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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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11.ジャンの父のこと

「情報を入手出来ましたよルイーザ様!」

「仕事が早いのよねー」

「友達の友達が、ヴィルオバル家で働くメイドでした!」

「そ、そう……」


 二日後の夜には、リリアが元気な声でやってきた。

 その後ろには。


「こちらも、ジャニド氏については聞いて来ましたよ」


 エドガーがいた。この人は普段の教会の仕事をこなしながらの情報収集だ。


 鍛冶屋街の近くの教会の神父に接触すればいいだけだから、リリアよりは手間がかからないとはいえ、こっちも早い。

 とにかく、知りたいことが知れるのはいいことだ。


 店じまいしたヘラジカ亭の隅のテーブルに、揃って座る。私とレオンとリリアとエドガー。それから、ユーファも。


 今回、弓の腕が必要になるとは思えないけど、この稼業の仲間だしね。


「ええっと。まずは単純そうな、ジャンさんのお父さんの話から」


 お金持ちは往々にして複雑な事情を抱えているもの。

 それは後に回そう。


 エドガーが口にしたジャニド氏こそ、ジャンの父親だ。

 ジャンと同じく、父親から仕事を受け継いで小さな工房を守ってきた。

 その腕はあまり良くはないけれど、単純な道具類なら問題なく作れる。真面目な性格もあって、周囲から慕われていた。


「……腕はあまり良くない?」

「はい。不器用な職人だったそうです」

「いやいや。職人なら、不器用なのは人柄だけにしなさいな」


 それならまだ、頑固だけど腕のいい職人として慕われるのもわかる。


「私に言われても。事実なので」

「そうだけど」

「普通の小さな工房の職人としては、それで十分だったんだろうさ。金持ち向けの高価な製品を作るわけじゃない。斧やツルハシや、鋤や鍬や鋏なんかの、必要な人が大勢いる単純な道具を作るだけの職人。鍛冶屋の職人の多くは、そういう人たちなんだろう」

「ええ。特別な物を作ることはない。当たり前にあるものを、当たり前に作る人が大勢いるから、世の中は回るのですよ」

「陽は当たらないけどな。立派な鎧に、名剣と呼ばれるような武具を作る鍛冶屋が、どうしても注目されるものだ。あと、こういうナイフとか」


 ナイフに拘りのあるらしいレオンは、そういう腕の立つ職人も好きな様子だった。だからって、わざわざローブからナイフを出すな。

 彼個人の嗜好は置いておいて、ジャンのことだけど。


「ジャンって人も、鍛冶が下手?」


 私も考えていたことを、ユーファがストレートに聞いてきた。たまに口を開けばこれなんだから、子供は残酷だ。


「それはなんとも。彼も父親の指導の下、常識的な道具しか作ってこない鍛冶屋でしたから」

「冒険した物は作れなさそうだな。実際にやってみれば、案外いけるかもしれないけど」

「ただジャニド氏は生前、周囲にこう言っていたそうです。ジャンには、鎧を完成させるのは無理だと」

「無理?」

「ええ。それだけの、力がない」


 力か。


 父親から、鍛冶屋としての技術を否定されていたわけだ。ジャニドが息子に、直接そう言っていたのかは知らない。けど、ジャンの態度を見るにその可能性は高かった。

 彼は父を尊敬しているわけではない。自らを否定した父を超えるため、見返すために鎧を完成させようとしているのではないか。


「ジャニド氏が実際、どんな思いを抱いていたかはわからないですけどね」

「なんとなくわかるけどな。自分も、息子も平凡だったんだ。そこに、期せずして大きな仕事が舞い込んだ。これからの自分と息子の評価のために、引き受けたんだろう」

「で、ジャニドさんは亡くなった?」

「そう。馬鹿だな」


 亡くなって、しかも私の周りに漂ってる霊に向けて、なんて言い方だ。


「けど、不思議ですよね! なんでヴィルオバル男爵は、そんな小さな工房に仕事を頼んだのでしょうか!?」

「リリア。声が大きいわ」

「すいません!!」

「だから」


 まあ、このメイドの疑問もわかる。


 こういう重要な案件を、失敗がしにくい大きな家にお願いするのはわかる。けどジャニドの工房はそうではない。

 以前に大きな仕事を成し遂げたとかの実績もない。


 もう片方は、大きな工房を持ってる家だ。そっちに頼むのは、まだ理解できるけど。


「でかい所に頼んだら、それはそれで組織力を頼って慢心して、雑な仕事をしかねない。ライバルが欲しかったんだろうさ」

「なるほど」


 レオンの説明もわかる。


「じゃあリリア。ヴィルオバル家について教えてくれるかしら」

「はい! ヴィルオバル男爵は最近爵位を賜って上流貴族の仲間入りをした家です! お嫁さんは、さほど大きくはない騎士の家の娘です!」


 それは知っていること。


「現当主は、普請院の幹部だそうです!」


 それは初耳だ。


 普請院がなにかは、私も知っている。主に国土の道路整備や、建築物の管理を行う土木事業を司る官庁だ。

 北方で行われているという鉱山の開発も、もし公爵家がやらなければ、ここが指揮していたことだろう。


 その事実からわかる通り、山の開拓と鉱山開発に関しては、さほど知識があるわけではない。都市部の開発に特化したお役所だ。


 国内第一の大都市だから、当然と言えるけど。

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