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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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37.森の中の精製所

「あいつに見覚えは?」

「あるわ」

「あるのかよ」

「ええ。社交パーティーで見たわ。公爵領の下級役人の息子よ。もう少しわかりやすく言えば、ネドルの取り巻き」

「なるほどな。この前の、王子が個人的に集めた護衛みたいなものか?」

「ええ。将来高い地位に就く相手に媚びて、恩恵に与ろうとする人たち」

「そうか。ネドルのってことは、旦那も共謀済か」

「でしょうね。取り巻きは、あと数人はいるはずよ」


 そんな男は、村の外れに歩いていく。山の方だ。開発中の鉱山の入り口とは離れた箇所。


「さっき、おじいさんに教えてもらったところじゃない?」

「なるほど」


 ユーファがようやく口を開いた。そしてすぐに閉ざした。

 ちょっとでも話してくれて嬉しいわ。


 山と、その裾に広がる森の中に入っていくと、尾行もかなりやりやすくなる。

 ユーファ曰く、木こりや狩人が利用するルートとは外れているらしい。彼女が、男が通った後の木の幹を指差した。

 ナイフで荒っぽくつけた傷があった。本来のルートではないけれど、木を傷つける形で道に迷わないように目印をつけたというわけ。


 森と共に生きる狩人としては、許されざる行為なのかも。ユーファの表情には、微かに怒りが込められているようだった。


「余所者がなんの助言もなしに森に入って悪巧みすれば、こうなるんだよな。切れ味の悪い安物のナイフで、強引に傷をつけてる。素人の仕事だ」


 レオンも、幹の傷を見ながら憤りを口にしていた。そこ、そんなに重要なことなんだろうか。


 男は森の奥までずんずん進んでいったけど、印のおかげで私たちは彼を見失っても迷うことはなかった。


 やがて、森の中にテントが張ってあるのを見つけた。

 村のテントと同じものだ。ひとつ拝借して来たのだろうな。それくらいは難しくない。


 平地ではなく、裾とはいえわずかに山の傾斜がある場所な上に森の木々が密集する狭い場所に建てているため、村のよりも歪な建て方をしているようだ。

 単に、建てて使ってる人たちが下手なだけかもしれないけど。


 建っているのはテントだけではなかった。


 傍らに籠が積んである。中身は見えないけど、作業している人間が四人ほどいた。さっき集会場に来ていた男も、そのひとり。



「おい。これも持っていけるぞ」


 そんな彼に声をかける、別の男。集団の中でひときわ偉そうな態度を取ってるから、たぶんリーダー格なんだろう。

 ネドルがいない場では仕切りたがる、取り巻きのリーダーってことだ。なんて不名誉な称号だろう。


「なんだよ。さっき戻ってきたばかりだろうが」

「行けよ。ルチアーナさんの機嫌を損ねるな。こっちも必死で作ってるんだよ」

「ったく。あの女。偉そうにしやがって」

「いいから。さっさと行けよ」

「はいはい」


 男は不平を言いながら来た道を引き返したものだから、私たちは慌てて木の陰に隠れる。

 まさか尾行されていたなんて思ってもなかったのか、彼は私たちに気づくことなく村へ戻っていった。


 鈍い男だ。隠れる場所が多かったというのもあったけど。

 それに、彼は不満は言いながらも足取りは軽かった。そのせいで、周囲への注意は疎かになってるのかもしれない。


 リーダー格は、他の仲間に指示を出していた。

 テント脇の籠から何かを取り出して、鍋に入れてすり潰す。そして火にかけて炒ることで水分を飛ばし、さらに天日干しにして乾燥させるというのが主な工程。


 籠の中身は木の実だった。小さく赤いもの。

 木になっても重くないから垂れ下がらず、空からでも見つけやすい色をしているから鳥の注意を惹きやすい。

 大きさも、鳥に作用するならこんなものでいいだろう。


「あれが?」

「うん。セレムの実」

「なるほどね……」


 火にかけて、小麦粉に混ざるようにサラサラにするのだから、その過程で吸い込むくらいはするだろう。

 依存性のある薬物らしいから、彼らが普通に服用しているのもわかる

 ここと村の往復を繰り返しているらしいさっきの男が、不平を言いながらも元気そうだった理由はこれだ。


 ネドルと姉さんは手下に危険な仕事を任せているわけだ。


「炒って水分を飛ばすのはともかく、天日干しにするには向かない仕事場だよな」

「そうね。森の中だから、日光なんかろくに当たらないわよね」


 せめて、葉の影が少ない場所に置いて干しているのはわかるのだけど。

 隠れてやるなら、こうするしかなかったのだろうな。


「生成の効率が悪いのに、人手はあれだけしかないし消費量は多い。あの集会場でも、一日中パンを作ってるだろうしな」


 だからさっきみたいに、粉が出来た端から持っていかなきゃいけない。


「とにかく、製造をやめさせるぞ。粉を吸い込まないようにしないとな。布で口を覆え」

「布って言われても。ハンカチとか持ってきてないわよ」

「……そうだな。よし、ちょっと戻るぞ」

「村まで?」

「いや。さっきの男が戻ってくるのを迎え撃つ。森の入り口あたりでな」


 そして少し後。村のルチアーナに新しい粉を渡して戻ってきた男は、なんの警戒も無しに森に踏み込んで。


「今」

「うん」

「ぎゃっ!?」


 レオンの合図によって射られたユーファの弓によって膝を射抜かれ、悲鳴を上げた。

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