43.拉致した姉っぽく振る舞います
いつの間にか外は暗く、労働者たちも寝静まる時間だった。姉さんたちも寝ていることだろう。
私とレオンとユーファと、死者四人。ひとかたまりになって教会から出て、テント村の中心へと向かっていく。
姉さんたちが寝ているテントは、既に明かりが消えていた。入り口には見張りがひとり。
ユーファと遺体のひとりが、正面から見張りの方に歩いていく。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
少女がひとり、こんな時間に歩いていることに見張りは困惑しているようだった。
「ルチアーナさんに、用がある。起こして。この人が話がしたいって」
「今はお休み中だ。明日に」
「起こして」
そして、ユーファはこれ以降、起こして以外に何も言わなくなった。しかも基本的には無言で、見張りが困惑した頃に口にするというもの。
貴人を、どう見ても村娘なユーファのために起こすなんてありえないこと。けど、ユーファの無言には圧がある。
何も言わない少女を前に、見張りは困惑したようだった。
その隙に、私たちはテントの裏側に回る。
レオンがナイフでテントの布を切り裂いた。よく研ぎ澄まされたナイフは、布にあっさり裂け目を作った。それも音を立てずに。
テントの中で、姉さんとネドルはぐっすりと寝ていた。自分が犯した悪事の制裁を受けるとは思ってもいないのだろうな。
ふたりのベッドに忍び寄った。姉さんの寝顔と対峙しつつ、顎を掴んで布を丸めたものを口に突っ込んだ。隣ではレオンがネドルに同じことをしている。
こんなことをされたら、さすがに姉さんも起きた。目をかっと開いた彼女は、目の前に行方不明となっている妹がいることをどう捉えたのだろう。
彼女は、怒りと困惑と、この状況からの救いを私に求めるような視線を送っていた。声をあげようとした彼女の顔面を、私を気にかけていたらしいレオンがぶん殴って黙らせた。
拳に布を巻いて、音が出ないようにした上のパンチだ。
表の見張りが、私たちの狼藉に気づく様子はなかった。
見れば、ネドルも鼻から血を流していた。起きてるようには見えないけど、問答無用でレオンに殴られたのだろう。
何度か殴打を受けた姉さんはぐったりとうなだれた。産まれてこのかた暴力とは縁のない生き方をしていた女だ。突然殴られてもどうすることもできず、黙るしかなかったのだろう。
そして、労働者の遺体に手伝ってもらって、ふたりの手足を縛り上げた上で、体を運んだ。
その途中、ユーファに合図を送る。
「そっか。わかりました。明日また来ます」
ユーファはあっさり引き下がり、遺体と共に去っていった。後には、何が起こったかわからない見張りと、無人のテントだけが残された。
寝静まった村を私たちは歩く。姉さんたちを運ぶのは遺体四人に任せているけど、私も暇ではない。
「はい。これを使え」
「なんでまた、姉さんの髪を使うことになるのかしら」
「姉妹だから髪質も似てるだろ」
「そうなんだけど……」
姉さんの長い髪の一部を、レオンが切り取って私に渡した。
私はちょうどサイドテールにしているから、その房に髪を結びつければ、長髪に見せかけることが可能だ。
就寝時だから髪をまとめている。そう思わせれば、私は姉になりきれる。
そう。レオンの指示で私は今から、姉さんを演じなければいけない。
やはり見張りがひとり立っている、鉱山へ続く山道の入り口に着いた。レオンたちは少し離れた所に隠れていて、私ひとりが見張りの方に歩み寄っていく。
月と星以外に明かりのない夜。暗がりでは相手の顔はよく見えない。
あと、服装の違いなんかもわかりにくいはずだ。
そして不本意ながら、私と姉はよく似ている。同じ美人だし。
大丈夫。私はできる。要は、高圧的に振る舞えばいいだけだ。
姉だけじゃない。そんな奴らは前からずっと見てきた。
「あなた! ちょっと手伝ってくださるかしら? 大事な指輪を無くしてしまったの。そこの資材置き場のどこかにあるはずなんだけど、一緒に探してくださるかしら?」
姉ってこんな話し方してたっけ。してたかもしれない。うん、してた。
いずれにせよ、この村にこんな話し方をする馬鹿は姉以外にいない。暗がりでは、私と姉の顔の区別もつかないことだろう。
見張りは信じた様子で、次にどうするべきか迷った様子を見せた。
「る、ルチアーナ様。もう夜です。探すのは明日に」
「痴れ者! 明日にはあそこの資材はいくつか運ばれていくでしょう! それに紛れて大事な指輪が持っていかれたら、あなたどう責任をとるのよ!?」
「そ、それは」
「言い訳無用! あれはお父様、公爵様から頂いた大事な指輪! それを探さず、この私の命令に背くということは、公爵様に逆らうということ! ああ恐ろしい。どんな罰が下ることでしょう……!」
ごめんなさいごめんなさい。別に、好きでこんな意地悪で馬鹿馬鹿しいことを言ってるのではないの。全てはあのクソガキの命令なの。
夜中にこんなわがままを叫ぶなんて、痴れ者は私の方じゃないか。本当に、見張りさんには申し訳なく思ってる。
心の中で何度も謝りながら姉の振る舞いを真似していると、見張りはついに折れて資材置き場に私を案内した。
掘り返された土が積まれているどこかに落としたから、そこから探し出せと命じた。




