第34話 植物工場
日本についての説明を少し
勢至菩薩様に道をつなぐことをお願いしたところ、むしろお願いしたいくらいと快諾いただく。
取り急ぎ、秋田さんにDMを送り、奈良さんや長崎院長らに共有してもらうようお願い。
道が繋がり次第、トラックでこちらまで来るとのこと。
まずは、三柱の神々の力を渡し、勢至菩薩様に道をつないでいただく。
勢至菩薩様は薄く目を閉じ、集中し始めた。
その周りを三柱の神々の力の結晶が飛び回り始め、力が高まっていく。
高まったプラーナが爆発するかのように天に向かって光の柱が立ち上り、周囲をさらに清らかな空気に変える。
道は無事、つながったようだ。
そして、勢至菩薩様は植物工場についても教えてくれた。
『そなたらが向かう直物工場には私の眷属を置いています。そこには食物を作っている人の子らが集まっていて、私の眷属は彼らを守っているのです。駅があるところから山に入り、彼らのところに向かってください。他に生きる人がいることが分かれば、彼らも安心するでしょう。』
植物工場には人がいるらしい。しかも食料を作ってくれているとなると、とても嬉しいことだ。
秋田さんにもう一度連絡して、金南寺ではなく工場に向かってもらうよう再度DMをした。
勢至菩薩様はこのお寺から動けないらしく、ここで工場を含む一帯を守ってくださるそうだ。
俺たちはお礼を言って、工場に急いで向かうのだった。
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高尾駅に戻り左手の山の方に向かっていく。この辺りは、20年ほど前に食料自給率を上げるための政府の施策で大規模な食糧生産地に開発されたところらしい。
お米や野菜、畜産まで行っていて、日本全国的にこういった集合施設が政府と企業が連携して立ち上げていった。
稀代の名総理と言われている高宮総理が首相に就任後、精力的に取り組んだ施策の一つ。
ナイン&Jモールもこの取り組みに参加しており、モールの食料は基本的にこういった大規模生産地から仕入れている。
というのが奈良さんが教えてくれたことだ。
選挙権は2040年時点で中学校に入学している12歳以上とされていて、子供のころから政治に参加するよう教育が進んでいるが、高宮政権が国民に非常に人気があり、15年以上続いているので、そこまで詳しいことは習っていても覚えていなかった。
そういえば、この状況下で高宮総理が何もしない訳は無いので、もしかすると政府関係者はみんな亡くなってしまっているのかもしれない。
ヴォヴォルやヴォーンなどのクトゥルヒも国会議事堂や総理官邸に攻撃を仕掛ける感じではなかったし、すでに対処済みとういことだろう。
いずれにせよ、偉大な日本のリーダーのおかげで食料問題が解決するというのはありがたい話だ。
この辺は勢至菩薩様の聖域の範囲内なのでアクマは出現せず、特に何もなく向上に到着。
入口には門があり閉まっていたので、インターホンのようなものを鳴らしてみた。
少し間が開いた後、恐る恐ると言った様子の声で、「どなたですか?」と問いかけがあった。
いつも通り名を名乗り、勢至菩薩様に話を聞いてここまで来たこと。武蔵野のナイン&Jモールまでの道が繋がっているので食料を運搬したいことなどを伝える。
GMの奈良さんの名前も出しておく。
するとインターホンの向こうから、わっと歓声のようなものが上がって返答が返ってこなくなった。
しばらく待っていると、心なしか弾んだ声の女性が門を開けるから少し待つように言ってインターホンは切れた。
「なんだか喜んでもらえているようで、良かったね!ホオリくん!」
うん、ミコトは今日も笑顔がまぶしいな。俺も特別陰キャという訳ではないが、カースト上位層というのは、どうしてこうキラキラしているのか。
「アンタ、相変わらず冴えない顔しているけど、私たち結構凄いことやってると思うわよ。少しは喜んだら?これでニンゲンは食べ物に困らないんでしょ?」
コッチーもにゃーにゃーとかわいらしい声で鳴いている。喜んでいるようだ。
「そうだね、まだ実感が湧いていないのかもしれない。けど、俺たちはやり遂げたんだよね。コッチーもレベッカもありがとう!」
「あー、俺たちの戦いはこれからだエンドみたいな言い方してるー。わたしはもっと強くなって活躍するつもりだよ!」
なんだそのマンガの打ち切りみたいなのは。
「ははっ、まぁ別にここで終わりって訳じゃないけど、一応一区切りって感じだよね。」
そんなことを話していると、門の向こうから中年の女性一人と男性が二人がやってくる。
「本当に人間なのね。まだ生きている人が残っていて嬉しいわ。私は岡山です。ここの責任者をしているわ。ナイン&Jモールの奈良さんもご存命なのよね。皆さんを歓迎するわ。」
岡山さんはモジュール型植物工場の研究者兼食料生産地域の責任者でもあるそうだ。
奈良さんとはかなり親しい仲らしい。
さっそく、奈良さんたちのXitterアカウントをお伝えし、連絡を取ってもらうようにお願い。
また、秋田さんたちがトラックでここまで来るので、輸送計画なども調整いただくことになった。
岡山さんは代表者会議で忙しくなるので、俺たちは他の人に工場など、生産地域を案内してもらうことになった。
特に勢至菩薩様の眷属という存在に挨拶もしておきたい。
どうやら【バサン】という名前で養鶏場を仕切っているそうだ。採卵、肉食の両方があり、かなりの数の鶏が飼われていて、卵も食肉も高い生産量を誇っているらしい。
まずは養鶏場に向かう。かなり換気や臭い対策はされているらしいが、結構な臭いがある。
こういうのはレベッカがうるさそうだが特に反応はなく、涼しい顔をしている。
「ねぇねぇ、やっぱり結構臭うんだね。レベッカさんは大丈夫?」
「そうかもね、私は風を操って臭いが来ないようにしているから感じないけど。」
「えっ!?そんなことできるの?わたしにもできる?」
え?レベッカはそんなことしてたの?そりゃ涼しい顔をしているはずだ。プラーナの扱い方は本当に匠の名そのものだよなぁ。
後ろにレベッカとミコトの会話を聞きつつ、バサンという人がいるらしいところに到着。
さて、どんな方なのか。菩薩様の眷属というからには慈愛に満ちた方なのだろうか。
基本的に出会う神様は神秘的な方が多いから楽しみだったりする。オオヤマツミ様のようにパワー系もいるんだけどね。
有能な政治家が総理大臣になった未来の日本が舞台です。
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