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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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44/60

44.死者たちの復讐

 なんで公爵令嬢が資材置き場なんかに立ち寄ったのかと疑問を持たれたら説明なんかできないけど、そこは公爵家の威光を以て黙らせよう。

 あと、満足に明かりもない中で探すのは彼の仕事だ。私? 公爵令嬢がそんな泥臭い仕事をするはずないでしょ? 姉さんならそうするはず。


 ありもしない指輪を探すはめになった見張りには心から同情しつつ、その隙に入り込んだレオンたちをちらりと見た。


 遺体四人で姉さんとネドルを運んでいる様は、こんな夜中じゃなければ目立って仕方ないだろうな。

 私は、見張りがレオンたちを見ないよう、しっかり監視しつつ彼らの姿を隠すように少しだけ立ち位置を変えた。



――――



 月明かりの下、ユーファはルイーザの姉の顔を見つめていた。


 ルイーザとよく似ている。けど、目つきが悪い気がするな。ルイーザ以上にそうだった。 

 これは顔つきの問題かな。それとも、性格が顔に表れているのだろうか。


 そんな彼女は、今はユーファにすがるような目を向けていた。


 なんで自分がこんな目に遭うのかわからないって顔だ。それも、実の妹の手によって。

 実際に指示しているのはレオンなのだけど、そんなことはルチアーナにはわからない。


 小さな女の子ならお願いを聞いてくれると考えているのか、彼女は必死に口の布を押し出して話そうとしている。


 ユーファはその布を黙って押し戻した。

 見れば、レオンもネドルに対して同じことをしている。


「お前たちのためなんだよ」


 理由がわかっていないふたりに、レオンが静かに説明した。

 もちろん、この夫婦が納得するとは思えないけど。


「お前たちは罪を犯した。セレムの実を使って労働者たちに無理な働きをさせていたことは、いずれ誰かにバレる。神父たちが怪しいと考え始めている」


 それは事実。このまま死者が増え続けたら、教会は本気で調査することになるだろう。

 労働者自身も疑問に思うだろうし、いずれ事実に気づく。そうなれば待っているのは暴動であり、この夫婦は暴徒によって八つ裂きにされかねない。


「そうなる前に手を打った。お仲間たちは既に逃げたぞ。お前たちも、原因不明の事故によって大怪我を負って、公爵領に帰ることになる……原因不明というよりは、死者の祟りによってだな」


 真実を知った四つの霊。そして今ルイーザに憑いているそれ以前の霊は、この夫婦への制裁を望んでいる。

 だから死者の仕業というのも、あながち間違いではないな。霊それ自体に祟る力なんかないとしてもだ。


「むー! むー!」


 ネドルたちはレオンの言葉の意味がわからないのか、なおも暴れようとしていた。手足を縛られ、死者にふたりがかりで押さえつけられているのだから、無駄な抵抗だけど。


「お前たちは今から大怪我を負う。死にはしない。助けられた後に、なぜこうなったのか訊かれるだろう。わからないと答えろ。気づいたらこうなった、と」


 積まれている木材の近くに着いた。遺体がそこにふたりを下ろす。


「間違っても、ルイの存在をバラすなよ? 死者を蘇らせるネクロマンサーが関わっていることもだ。もしこの件が人の手によるものと明らかになれば、当然動機が探られる。俺たちは見つかるつもりはないが……お前たちが下手なことを口走れば、その悪事も露呈するぞ」


 だからおとなしく怪我をして、不可思議な現象に巻き込まれたことにしろ。レオンはそう言っている。


 ユーファには、彼らが言いつけを守るとは思えなかった。少なくとも今は、屈辱の中でどうやり返すか必死に考えているはずだ。

 いい案を考える頭はなさそうだから、告げ口するしか思いついてないだろうけれど。その口を、レオンはこれから塞ぐ。


「手足を折れ」


 遺体に命令した。労働者たちの素性はわからないけど、今は等しく死者。そしてルチアーナたちに恨みを持っている。

 布のせいで声が出せない夫婦が、必死に首を振って拒んでいるけど、無意味だ。


 遺体のひとりがルチアーナの腕を掴んで、本来とは逆の方向に曲げる。音と、くぐもった悲鳴がしたけど今は夜中。誰も聞く人間はいない。

 それを皮切りに、四人が次々に痛めつけた。


 足に体重をかけながら踏みつけることで折る。腕を限界以上に捻って折る。動けなくなった体を囲んで蹴る。

 ネドルもルチアーナも手足が無茶苦茶な方向に曲がり、骨が突き出ている箇所もあった。それも服を突き破ってだ。

 顔面も蹴られたからか、鼻が曲がって唇が切れて、血がダラダラと流れていた。


 それでもふたりは生きている。生かされている。レオンは死ぬのを許さない。


 抵抗する気力も失ったのだろう。布を口から出そうとすれば、すぐに顔面を蹴られる。

 だから叫ぶ試みを諦めて、代わりに目で懇願するようになった。この非道をやめてくれと。


 夫婦の気持ちが同じになった瞬間だ。尊さなど微塵もないけれど。


「満足したか?」


 レオンの問いかけに、労働者たちが最後にひと蹴りずつした。うちのひとりは、ネドルの股間を踏みつけるように蹴った。

 高そうな寝間着のズボンから血が滲んだ。痛そうだな。


「それくらいでいいだろ。そろそろルイも待ちくたびれてるだろうから。みんな裏に回ってくれ。ユーファ、やるぞ」


 虫の息のネドルたちを置いて、遺体たちは積んである木材の反対側に向かう。そしてユーファはナイフを出すと、木材を固定している縄を切る。レオンもタイミングを合わせて、別の縄を切った。

 これは、積んである木材が勝手に崩れたりしないためにあるもの。それが切られればどうなるか。


 しかも裏側から、遺体が山を押した。ネドルたちの方へ。


 ユーファとレオンは素早く逃げたけど、手足を折られたネドルとルチアーナはできなかった。

 木材が、ふたりの上に降り注いだ。

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