4.博物館の展示物
「あの人たちは鍛冶屋さんだねー」
レオンと入れ替わりにやってきたニナが教えてくれた。
「大きな仕事が終わったから、みんなでお疲れ様会やってるんだね。家族も呼んで」
「鍛冶屋?」
「みたいだねー。斧やらツルハシやら、大量に作ったらしいよ。国からの要請で」
「そっかー」
仕事道具も王都で作ったのか。景気を良くするためとかで。まあそれは、公爵領の鍛冶屋の規模では賄えないとかあるのかもしれないけど。
鍛冶屋街というのが、王都にはあるらしい。同業者が集まってる区画。
もちろんその近くに、鍛冶屋たちを相手にする酒場もたくさんあるだろう。けど人数の多さとか、たまには中央部の評判いい酒場に行こうとかの考えで、ここまで人が流れてきた。
そして私が苦労している。
「まあまあ。お給金は多めに出すからさ。頑張ってよ。今度のお休みはレオンとデートでしょ?」
「デートじゃない……もっとロマンチックな場所に行きたい」
ネクロマンサーが、自分と同族だと思ってる竜について調べるだけだ。
まあ、レオンが本当にどう思ってるかは私の推測だけど。
「いいじゃんいいじゃん。男の子のはしゃぐ姿って、いいものだよー」
「それはわかるわ」
クソガキの癖に、好きなことには真摯なのよねレオンって。
そういう時の楽しげな表情は、確かにかわいい。
よし、頑張りますか。
そして、お休みの日になった
王立博物館。国家にとって重要とされる資料を収集、保管、研究する機関。そのごく一部を一般に展示することで、国民の学力レベルの底上げを図る施設。
収集するのは歴史的な遺物や、近年作られたが後世に残すべき貴重な発明品や工芸品。
それから、社会の中の様々な階層の暮らしの様を記録し、なんでもない日用品を収集することも。これは外国の品も同じ。
ちなみに、私が卒業した学校の関連施設でもある。運営元が同じ、学術院という組織。
学術院は国に属する官庁であり、国家の学問と教育を担うお役所。王立学校も学術院の下にある。
私は十八で卒業したけど、学校に留まって勉強したいと考える変わり者が、学者になって学術院の官僚や博物館の職員となるわけだ。
だいたいが、貴族の長男ではない息子だな。次男とか三男とか。
長男は家を継がなきゃいけないから、早々に卒業させられ政治を学ばされる。娘は行き遅れる前に婿探しが急がれる。
あとは頭の良さを見込んで養子にされた元庶民とかも。学問という分野で家の影響力を強めたいとかの思惑と共に学問を仕事にする。
結局これも、政治だな。
学問の場も、金持ちたちのパワーゲームからは逃げられないんだ。
博物館はそういう場だけど、故に学校の生徒は課外学習として連れて行かれることがある。
私も一度来たことがある。その時の思い出は……そうだ。
「ぎゃー!?」
博物館の一角。国内の遺跡から発掘されたという、先史時代の石器の前で私は転んだ。
性質上、博物館には過去の品々が多く集まる。中には霊が憑いたものも多いだろう。
在学中から転倒には慣れていたけれど、思い起こせば確かに博物館では特に転けていた気がする。
というか、私が転んだ前にあるのは、大昔の石製の斧なんだけど?
人類が道具を使い始めた頃、一万年前とかのもの。その時からいた霊なの!?
「あわわ。レオン、手を繋いで」
「まったく。あとで祓ってやらないとな」
「うん。みんな素直に冥界に行ってね……」
レオンにしがみつきながら、博物館をゆっくり歩く。彼は大昔の石器も興味深そうに見ていたけど、今回のお目当てはそれじゃない。
二百年前の、魔族戦争の頃の資料だ。
そのフロアの中央部に、巨大な竜の骨格が天井から吊るされていた。
本当に魔族戦争当時のもの。魔族の竜騎兵が乗っていたのが竜ごと討ち取られた、その骨格が保存されている。
「これが竜……」
一瞬だけ呆気に取られた様子のレオンは、すぐさま竜の方へ向かっていく。私と繋いでいた手が離れた。
「あ、ちょっと待って。置いてかなみゃー!?」
案の定転んでしまう。まったく!
「大丈夫か」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます……」
男性の声がして、彼に助け起こされる。
がっしりした体格の方だ。普段から鍛えているのか、腕が丸太のように太い。歳は二十代半ばかな。
顔も厳つくて、眉が吊り上がっているようになってて、眉間にも皺。そんなはずはないけど、怒ってるような印象を受ける顔つき。
「気をつけろ。貴重な収蔵品の前だ」
「はい。気をつけます……」
ぶっきらぼうな言い方だけど、私のことを気遣ってくれているのはわかる。
その収蔵品に憑いた霊が、学生時代の私に憑き直して、卒業した私を再度転ばせたわけだけど。そんなことを男性は知る由もない。
ところで、私を転ばせたのは。
「鎧?」
ゴテゴテした装飾が目立つ、大きな鎧だった。
展示品とはいえ、定期的に磨かれているのだろう。金属の光沢が眩しい。
傍らに置かれる説明を見ると、これは正真正銘、二百年前に使われた重装歩兵の鎧だった。
魔族から奪った領土が再侵攻された際、急遽作った砦に立った貴族の息子が纏っていたもの。
勝ち戦になる可能性は小さかったと、事前に予想されていた。それでも判断を誤った金持ちがいたのだろう。どうしても守らなければいけない砦で、息子ひとりだけを逃がすのも名誉に関わるとかの判断もあったのかも。
結果として、負け戦でも雄々しく戦った兵士の中で、ひとりだけ狼狽えながら貴族の息子が死んだ。




