廃都エルドライ・5
目が覚めると、そこには何もなかった。
街があったはずの場所は一面の焼け野原となり、緑の植物が再生を始めている。
体のどこにも傷はない。
服に空いた小さな穴だけが、かつてここに矢が突き刺さっていたことを証明している。
ニクスの姿もなく、僕の手には一握りの灰だけが残されていた。
僕は1人だった。
街も、家族も、全て消えた。お姉ちゃんはもういない。
精霊の1匹も呼び出すことができない。
丘の上に風が吹く。
緑の匂いをのせた風が、手の中の灰を空へと運んでいった。
青空に雪のような軌跡を描いて、それは北へと消えていった。
僕に力があれば。
精霊を呼び出す力があれば。
何かが違ったのだろうか。
ぼんやりとしたまま、空を眺めていた。
昼と夜を何度も繰り返した。
嵐が来て、それも過ぎ去って、真っ青な空に暖かな風が吹いた。
風の音がする。草木の揺れる音がする。空で鳥が鳴き、大地で動物たちが歌っている。
まるで音楽のようだった。
……いかなきゃ。
どこに行けばいいかわからない。
だけど、どこかに行かなきゃいけない。
お姉ちゃんと、何かを約束した気がするんだ。
なんだったか思い出せないけど……
でも大切な約束だった気がする。
だから、行こう。
北へ。
誰かが呼ぶ方へ。
それは、やがて世界を救う少年の物語。
誰よりも精霊に愛され、なのに誰よりも精霊から遠ざかる。滅びた世界の最後の生き残り。
その物語はたったひとつの偶然からはじまる。
1匹の精霊も扱えない最強の精霊使いが、とある少女と出会うことによって。
辺境の街で起こったどこにでもあるテロ事件は、当初そこまで問題とされなかった。
しかしこの事件を境に、世界は急速に荒廃していく。
恐るべき精霊たちが各地を蹂躙し、人類の住み家は次々と破壊されていった。
そして数年後。
大陸の最北端にまで追いやられた人類の集落で、小さな奇跡が起こる。
それはひとつの偶然。
少年と少女が出会った。たったそれだけの物語。
どんなに絶望的な状況でも絶対に諦めない反乱軍指揮官の少女と。
すべてを失い絶望に暮れる人類最後の精霊使いの少年が。
──出会い、そして、崩壊した世界を再建する旅がはじまった。
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最後までお読みいただきありがとうございます。最後は短かったので一つにまとめたため、全9回となりました。
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