就任
昨日更新し損ねた分です
大変失礼しました。
「それでも、俺では力不足だ」
マルティンは、俯いて呟いた。
それに彼らの言っていることが実現できるとは思えない。
お飾り将軍など、軍を駄目にする元凶でしかない。
「現在はダールバイを併合したとは言え、まだ残党による反乱が相次ぐ状況だ。通常の戦争とは違い、それを一掃するには相応の統率力が必要となるだろう。俺にはそれだけの力はない」
ディバイニス、セラーニセン、サンクトゥレイの3人は手を合わせてニヤリと笑みを作る。
マルティンの発した台詞は、才覚の無い人物が言う内容ではない。その状況判断はむしろ、戦略家として光る物を感じさせた。
「今はそういうことにしておきましょうか、殿下」と一応、折れる対応を申し出たのはディバイニスだった。これ以上、マルティンに将軍職就任を迫っても、拒絶されるばかりか、かえって頑なになられる可能性もある。今は引いて、外堀を固めるのが先決と考えたのだ。
「『今は』と言う言葉が引っかかるが、とりあえず理解してくれたみたいで何よりだ」
マルティンはほっと胸をなで下ろす。
しかし、ディバイニスもセラーニセンも、そのままで済ませるつもりは毛頭なかった。
翌日、バルミス将軍の処刑が執り行われるはずだったスティーグラフォート広場には、群衆が押し寄せたが、その誰もバルミス将軍の姿を見ることは出来なかった。その代わり、処刑執行人が現れ、バルミス将軍の処刑はすでに執行されたことを告げた。
群衆の反発は強く、非難の叫びも上がったが、居合わせた衛兵の威圧の前に沈黙せざるを得なかった。無論、執行人はバルミス将軍の罪をあげつらい、処刑の正当性を声高に主張、宣告した。しかし、それを真に受ける群衆はほとんど居なかった。故に、皇帝に対する臣民の不満は蓄積する形となった。
マルティンの思いに反して、彼の将軍職就任のための段取りは、あれよあれよという間に進められた。それだけディバイニスやセラーニセンの政治交渉力がずば抜けていたとも言える。
さらに言えば、親ペーター・バルミスで通っているマルティンがバルミスの後釜に座ることは、バルミスの処刑を失敗だったと悔いている皇帝にとっても悪い選択ではなかった。マルティンの将軍職就任が、不満を募らせているはずの親バルミス派を黙らせることに繋がるからだ。ゆえに、マルティンがまだ年若いにも関わらず、皇帝からの反対も無く、将軍職就任は何の障害もなく承認された。
皇帝による決定事項であれば、マルティンも拒否することは出来ない。
ディバイニス達に嵌められた感は否めないものの、マルティンは就任を承諾することにした。
一週間後。
将軍職就任式は、王族、貴族だけでなく臣民までも巻き込んで盛大に執り行われた。マルティンは、自分が場違いだという感覚に囚われながらも式に参列した。
驚きだったのは、式の後、帝都の大通りをパレードすることになっていたことだ。通常、将軍就任でパレードが行われることはない。
親バルミスであるマルティンがバルミス前将軍の後を継いだと大々的に宣伝することで、親バルミス派の不満を削ごうという、皇帝派の画策と思われた。マルティンがバルミス前将軍の剣術の弟子であるなどという噂もまことしやかに流された。
マルティンは、こういう催しはかなり苦手だったが、塗り固めたような笑みを顔に貼り付けて馬車の中から手を振る作業を没頭することにした。




