの国唯一の王女であるジュスティーヌにはこの()()()()の結婚を夢見ることさえも許されないのだ。


 やっぱり、婚約者がみつからないまま歳を重ねて、ちゃっかりしっかり冒険者になるしかない! または、愛のない白い結婚を利用して夫のことは気にせずに自由気ままに魔物討伐にでも出るしかないのだ。


 この日はジュスティーヌのほかにも侯爵令嬢、伯爵令嬢がデビュタントを迎えることになっていた。紹介された令嬢たちは、エスコートの殿方とともに入場し、初々しく挨拶をする。会場は拍手とともに温かな空気に包まれていた。


 この生ぬるい空気を一気にぶっ壊す。そして悪役令嬢に相応しいデビューを飾るのだ。


 ジュスティーヌとセドリックの名が告げられ、二人は中央の階段からゆっくりとパーティ会場へと降り立った。


 ジュスティーヌの衣装は混沌としたひどいものだったが、彼女自身は普通に愛らしい容姿の姫君だったこともあり、会場の温かい空気は、歓声や拍手、感嘆のため息とともにさらに盛り上がった。


 そうなのだ、ジュスティーヌはかわいいのだ。ストロベリーブロンドのふんわりとした髪にアメジスト色の大粒の瞳、透き通るように白い肌に華奢な身体。ここだけみると悪役令嬢というよりも彼女に虐げられるヒロインのお姫様役のほうがむしろ相応しい。


 自分が罪なぐらいかわいいことはジュスティーヌも十分承知している。だからこそ、彼女の容姿目当てのどこぞの腹黒王子に見初められでもしたら大変なのだ。


 とにかく最初が肝心だ。


 デビュタントの目玉と言ったら、そう、ファーストダンスだ! これこそ彼女が悪役令嬢であるとこの会場中に宣言する絶好の機会である。


「この美しいわたくしと最初のダンスを踊れる幸運な紳士はどなたかしら? われこそはと思うものは名乗りを上げるといいわ!」


 通常、ファーストダンスは、婚約者かエスコートの男性と踊る。ジュスティーヌは、悪役令嬢らしく初手から反則技をぶち込むことにしたのだ。


 彼女は一体誰とダンスを踊るのか、踊らないのか、悪役令嬢ジュスティーヌの運命やいかに!?

 最後まで読んでいただきありがとうございました!


 これとはテイストも内容も全く違う話も書いていますので、お時間、ご興味がありましたら読んでいただけると幸いです。よろしくお願いします!


【連載】

https://ncode.syosetu.com/n9148ld/

漆黒の魔王は紅き花姫を愛でる~敵国皇帝の后になりたくない鬼姫は、魔王に溺愛される


【短編】

https://ncode.syosetu.com/n3357lm/

異世界転移したらイケメン王子だったのは有難いのだが、ヒロインが俺の婚約者にいじめられていると訴えてきた。


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