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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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39.横暴なクソガキと優しい私

 言われた通り、まずはリーダー格の男の右肘の関節を射抜いた。利き腕がしばらく使い物にならないだろうな。

 彼は悲鳴をあげながら、逃げたり隠れたりするわけでもなく、ただその場に突っ立って腕を押さえただけだった。

 その左腕にも矢が刺さる。


 悲鳴に、周りの作業者もそちらを向いて、しかしなにか対処をするわけではなかった。

 リーダーが負傷したという事実に狼狽えながら、キョロキョロと周りを見るだけだった。その隙に、別のひとりの肩が射抜かれた。


 最後のひとりには、レオンが向かっているところだ。ユーファが最初の矢を放った時には駆け出していた。その音と姿を、男たちは悲鳴に気を取られて気づかなかった。

 唯一無傷だった男は、肉薄してきたレオンに腹を殴られ、姿勢が低くなったところで顎にアッパーを食らって昏倒した。


「お前ら、静かにしろ。公爵令嬢ルイーザ・ジルベットがお前らに会いに来てくれたぞ」


 レオンが高らかに宣言した。私の名前を大々的に使うことにしたらしい。


「え、えっと。私は」

「堂々と姿を現して」

「ひゃい!」


 ユーファはレオンの意図をちゃんとわかっているようで、静かに命令した。それに押されるように、布で顔を隠した私は、ゆったりとした歩みで前に出た。

 後ろでユーファが、お腹に手を当てながらついてくる。リリアの真似をして侍女になりきってるのだろう。背負った弓が襲撃の張本人だと主張してるけれど。


「お前ら。公爵令嬢だぞ。頭が高い」

「いえ。そのままでいいわ」


 レオンに、威厳ある言葉をかけて制止した。


 怪我してるのに、頭を下げろとは言えない。

 彼らとて、私の姿は知っているのだろう。髪を切ってマスク姿ながら、公爵の次女であることに気づいたらしい。


 行方不明になっていた次女が、なぜここにいるのか。そんな疑問はありつつ、権力に逆らえない性質の彼らは恐縮した様子だった。


「あなたたち。この少年の言うことに従いなさい」

「肝心なところは俺任せなんだな」

「ええ。私は貴人だから。些事は下男に任せるものよ」

「まったく。おい、お前たち。まずは静かにしろ。お仲間のドープアドは、既に捕まった。ルチアーナはお前たちを助けに来るほど優しくはない。俺がその気になれば、お前たちは誰にも知られずに殺せる」

「レオン。怖いことは言わないで。彼らとて公爵領の大切な領民。命を粗末に扱わないで」

「ったく。自分だけ格好つけやがって」


 不平を言うレオンだけど、私の意図は把握したらしい。


 横暴なクソガキに対して、比較的話がわかって立場もあり美しい私に、彼らは好感を抱くはず。故に話しやすくなる。


「聞かれたことだけ答えてくれれば、これ以上の怪我は負わせない。下手に抵抗したり、嘘をつけば命はないけどな」

「やめなさい、レオン。あなたは荒っぽすぎるのよ。……あなたたち。協力してちょうだい。これは姉さん、ルチアーナのためでもあるの。彼女は罪を犯している。このまま続ければ、大問題になる。その前に止めないと」

「お前たちが作ってるこの薬で、大勢の人間が死んでいる。さすがに、おかしいと考えて誰かが調べるだろうな」

「そうなれば、姉さんやネドルの悪事が明るみに出る。王都の土地で、王都の人間が死んでいる案件よ。公爵令嬢の力じゃ誤魔化せない」

「お前たちも罪に問われるぞ。たぶん死罪だ」


 今まさにナイフを弄んで殺そうとしている少年に言われて、男たちは恐怖で震えていた。


「だからレオン。落ち着きなさい。……あなたたち。レオンの質問にちゃんと答えなさい。そうすれば、解放してあげるから。罪にも問われないように……できる?」

「ああ。できる。ちゃんと正直者であれば、お前たちを守れる」

「だそうよ。私の言うとおりにしてくれるかしら?」


 男たちは、首がもげるのではという勢いで頷いた。よし、いい子だ。


 まず第一の質問として。


「お前ら三人とドープアド。この四人の他に、お前たちの仲間はいるか?」

「る、ルチアーナ様とネドルが」

「それ以外に」

「いない!」


 あのふたりを勘定に加えるあたり、律儀な人ではあるのかも。


「本当だな? 例えば、粉の材料になる木の実を、今まさに取りに行ってる奴がいるとか」

「いない。木の実は早朝、働いている奴がまだ山に入らない内に取りに行くんだ」

「本当か?」

「本当だ。絶対に、奴らと鉢合わせしないように。地元の猟師にも」

「……なるほど」


 説明の筋が通っていることよりも、リーダーがナイフをチラチラ見て恐れていることを信頼の根拠にしているらしい。


「ユーファ。見張りはいい。作りかけの粉に水をかけて、捨てろ」

「え、ちょっ!」

「お前たちの悪事の証拠を消してやるって言ってるんだ」

「……そうか」


 事実が知れたら証拠はいらない。悪人への制裁は暴力を以て行う。それがレオンの方針だ。

 彼らの用意した飲水はすぐに見つかった。ユーファがそれを粉にかけて舞い上がらないようにするのを横目に、尋問を再開した。


「これを指示したのは、ルチアーナかネドルのどっちだ?」

「ネドルが俺たちに命令した。けど、考えたのはルチアーナ様だ。早く仕事を終わらせて家に帰りたいからと」


 彼らが姉さんと違ってネドルを呼び捨てにしているのは、取り巻きであり友人だからだ。たとえ、指示に従うままに悪事を働かされる関係であっても、一応は友人。


 ルチアーナの友人に、この手の悪事ができる人間はいなかったのだろう。たぶん友人の多くが女だろうし。

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