35 言い訳と山越えと接敵
(やばいやばい!もういっそ素直に言ってた方がいいのかこれ!?)
ドロシーとしっかりと目を合わせながら脳を高速回転させる空。
黙っている一秒一秒が永遠に感じる程の緊張感。
ここで選択を誤ったら、面倒なことになると本能で感じ取っていた空であった。
そんな空が出した答え、それは、
「実は俺……神、なんだ……」
「は……?」「え!?」「ん……!?」「空様!?」
空の言った言葉が信じられないようで三者三葉の反応をして驚く鉄の薔薇のメンバーと、空が自身の素性をバラしたことに驚くイヴ。
元より空が神だと知っているリリはきょとんとした感じで首をかしげていた。
話に付いていけないといった様子でイレイナが空に尋ねる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。空あなた頭大丈夫?」
「信じられないだろうけど本当だ。他の目がない場所で話したいんだけどどこかないか?」
「ならギルドの個室取って私が防音の魔法かける。それでいい?」
「十分だ、案内してもらってもいいか?」
「ん、分かった」
冷静なドロシーが混乱気味のイレイナとユニスを連れて、ギルド付属の個室に案内する。
背丈ほどの杖を取り出し部屋全体に魔法をかけるドロシー。
空たちを備え付けのソファーに座らせ、向かい合わせのソファーに鉄の薔薇のメンバーと座り、空に話をうながす。
「防音はした。これでさっきの説明をしてくれるんだよね?」
「ああ、これから言うことは他言無用で頼む」
自分がこの世界の創造神であり、バグの改心のためにニューアースに下り立ったことを説明する。
前世は人間だったことや、異世界から来たことは隠して伝えた。
それは、自分が神であるという事実以上にイレイナたちに混乱を与えてしまうのではないか、という考えの元だった。
その空の話を聞いて未だ納得がいかない様子のイレイナたち。
「とりあえず話は分かったわ」
困惑の表情を浮かべながら言うイレイナ。
「でもその話を信じるのは無理よ。それは分かってるわよね?」
「ああ、この話が荒唐無稽なのはよく分かってる。それを前提にして俺を見て、信用してくれればいいかなって思ってはいるけどさ」
「まぁ、そうするわ。ドロシーもそれでいいわよね?」
「う、うん、とりあえず魔力の説明は付いたから。付いてるよね……?」
先ほどの眼光はどこへやら、今は空の言ったことを理解することに脳のリソースを割いているドロシー。
そんなドロシーを横目に、本題であるルート山脈のことについてイレイナに聞く空。
「なぁイレイナ、ルート山脈って直進出来るか?」
「随分いきなりねぇ。ルート山脈だと、私たちともう1パーティ準一級くらいの冒険者がいればどうにかなるでしょうね」
「何?ルート山脈の向こう側に何かあるの?」
「ああ、リリの故郷の妖精の森があってさ、そこが今大変なんだ」
妖精の森、その言葉を聞いた瞬間、ドロシーが物凄い勢いで空に問いただしてくる。
「そ、空さん!今妖精の森って言いましたか!?」
「う、うん、言った」
「行けるんですか!?妖精の森!?」
「まぁ、リリが案内してくれるし、行けるよ?」
「なら是非連れてってください!今すぐ行きましょう!イレイナとユニスも準備して!」
「え、えぇ……?」
ドロシーのまくし立てにしどろもどろになる空。
救援の視線をイレイナに送り、その視線を嫌々受け取ったイレイナがドロシーに尋ねる。
「ドロシー、何であんたそんなに妖精の森に興奮してるのよ」
「だって!妖精の森ですよ!あの!」
その後、ドロシーの熱い妖精講座が始まる。
魔法使いにとって妖精とは、その体が持つ魔力の属性であれば同じ種類の魔法をほぼマスターしている魔法使いのようなものらしく、その魔法を教えてもらうことによってより魔法の高みに登ることが出来るそう。
他にも、妖精が住む場所には珍しいものが多く、希少な植物や動物が捕れることから冒険者としても行く価値があると熱演したドロシー。
そんなドロシーの演説に押され、意見が揺らぎ始めるイレイナとユニス。
元からあまり反対はするつもりがなかったのも高じ、やがて意見を変える二人。
「もぉー!仕方ないわね!行くわよ、行けばいいんでしょ!」
「ドロシーって変な所で熱くなるから嫌なのよ……」
やれやれと頭を押さえながら了承を決め込む二人。
そんな二人を見て、空が興奮気味に言う。
「じゃ、じゃあ……! 鉄の薔薇全員来てくれるのか!?」
「行くわよ、空とイヴだけじゃどうせまともに野営出来ないでしょ?」
「ま、まぁ……」
「じゃ、そうと決まればね。さっさと準備しましょ、行くわよ二人とも」
「うん!」「はーい」
テンションが高いドロシーと対照的なユニスの返事が響く。
「じゃあ一時間後にルート山脈側の門、北門ね。そこで落ち合いましょ」
「分かった。俺たちが準備するものってあるか?」
「そうねぇ……長旅に必要なものは全部こっちで揃えるから特にないわね」
「ぼけーっとしてなさい」
「そっか……」
やることがないと言われ、少し落ち込む空。
そんな空に優しく声を掛けるイヴ。
「マスター、マスターはティターニア様を救う時に全力を出せばいいと思います」
「それまでゆっくりと休むことが最善かと」
「そっか……!」
空の顔が晴れ、そんなやり取りを見たイレイナが毒を吐く。
「これが神さまねぇ……やっぱり信じられないわ」
空たちが北門の外で待つこと一時間と数十分。
大荷物を持った鉄の薔薇のメンバーが門からやって来た。
その荷物を全て空に持たせ、イレイナが言う。
「遅くなったわね。準一等ともなると長く町を離れる時には一言言わないといけないのよ。色々誤魔化すのに手間取ったちゃったわ」
「イレイナあなた、何かちょっとルート山脈越えたくなってー、だなんて理由よく出てきたわね。私笑いこらえるので背一杯だったわよ」
「イレイナってそういう所ありますよねー」
からかう二人にイレイナが赤くなる。
「仕方ないでしょ!?嘘つくなんてあんまりないじゃない!」
「なんか、ごめんなイレイナ……」
空の何となくの謝罪にさらに赤くなるイレイナ。
それよりも、と話を区切って話し始めた。
「ここからどうやって移動するの?最速ならは第三魔法を使いながらの走りだけど、この人数なら馬の方が速そうよ?」
「あ、移動なんだけど、空って飛んでも安全か?あと浮くの苦手な人いたら教えて欲しいんだが」
「空ってあんた、飛行魔法でも使えるの?」
「うん、まぁ走りと同じくらい速いし」
「え?空あんた飛行魔法使えるの?」
「そりゃ空飛べたら便利なんだから使えるよ」
「「「「え゛」」」」
リリと鉄の薔薇の四人の声が綺麗にハモる。
「複数人の飛行魔法って、それ凄いことですよ空さん!」
「そ、そうなのか?」
空にとっては、飛行する魔法などはずっと使えていたものだったが、イレイナたちニューアース人はそうではない。
単独での飛行はある程度魔法を極めた者であれば容易いが、複数人となると勝手が変わる。
基本的に魔法というのは攻撃を除いた他人への細かな干渉は苦手としており、魔法で傷の治癒を行える者が少ないのも同様の理由である。
それ故、他人を宙に浮かせながらそこに吹く風なども防ぎながら飛行をする、複数人への飛行魔法の行使は出来る者がほぼいなかったのだ。
出来る者といえば伝説上の大賢者であったり、おとぎ話の中の魔女であったりと、複数人の飛行魔法は最早不可能な魔法とされていたのが現在のニューアースであった。
「と、取りあえずやってみなさいよ」
「うん、じゃあちょっと変な感じするかもしれないけど我慢してな」
イレイナに急かされ魔法を使う空。
外に放つ魔法はニューアースに下り立ってからは初なので、少し緊張気味だったがいつも通り魔力を練り、想像をして放つ。
すると、空たち全員の体がふわりと宙に浮き、どんどんと空へと上がっていった。
素直に驚くイレイナとユニスとリリ。そしてふんすふんすと鼻息が荒くなっているドロシー。
イヴはいつもの様に無言だった。暗に私のマスターですからと自慢しているように見えた。
「じゃあ移動していくぞ。絶対落とさないから暴れるなよ?」
「暴れる訳ないじゃない。ねぇユニス、ドロシー?」
「まぁ、そうね」「ええ!私は別の意味で暴れ出しそうですけどね!」
「んじゃ行くぞー」
空がそう言うと、宙に浮いた空たちが山脈の方向へと加速し始める。
どうやら魔法は前にニューアースに下りた時と同じくらい使えるようで、特にこれといった変化を感じていない空が安全に速度を上げていく。
高速で空中を移動しているので、地上の景色が目まぐるしく変わっていく。
空やイヴからしてみれば見慣れた光景だったが、ニューアースで生まれ育った四人はそうではなかった。
「な、何よこれ!めっちゃ速いわよ!」「あはは……私夢でも見てるのかしら」「私の飛行魔法よりもずっと快適です!これどうなってるんですか!?」「流石空様です……!」
「流石に一日で横断とはいかなそうだなぁ。ん……?イヴ、前から何か来てないか?」
空が目を凝らすと、正面から飛んでくる何かの姿を認めることが出来た。
イヴがその何かをじっと見つめる。
「マスター、あれはワイバーンです。数は四、どういたしますか?」
「うーん、ただのワイバーンならいいけど、もしリリを追ってきたワイバーンなら排除しよう。その時は頼んだぞイヴ」
「畏まりましたマスター」
少し迂回気味に進路を曲げて飛行する空。
だが、その進路をふさぐように四体のワイバーンが移動してくる。
「野生ならこれで逃げろよ、なっ!」
空が体を吹き飛ばすくらいの風をワイバーンたちにぶつける。
が、ワイバーンは魔力を纏った羽ばたきでそれを無効化し、空たちに向って炎弾を放とうとしていた。
「マスター!」
「やれイヴ!」
敵対の意志ありとみなし、イヴに攻撃の許可を与える空。
イヴが掌に魔力を溜め、横一文字にワイバーンに放つ。
純粋な魔力で形どられた刃は、触れた瞬間に命を刈り取る凶器となりワイバーンたちを両断した。
「え、えぇ!イヴあんたそんな魔法も使えるの!?」
「……?はい、私は創造神の従者ですので」
「凄いです凄いです!魔力を単純な斬撃に変換するのは学会でも考えられてきましたが、ここまで完璧に変換漏れがない魔法は初めて見ました!」
「ははは、イヴ褒められてるぞ。やったな」
「これはマスターの受け売りの魔法ですので、私は何も……」
「でも使ったのはイヴさんじゃないですか!結局凄いのはイヴさんですよ!」
「そ、そうでしょうか……」
「そうです!」
その後も何回かワイバーンに襲われ、そのたびにイヴが魔法で迎撃する。
イヴが魔法を使うたびに、ドロシーがその魔法に興奮していた。
そんなことが何度かあり、日も落ちようかという頃、ルート山脈の山頂近くに到着する空たち。
ルート山脈の頂上は雲の上ということもあり、むき出しの岩ばかりの光景とと吹き付ける寒風が厳しい場所だった。
完全防寒の鉄の薔薇メンバーとリリですら少し寒そうしており、空の場の温度を上げる魔法にありがたがっていた。
ちなみ空とイヴは特に厚着などはしていない。創造神ボディとホムンクルスの前には温度などあってないようなものだからだ。
その日は頂上の岩の影にテントを張り、朝になったらまた出発するという段取りになった。
鉄の薔薇メンバーのテントと空イヴリリのメンバーのテントに分かれて寝ることになっており、鉄の薔薇のテントが寝静まった頃、空のテントの中で小さくすすり泣く声が聞こえた。
現在テントの中にいるのは、空とリリのみ。
イヴは睡眠が必要ないからと外の哨戒をしていた。
「……どうしたリリ、何かあるのか?」
「空さま、起きていらっしゃたのですか」
「うん、ちょっと寝れなくてな。で、何か不安なことでもあるのか?明日には森に着く、ティターニアたちも助けられるさ」
「はい……分かってはいるのですが、今現在も戦っている皆のことを考えると、胸が張り裂けそうで……」
「……絶対に大丈夫だ、妖精の森にはティターニアがいるんだろ?あいつならきっと上手くやってるさ」
「もし不安ならこっちの寝袋で寝るか?一緒に寝たら不安も和らぐだろ」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、リリは俺の子供みたいなもんだし、それにティターニアの仲間でもある。そんな子が怖がってるなら出来る限りのことはしてやりたいからさ」
「で、では……」
自分の寝袋から抜け出し、空の寝袋に入るリリ。
リリは体が小さいので、空の寝袋の余った空間にすっぽりと入ることが出来た。
「あったかいです……」
「それはよかった、明日で絶対に森に帰してやるからな……ってもう寝てるか」
既にすうすうと寝息を立てて眠りに付いていたリリ。
そんなリリの頭を撫でてやり、空も目を閉じる。
明日は気を引き締めなきゃな、そんな決意を胸に抱きながら。
脳みそに浮かんできてた別作品のせいで書けんかったんや……
続きが気になりましたら、下の評価やブクマのボタンを押して頂けると嬉しいです。




