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ティケトス・ケイルフォーン

女の子の名前はティケトスと言った。

その名前は男子向けの名前だった。物心ついた頃、ティケトスが父親にその理由を聞くと、

『本当は男の子が欲しかった』

と答えた。

つまり、自分は性別を間違って生まれてきてしまったらしい。ティケトスはそんなこともちらりと考えたが、父親の思惑のことなど、すぐに忘れてしまった。

名前の由来など、正直なところどうでもいい。名前が男子用だろうと、自分が女子であることに変わりは無いのだから。

母親からも友達からも、『ティケ』と呼ばれーーその呼び名は女の子っぽい響きがあるから、この後は彼女のことをティケと呼ぶことにするーー、男の子勝りの活発な幼少時代を送ったティケは、10歳時に誰もが受けるの魔術士審査に合格してしまった。

審査の内容はいたって単純で、『持力』を保持しているか否かを計るだけのもの。つまり、ティケには魔術士の素養があった。しかも、審査では相当な持力量を示し、審査官を驚かせるほどだった。

これに喜んだのが父親だった。ティケが住むセツェンという国では、平民であれ貴族であれ、身分に関係なく、『持力』を保持する者は研究塔に送られる。そこでは魔術に関する研究が日夜行われており、セツェンにおける魔術の中枢機関として機能していた。

この研究塔に入るということは、名誉ある将来が約束されたも同然ということ。しかも、給料も高い。

あまり、実入りの良い仕事をしていなかったティケの父親にとっては、さして期待したこともない性別を間違えた我が子が、突如、金のなる木に変貌したようなものだった。

父親のティケに対する対応の変化はあからさま過ぎて、優しげな声音で名前を呼ばれる度に母親と一緒に辟易したものだったが、元来、物事をあっさり目に考えるティケは、それほど大事として気にとめなかった。

『父親って言っても、我も欲もある人間なんだな〜』

くらいの認識。ある意味、達観している。

11歳の春になると、ティケは父親の期待を背負って研究塔に向かうことになった。

研究塔では、新しく入った者を新参者と呼ぶ。新参者は、最初の1年間で教養的な知識と魔術の基礎知識叩き込まれると、その後は『師』と呼ばれる研究者の下に『弟子』として配属される。『師』を『弟子』が選ぶことはできない。逆に『師』が『弟子』を選んでいるのかというと、そうでもないらしいことを、ティケは後から知った。どうやら、研究塔の上層部が独断で決めているらしく、配属はランダムで、『師』と『弟子』の性格的、魔術的相性などは一切考慮されていないらしい。その所為か、配属後の『配置転換』は許されており、複数の『師』の間を転々とする『弟子』がいたり、『師』が自分の『弟子』を他の『師』に推薦することもあるらしい。

要は自分で自分に相応しい『師』を見つけろ、と言うことなのだとティケは理解した。

だが、ティケが『配置転換』を申し出ることも、彼女の『師』がそうすることもなかった。

ティケの『師』は『ギムル』と名乗る老人で、その見た目、身なり、しわがれた声からは、ギムルが男性なのか女性なのか判然としなかった。まあ、師の性別など、魔術士に取っては些末的な情報に過ぎないとティケは考え、あえて師に問いただそうとも思わなかった。ただ、ギムルという名前は男性のものだったので、おそらく男性だろう、くらいのことは認識していた。

さて、ギムル師は『紋章士』だった。

『紋章士』とは、聖紋章を駆使して魔術を行使するタイプの魔術士のこと。新たな紋章の研究開発なども行う。

なお、『師』の研究対象が『弟子』に影響することは言うまでもない。

ギムル師は研究塔の中では古参の『紋章士』で、周囲からは相応の礼を持って扱われていた。

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