第十八話 作戦会議
「おつかれー……って、私最後か。待たせちゃった?」
「大丈夫だよ、クロワッサン。それじゃあ始めようか――作戦会議」
カメレオン乱獲の翌日。メンバーが揃ったのを機に、椅子の上に立った魔女リティが宣言した。アトリエ備え付けの黒板に、チョークで文字を書きつけていく姿を見て、クロワッサンは微笑ましい気持ちになる。
(手が届かないからだね……可愛い……)
「さて、分かってるとは思うけど、まずはルールを確認しようか」
・制限時間九十分
・チーム全員が戦闘不能になった時点でそのチームは脱落扱い。メンバーが一人でも生き残っていれば生存扱いとする。
・制限時間終了前に、生存チームが一チームのみとなった場合はその時点でイベント終了。二位以下は生き残っていた順に順位を決めるものとする。
・制限時間終了時、複数チームが生き残っている場合はキルスコアによって順位を決めるものとする
・使い魔の使用は可能
「僕らの狙いは上位十チームに入ること。ただし周りは格上揃い――これらを踏まえた上で、僕は先行逃げ切りを提案する」
「先行……序盤でキルスコア稼いで逃げ回るってこと?」
「概ねそうなるかな」
ラピッドの言葉に魔女リティが頷くと、シャンデリアが挙手。
「質問でーす! このルールだと隠れてるだけでも十チーム以内に入れたりしない?」
「可能性がないとは言わないけど、かなり確率は低いと思うよ。そもそも、制限時間終了までに生存チームが十以下になるとも思えないかんね」
その意見にはクロワッサンも同意だった――開示されているいくつかの情報によると、イベントフィールドはかなりの広さを誇る。障害物も多く、かくれんぼにはもってこいだ。
「今回のルールだと、安全圏に一人か二人残して全滅の危険性を減らしつつ、残りが索敵・戦闘って形が一番バランスがいいから……採用するチームは多そう。そうなってくると、やっぱり全滅狙いは難しそうだね。だから先行逃げ切り?」
クロワッサンの言葉に魔女リティが頷く。
「とはいえ、敵チームを一つ一つ正面から潰していくのも分が悪い。なにせ僕らの平均レベルはミドルランクじゃ低い方、その分MPも少ないし、エースのラピッドも消費の激しいスタイルだかんね」
「……エース」
「んふふ、ラピッドちゃん嬉しそうやねぇ?」
「べ、別にそんなことないけど?」
「ニヤついた顔を戻してから言うたら?」
「まあそんなわけだから、今回の作戦で鍵になるのはシャンデリアとハルルだね」
「あれ!? エースは!?」
「ラピッドちゃん、ステイ」
「むぎぎ……」
思わず椅子を倒す勢いで立ち上がったラピッドだが、ハルルに宥められて渋々座りなおす。そんな様子を見て笑いをこらえながら、魔女リティは続けた。
「さっきも言ったけど、正面からやり合うのはなし。じゃあどうするかっていうと、敵同士で潰しあってもらってるところを、漁夫の利するのが一番かなって」
「急にやり方が汚くなったんだけど!」
「ルールには反してないから綺麗な作戦だよ」
「プライドとか……」
「プライドで上位報酬が取れると思ってる? ユニユニシリーズのアイテム欲しくないの???」
「欲しいに決まってるでしょ……! ユニユニのためなら魂だって悪魔にくれてやるわよ!」
(リッちゃんが悪魔みたいになってるけどいいのかな?)
本人は特に気にしていないようだった。あるいは自覚があるのかもしれない。
「まぁ逆に言えば僕らが漁夫の利される可能性もあるから、それは気をつけないとなんだけど」
「リッちゃん。漁夫の利作戦は分かったけど、実際はどう攻めるの? 戦ってるプレイヤーたちを見つけて、逐一シャンデリアちゃんの高速奇襲で稼ぐ感じ?」
「三割正解。いちいち戦ってるプレイヤーを探すよりも、もっと能動的に戦場を作る。しいて言うなら、狙いは潜伏してるプレイヤーだね」
「というと?」
「ミツメ……僕の使い魔の視界共有能力で、序盤潜伏狙いのチームを見つけて、シャンデリアに奇襲をかけてもらって一人か二人落とす。そのあとシャンデリアには敵を撒かない程度の速度で逃げてもらいたいんだよね」
「なんで撒いちゃだめなの?」
「敵を引きつけてほしいかんね。それを何度か繰り返して、大規模な戦場を作りたいんだ。戦場作ってる間に多少は敵も減るかもしれないけど、まぁ些細なことだよ」
「あ、な~る。そこでうちの出番ってわけやね」
「そう。シャンデリアに大多数の敵を引きつけてもらって、ハルルの範囲攻撃で一網打尽にする。これでかなりのキルスコアを稼げると思う」
「稼いだ後はどうすんのよ? それだけ派手にやれば、他の生き残りから狙われるでしょ?」
「そうだね。フレーズヴェルグ……ハヤテくんの背に乗って逃げ回ろうと思ってる。全速力のシャンデリアでギリギリスピード勝ちできるぐらいの速度って、相当速いでしょ? 目立つリスクと引き換えにしてもメリットはあると思う」
「なるほど……この作戦、ハマればかなりいいとこまで行けるんじゃないかな」
クロワッサンが同意を示すと、ラピッドも文句はないとばかりに頷く。
「じゃあ、基本この作戦で挑むってことで。それから、この作戦をより確実なものにするために、シャンデリアに渡しておくものがあるんだ」
(えっ、羨ましい)
クロワッサンの「いいなー」という視線に気づかぬまま魔女リティがシャンデリアに譲渡したのは、二種類の魔法陣。
「なにこれ? 《隠レ蓑術》と……《ブラックボール》?」
「うん。今度のバトルロイヤルで装備してほしい魔法陣」
「あ、もしかして……スケイル・カメレオンの?」
「そうそう。あと、ブラック・キャタピラーの魔法陣をそれぞれ合成したやつ」
《隠レ蓑術》。使用後の一定時間は魔法が使えない代わりに、術者の姿を透明にする。
一方 《ブラックボール》は使用後の一定時間、プレイヤーが受けるダメージを減少させる防御力バフの効果を持つ。
透明になって接近し、攻撃。また、逆に反撃を受けたとしても、ダメージを最小限に抑えるための魔法陣だ。
「わぁっ……ありがとう、リティ!」
「どういたしまして。でも、もう一個欲しい魔法陣があるんだ。予定がなければ、レベリングがてらみんなで獲りに行きたいんだけど……どう?」
「それは構わないけど、狙いの魔物はなんなのよ?」
「ブラキオン・ワイバーン」
メンバー全員がぎょっとした。




