処刑2
「気に入らないから処刑するとでも言うのか? そんな馬鹿な⁈」
マルティンには理解できない考えだった。政治において、もしそれがまかり通るなら、諫言する臣下はいなくなり、追従する者ばかりが周囲に集まることになり、反対意見や、視点の違う意見を聞く機会が失われることになる。それは政治の視野が狭まることを意味する。賢い者の採るべき策ではない。
あり得ないとばかりに首を振って見せたマルティンを見て、ディバイニスは、ふと笑みを浮かべる。「マルティン、君はその感覚を忘れないで欲しい」
マルティンは意味が判らないまま「ああ」と返事をする。
するとディバイニスはすぐさま笑みを消して表情を元に戻し、「愚鈍が権力を持つということは、そういうことだ。時と場所を弁えず、まっとうな理由すらない。ただ感情のままに権力を振りかざす」と吐き捨てるように言った。
その言葉にマルティンは納得せざるを得なかった。
だが、このまま手をこまねいている必要もない。
「処刑はいつ、どこで行われるのだ?」
「明日、スティーグラフォート広場と聞いている」
「速いな……」とマルティンは唇を噛む。
それを見たディバイニスは「マルティン、何を考えている?」と探るように聞いた。
「将軍を助けられないかと思ってな」
「それは、本気で言っているのか?」
「もちろんだ」
ディバイニスはごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んてから、「それが出来たとして、助けた後はどうする?」と訊いた。
「匿うか、帝国の外に逃げてもらう」
マルティンのその返答に、ディバイニスは「ふう」とため息をついた。
考えようによっては、助け出したバルミスを旗印に帝国に反旗を翻すことも出来る。しかし、マルティンにはそこまでの頭はないらしい。
いや、むしろ……。
この時、ディバイニスの中に一つの考えが浮かんだ。と言っても、今思いついたものではなく、長年、妄想のように考えては打ち消してきたものだ。それが、今の状況にぴったり当てはまったのである。
ディバイニスはそれを実行に移すべく、布石を打つ。
「助けるとしても、君の立場の問題がある。君は王族なのだぞ? 王の決定に従うべきではないのか?」
「バルミス将軍の処刑は間違っている。王が間違ったことをするなら、それを正すのは王族としての務めだ」
ディバイニスはにこりと笑みを作って応じる。
「どうした? なぜ笑う?」
マルティンにはその笑みの意味が理解できなかった。
「良い返事だ」とディバイニス。
「なに?」
「王族に相応しい良い返事だ、と言ったのだ、マルティン・アル・クヴァルティス!」
「何を言うかと思えば……」と言いつつもマルティンは照れくさそうに頭を掻く。
「それで、どうするのだ? 何か策はあるのか?」
言いだしたからには何か考えがあるのだろうと思い、ディバイニスはそれを聞いておくことにした。
「まずは直談判に行って真意を確かめる。それで埒があかなかったら、その時は……」
「奪取、か?」
「そういうことになる」
ディバイニスは、マルティンの意図を汲み、さらに考えを巡らす。そして。
「ならば、奪取の算段は私が引き受けよう。君は皇帝を説得してみてくれ」
無理だとは思うが、とは口に出さなかった。だが、処刑の引き伸ばしが出来る可能性がある限り、説得自体は無駄な行為ではない。
「判った」
と頷いたマルティンの行動は素早く、すぐに部屋を出ていこうとする。
「待ってくれ」とディバイニスがそれを呼び止める。
「なんだ?」
「君の他に処刑反対を王に進言する人物がいたら、その名を教えてくれ」
「なぜだ?」
「仲間は多い方が良いということだ」
「判った」と返したマルティンは足早に部屋を後にした。




