弟子の仕事と紋章学
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弟子の仕事は師の身の回りのお世話と講義の準備手伝い。その合間に師の指導を受けたり、興味のある講義に出席したりする。
「お前はまど右も左も判らんだろうから、まずはこれから始めなさい」とギムル師が手渡してくれたのは、1冊のかなり使い古された書籍だった。
何となくそれを開いてみると、中にはアルファベットと、なにやら紋様がたくさん書き込まれている。
「それは紋章学の基礎本だ。まずはその中身を暗記し、かつ書けるようになりなさい」
「書けるようにというのは、この紋様をですか?」
「そうだ」
ギムル師は、そんな当たり前のことを訊いてくるなと言いたそうな、怪訝な表情をする。
ティケは眉を寄せて、紋章学基礎の本に目を落とした。頁をぱらぱらめくると中には、かなり複雑な紋様も混じっている。数も多い。ギムル師は言葉にしなかったが、おそらくは本に書かれているのと同じように書かなければならないはず。崩した書き方は許されないと思われた。
しかし、当座のところ、ティケの仕事と言えば師に紅茶を淹れることと研究室の掃き掃除くらいのものだ。時間は結構、余っている。そこで、
「判りました」と了承した上で、「期限はありますか?」と訊ねてみる。
「期限は、そうだな。一ヶ月もあれば足りるだろう」
「一ヶ月!」
「なんだ、不服か?」
「いえいえ、そんなことは」
ギムル師はかなりぶっきらぼうな応対をするし、課題はきついが、その実は世話好きで面倒見が良いらしいとティケが気づくまで、そう時間はかからなかった。
判らない点を質問すれば、たとえ、それまで読書に没頭していたとしても、嫌な顔1つせずに答えてくれる。
それに、ティケが淹れる、けして美味しいとは言い難い紅茶に文句を付けない。
同輩の話を聞くと、師によっては大量の雑用を押しつけられたり、身の回りの世話ばかりで一向に研究に取り組ませてくれなかったり、がみがみとうるさく説教されてばかりだったりと大変な人も居るようだった。その点でギムル師は、取っつきにくいところがあるだけで他は対応しやすい。ティケは運が良かったことに内心安堵した。
ギムル師から渡された紋章学基礎本は、どうやら、紋章を構成する文字、模様などを細かく分解したものが記載されているようだった。そのばらばらになったパーツごとに、さながらドリルのように何度も繰り返し繰り返し紙に書いて練習する。
紋章のパーツは、それを使用した実際の紋章の例も記載されているので、どのような配置になるのか、どのような使い方をされるのかの実例も判る。
何度も反復して書き、実例で確認しを繰り返しているうちに、何となく紋章の基本構成が見えてきた。




