第十一話 遭遇クエスト
「ラピッドは、ユニユニシリーズが好きなんだよね」
レベリングの傍ら、魔女リティは訊ねてみた。恐らく中学生のラピッドが、女児向けアニメである魔法少女ユニユニシリーズに情熱を燃やしている理由を知りたくなったからだ。
そんな彼女からの返答はある意味予想通りで、
「なによ、悪い?」
「いや、そんなこと言ってないけど……珍しくはあるかなって」
「…………。まぁ、どっちかっていうとね」
「ラピッドちゃんだけやないよ。シャンディちゃんはもちろん、うちも大好きや~」
「そうなんだ?」
「どっちかっていうと、シャンディから沼に引きずり込まれた感じよ」
「あー……」
アトリエでのユニユニに対する熱意を思い出し、なんとなく悟る。
聞くに、ラピッドとハルルは初等部からお嬢様校に通っている生粋のお嬢様だが、シャンデリアは中等部からの編入生らしい。
スポーツ推薦で編入してきたと言うシャンデリアは運動系の成績でトップに躍り出たが、それを黙って見ていられなかったのがラピッドだ。
なお、ラピッドは体力測定の結果で勝負を挑んで惨敗している。これに関してはシャンデリアの身体能力が高すぎたからであることを、ラピッドのなけなしの名誉のために追記しておく。
「やっぱりか……」
「やっぱりって何よ! 人を誰彼構わず噛みつく野良犬みたいに言わないでくれる!?」
「チーム四人中三人に噛みついてるのに……?」
「まぁまぁ、そのおかげで縁が出来たと思えば悪くないやろ?」
「こうやってネタにされるのが恥ずかしいって言ってんの!」
「それは身から出た錆としかいいようがないなぁ。あと今うちに噛みついたからフルコンプやね」
「むぎぎ……!」
返す言葉もないラピッドを、ハルルは実に楽しそうに眺めている。なぜか魔女リティの背を冷たいものが撫でていった。
「話を戻すけど。実はうちら、こう見えてこってこてのお嬢様やったからなぁ。シャンディちゃんに会うまではアニメとかと縁がなかってん」
ラピッドとハルルに限った話ではない。お嬢様校に通う生徒たちは大半がそうだったが――そんなお嬢様校に爆風をもたらしたのが、一般家庭出身少女、シャンデリアだった。
「シャンディちゃんのアニメ好きはすさまじくってなぁ。特にユニユニに至っては唐突に布教を始めるぐらいで。ラピッドちゃんなんか、強制的に部屋に連れ込まれて、初代ユニユニの第一話を鑑賞させられてん」
「それ俗に言う拉致監禁なのでは……?」
「思い返すとそれ以上に適切な言葉がないわね……」
「でも一話見た後は二話、三話とどんどん次を要求したらしくってなぁ。まぁアニメに免疫ないからしゃあないな~」
「……面白かったんだから仕方ないでしょ」
「じゃあ、ハルルも連れ込まれて?」
「ううん、うちは連れ込まれたラピッドちゃんが面白そうやったから付き添っただけ。その流れで一緒に見てハマってもうたんよ」
(これは突っ込まない方がいいのかな……?)
「まぁそんなこんなでユニユニ好きのコミュニティが形成されたわけやけど……ラピッドちゃんなんかは対外的な側面でグッズとかもあんまし持てんかったんよ」
「ああ……」
「……けど、ゲームの中なら関係ない。こんなまたとないチャンスを逃すわけにはいかないもの。上位報酬を獲るために、あんたにも働いてもらうわよ」
「なるほど……うん、なるほど」
魔女リティは二、三度頷く。口にこそ出さないが、ラピッドが今回のイベントにかける思いはよく理解できた。
「まあ、元より全力のつもりではあったけど――そんな話を聞かされたら、なおさら負けてられないね」
「……ユニユニのこと、大して見てないって言ってた割に馬鹿にしないのね」
「しないよ。何を好きでも個人の自由、他人に迷惑が掛からない限り、それを馬鹿にする権利は古今東西誰にもないかんね。そこには個人としての感覚で合う合わないがあるだけで――僕からすれば、全然受け入れられるものだよ」
「…………」
「ん~? どうしたん、ラピッドちゃん。なんか言いたそうに口むにむにして」
「……。今は言わない」
「今は?」
「……ん。上位報酬が取れた時に言ってあげる」
「そっか。じゃあ、なおさら頑張らないとね! ……ところでちょっと話は変わるんだけど。ハルル」
「はいはい?」
「さっき僕らを助けた時、何したの? 魔物を一気に引きつけたように見えたけど」
「ああ、あれうちの使い魔の能力なんよ~」
使い魔。魔女と黒猫がセットで語られるように、ウィッチクラフト・オンラインでは、プレイヤーが魔物を従えることが出来る。
条件は様々で、半殺しにして強制的に契約を結んだり、イベントクエストのクリアや、餌付けして懐いてもらうことが条件だったりする。
「出といで~、イチゴちゃん」
ハルルが呼びかけると、三人の近くに淡い光を放つ円環が出現。その中を通って現れたのは、桃色のスライムだった。
ハルルの箒の上に器用に乗り、その体をぷるぷると震わせる。スライムと言うよりも、プリンかゼリーみたいだな、と魔女リティは思った。
「ん……珍しいね? スライムは何回か倒したけど、全部半透明だったはず」
「んふふ、可愛いやろ~。この子見たときに一目惚れしてもうてなぁ」
「これ、変異種らしいのよ。通常は雑食のスライムにあって、甘い木の実ばかりを好んで食べる偏食個体。目撃情報が少ないから、まぁレアモンスターの部類よね」
「この子が甘い匂いをまき散らすと、周りの魔物が寄ってくるんよ。さっきのはそうやって、うちのほうに引き寄せたんやね」
「……ハルル、レベリング効率すごいことにならない? 寄ってきたのをまとめてドカン、ってできるわけでしょ? ――《ライトニング》」
「けどうち、範囲攻撃は出来るけど威力はあんまりやからなぁ。強いのが集まってくると手も足も出えへんよ」
「ああ、なるほど――《ライトニング》。……よし倒せた。さて次は――うん?」
五体目のブラック・キャタピラーを倒し、次のキャタピラーを探していると、魔女リティの視界に見慣れない光景が映り込んだ。
それは、やたらと細かく動くドーム状の――
「蝙蝠の……群れ? うわすっごい、一体何匹いて――えっ」
【遭遇クエスト!!】
【カオス・ガルーダの巣がレギオン・バットの群れに襲われているようだ】
【助けますか? ・はい ・いいえ】
【選択制限時間60秒。選択しない場合は自動的に「いいえ」となります】
【59……58……57……】
「――! ラピッド、ハルル! 悪いけどすぐパーティ組み直して! そのあと、僕を引っ張って飛行して!」
「え、何急に」
「うちは構へんけど、なんかあったん?」
「遭遇クエストが発生した!」
魔女リティの説明を受けて、ラピッドとハルルがぎょっと目を見開いた。




