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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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23/60

23.人生のパートナーってなによ

「責任者って、貴族? 現場の最高責任者?」

「違う違う。そこまで偉くない人だよ! 一番偉い人の下で頑張ってる、それなりに偉い人。あ、普請院の人って言ってたよ!」

「王都側の官僚か。指揮系統が複雑なんだな」


 レオンが小さく呟いた。


 鉱山開発の責任者は、公爵家が担当しているはずだ。けど、労働者と道具は王都が負担している。

 最高責任者は公爵家だけど、現場は王都だし作業員も王都民ということは、それだけで軋轢が生まれそうではある。


 だから、間に立つ人間として王都の官僚も現場にいるんだろうな。それこそ、準備段階から。


「うちに来た理由は、追加の道具をまとめて買いたいって話だったかな。なんかね、逃げ出す労働者が多いんだって。それも道具ごと」

「ふうん。道具ごとなのはなんでだろう」

「わかんない!」

「そっかー」


 レオンとアニエスの、ゆるい会話に中身はあまりなかった。


 労働者が道具を持って逃げる理由については、レオンもあまり興味がなさそうだし。

 労働分の給金がもらえない代わりに持っていくとか、そんなのだろう。現場の労働者が、そんなに高い給金を貰ってるわけじゃないのは、私にもわかる。上の人たち、例えば姉さんたちが貰えるお金よりずっと少ない。

 道具くらい貰っても大した罰は当たらないだろう。


 それより重要なのは、逃げること自体だ。


「その理由も、偉い人はわかんないらしいよ」

「そっか。竜が出るっていう噂は?」

「偉い人は言ってなかったなー。ごめんね、わたしも、その席にいたわけじゃないから。お父さんと話してるのを聞いただけだから」

「いや。いいんだ。山で何か起こってるらしいことはわかったから」


 こいつ、本気で山に行くつもりだな。


「レオン。さっきも言ったけど、山に行くならわたし以外の誰かと一緒に」

「ジャン。これはアドバイスなんだけど、男爵に手紙を書け。最終的な完成図は別として、ヘクトルの採寸をしてサイズを合わせたいから、息子をひとりだけでよこせって」

「わかった。息子の意見を聞くためだな」

「ねえレオン。私の意見も聞いてほしいな」

「ははっ」

「おいこら。わざと無視したでしょ」

「レオン。お前は山に興味があるのか?」

「うん。竜がいるって噂を確かめたくて」

「竜か。お前、博物館でも竜に見入っていたな」


 私がジャンの前で転んだ時のことか。この人、レオンのことも見てたんだな。


「あまり、人生のパートナーを困らせるなよ」

「わかってる」

「いやいや。人生のパートナーってなによ」


 まあ確かに、私とレオンは仕事で組んでるけど。

 けど人生のパートナーって変な言い方だ。それじゃあまるで、私とレオンが、け、結婚するみたいじゃない!


「でも素敵ですよねルイーザさん! レオンくんって大人びてるし頼れるし。一緒にいられるルイーザさんって幸せだと思います!」

「いやいや。何言ってるんですかアニエスさん!?」


 頼れはするけど、大人びてるのではなくて生意気なだけのクソガキだ。


「ルイーザさん! レオンくんのこと、守ってあげてくださいね!」

「えー」


 確かに、傍から見たら私が保護者だけど。


「レオンくん。竜、見つかるといいね!」

「う、うん」

「待って待って」

「ルイーザさんも、頑張って竜を探してくださいね!」


 これじゃあ、レオンの行きたいところに連れて行ってあげるのが私の仕事みたいだ。

 というか、竜が本当にいるとは思ってないレオンも、戸惑い気味だし。


 アニエスはいい子なんだけど、ちょっと独特だな。勢いとかが。

 どうやら母親に押さえつけられていたらしい。ジャンの家では解放された気分なんだろうな。楽しそうだ。


 この笑顔を見たら嫌とは言えないし、たぶん後日どうなったか訊いてくるだろう。


「ああもう! わかったわよ! レオン! なんとかするわよ!」

「うん」


 レオンも嬉しそうだなあ。こうなることを狙ったわけじゃないだろうけど。

 ジャンはさっそく手紙を書こうと机に向かった。邪魔すると悪いし、私たちも山行きの準備をしないといけないから、今日はお暇することに。


 特に警戒することなく家の扉を開けて。


「あ……」


 家の真正面に人が立っているのを見た。鍛冶屋らしいしっかりした体格と、それに似合わぬ神経質そうな顔。

 ドヴァンだ。


 ジャンの家に声をかけようとして、出来なくて躊躇っているのを繰り返していた。そう見えた。


「アニエスならいないぞ」


 ドヴァンの目的が何か知らないし、さらに彼はこちらの存在すら知らない。

 対面してる以上はなにか話さないといけないかもとは思うけど、レオンはどんな判断でこう言ったのか。


 ドヴァンがあからさまに落胆した様子を見せたあたり、効果はあったらしいけど。


「そうか……あんたたちは何者なんだよ? なあ、もしかしてお前、ジャンの」

「俺たちは教会から来た。ジャニドさんの弔いにな」


 ドヴァンは落胆の後、当然の質問を投げた。そしてレオンはなんともない様子で嘘の返事をする。


 けど、私の方を見ながら、ニタニタと笑みを浮かべていた。ジャンの何と言いたかったのか。レオンに遮られたけど、予想はつく。


 おおかた、アニエスが留守の間に女を連れ込んでいたという事実から、なんとか彼女を手に入れる口実にしたかったのだろうな。ジャンは浮気者だとアニエスに吹き込むとかで。

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