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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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7.怒ってそうな顔の男

「興味深いお話ありがとうございました。私たちは、これで」

「あ、はい。またいつでもいらっしゃってください」


 目的は果たせたし、さっさと帰らせてもらおう。そう告げたところ、男性職員が挨拶を返した。

 用事が終わったと見た瞬間、女性の方が声をかける。


「ねえそれより。あのお客さん、また来てるんだけど! 重装歩兵のこと、もっと教えてくれって。来て!」

「なんで僕が……」

「あなたが一番詳しいから!」

「あの人、顔が怖くて苦手で」

「学者がそんなこと言わない!」


 静かにしないといけない博物館で、職員ふたりが騒がしく立ち去っていく。


 ふたりの距離感から、なんとなく関係は察せられた。さすがに仕事中だからわきまえてるけど、プライベートだと腕を組むくらいは平気でやってるのだろうな。


 いや、それよりも。


「あの人、ずっと鎧を見てるのね」

「あの人?」

「私を転ばせた霊が憑いてた鎧よ。それを熱心に見てた男性がいた」

「ふうん。歴史に興味があるとか」

「わからないけど」


 それよりも、早く帰ろう。


 あまり長居すると、他の霊にも取り憑かれてしまうかも。


「ところでレオン。竜はどうだった?」

「格好良かった」

「それだけ?」

「?」

「なんかほら。蘇らせそうとか」

「蘇らせられるはずがないだろ。古代人の霊すら存在しないんだ。神を信じてるわけじゃない竜の霊はないし、蘇らせることも無理だ」

「そっかー。じゃあ、レオンはどうして竜が気になったの? 死んだ後に救う必要がない竜の死体に惹かれたのはどうして?」

「……格好よかったから」

「え?」

「格好よかったから。大きくて強そうで、ああいう生き物、好きだなって」

「かわいい!」

「うわっ!? いきなりなんだよ!」


 強そうな生き物に憧れるなんて。男の子だなあ。愛おしくて思わず抱きしめてしまった。


 もちろん、自分と同じく現存しない生き物への同族意識もあるんだろうけど。それを隠そうとするのもかわいかった。



 幸いにも、私たちは一回も転ばずにヘラジカ亭まで無事に戻ることに成功した。うん。よかった。


 レオンはまた博物館に行きたそうだし、他の展示物にも興味がありそうだったけど。

 また一緒に行ってあげようかな。他の展示スペースに足を踏み入れたら、また別の霊に転ばされることになるだろうけど。その時はその時だ。


 そして私は日常に戻る。今日もヘラジカ亭の皿洗いだ。


「今日は仕事が忙しくないわね」

「いつもに戻っただけだけどな」

「確かに。この前が忙しすぎたのよ」

「山で働く労働者も、鍛冶屋も仕事が落ち着いたんだろうさ」

「そうなのねー。鍛冶屋はともかく、鉱山の方はいつかは戻ってくるのよね?」

「そうだな。仕事が終わって金が入れば、また忙しくなるぞ」

「いつのことになるやら」


 お皿を洗いながらレオンとお喋り。今日は比較的客足が落ち着いてるから、こんなことをしても怒られない。

 まあ人気店だから、お客さん自体はしっかり来てるのだけど。


 そして客がいるなら、変な客もいるわけで。


「レオンー。あそこのカウンター席のお客さん、訳ありっぽいから様子を見てくれない?」


 ホールから戻ってきたニナが話しかけてきた。


「訳あり?」

「なんかね。よほど悲しいことがあったらしくて。深酒をしながら泣いてて」

「身内に死人が出たとか? 単に仕事で失敗したとか、恋人にフラれたとかかもしれないけど。どんな客だ?」

「なんかね、厳つい顔の男の人。怒ってるわけじゃないけど、怒ってそうな顔してるの」

「ふうん」


 男性の顔を特に気にしてないレオンは淡白な反応を見せたけど、私はちょっと気になってしまった。

 あの人じゃないかなって。


 レオンについていってホールを覗けば、確かに彼がいた。


 なんで私と縁があるのかは知らないけど。浴びるほど酒を飲みたくなって、評判の酒場に入ったなんてのは、普通にあることだろう。大きな店だし。


「憑いてないように見える」

「私、博物館であの人の前で転んだわ」

「あー……」


 その時に、私に霊が乗り移った可能性が高い。


「ルイを転ばせたのは、鎧に取り憑いていた霊だけじゃないってことか。あの男の霊が」

「みぎゃー!?」

「あ。転んだ」


 話してる途中で、私は調理場で転んでしまう。どう考えても、あの男性に憑いていた霊の仕業だ。

 調理場のスタッフの視線を感じながら、私は起き上がって壁にしがみついた。


「間違いないな。今の霊とあの男との関係はわからないけど。親族か妻か。殺された相手か」

「顔が怖いからって人殺し扱いはやめなさい」

「殺した相手に霊が取り憑くのは、よくあることだぞ。そんなことをしても、何も良いことはないけどな」

「あって欲しいわね、それは」

「霊が人間に影響を及ぼしても、生者は怯えるだけだよ。悪人だけがそうなるならいいけど、周りの善人にまでいらない恐怖を与えるなら、それは害悪だ」

「悪人を怖がらせるのは許すのね」

「まあな」


 こういうところ、死者に寄り添うって言えるのかしら。


「あの男の相談に乗るから、ルイも来てくれ」

「霊は楽にしてあげたいってことね」


 レオンの方針には賛成できる。


「よう。なんか気落ちしてるみたいだな。悩みを聞かせてくれ。俺、こう見えて教会で働いてるんだ」


 安っぽい詐欺師みたいな言い方だ。しかも偉そうなガキの言うこと。言い方も尊大だし、真に受けるのもどうかと思う。

 けど、レオンは嘘をついていない。詐欺師なら、こんな子供がするような仕事でもない。

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