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何人いる?  作者: 山奉行
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【ブックマーク1500達成記念】その後の辺境砦にて

ブックマークが1500人を達成しましたので、記念に後日談を投下します。

「全く、戦列歩兵が塹壕線を突破できないって何回やれば気が付くんだか」


 男は、そう一人ごちた。ここはルテティア王国ととヴィスワ王国の国境付近にあるヘッセン砦で、男の名前はアルベルト・ド・ベルリオーズ。王国宰相にてルテティア女王ミレーユの王配である。


 本来王都に居るはずのこの男がなぜこんな辺境に居るのかと言えば、銃砲の整備のためであり、決して夫婦喧嘩して逃げてきたわけではない。多分。高級貴族ながら国一番の魔法科学者であり鉄砲鍛冶師である彼は、宰相となった今でも、実際に使用されている銃のチェックと現場からの要望を受けての改良、そして現場の兵士との酒盛りを欠かさない。


 本来、現場の兵士に慰労で酒を奢って、それで帰れる予定だった…土下座の練習をしながらだが。ところが、この1200人が守る砦に2万を超えるヴィスワ王国の兵が攻め込んできたのである。


「この手紙を、なるべく急いで王都に居る女王とモブさんに届けるように」


 視察に付いてきた護衛の一人に文書を託すと、彼は防衛戦の指揮をとりに砦に向かう。防衛側にとってありがたい事に、攻撃側にとっては最悪な事に、この砦の内情は漏れていないようだ。


 こちら側の欠点、アリサカライフルは一日に20発の発射がせいぜいな事、主砲の15センチ要塞砲はあと10発しか弾が無い事がばれてたら兵力差にものを言って波状攻撃を仕掛けてくるはずである。そして、そうされたら流石に1200人では守りきれない。


「まあ、敵方の情報もこちらに漏れなかったからおあいこだけどね」


 幕僚を前につとめて明るく話しかける。隣のヴィスワ王国が兵を集めたのは知っていたのだが、現在ヴィスワ王国は別の国と国境紛争を抱えててそちらに向けての行動だと説明されていた。勿論信じ切っていたわけではなく、王都では万が一に備えて一万ほど兵を集めておいたのだが、向うの動きが早すぎて対応しきれなかったのだ。


「やはり、以前から準備をしておいたと考えて宜しいかと」

「こちらの内情が知られる前に王都からの援軍が間に合えばよろしいのですが」

「鉄道馬車を全て駆使してもこちらに運んでこれる兵は一日500人がせいぜい、途中で馬が潰れたらさらに減ってしまいます」

「四斤山砲はすべて設置が終わっております。弾薬も明日一日分は間に合うかと」


 幕僚たちから現状の報告がある。とりあえず、王都の兵が間に合えば勝ち、その前に物量にすり潰されたら負けで全員一致してる模様だ。


「宰相閣下は王都に帰られないのですか?」


 この砦の守将が聞いてくる。要するにここは危ないから逃げろと言いたいのだろう。


「勝ち戦で逃げたら後で馬鹿にされるから帰らないよ」


 そう答えて、何をするかを説明した。




 翌日朝、ヴィスワ王国ではノイラート将軍が彼の参謀たちと絶望的な軍議を行っていた。千人を森の中から進軍させて、正面と挟み撃ちにして穴の中に籠る敵兵を物量で打ち破る作戦が一気に崩れ去った。


 今日に間に合わせる事が不可能なはずの王都からの援軍が、数千人ほど到着していて陣を組んでいる。森に兵を伏せると言っても千人では相手の陣は崩せない。かと言ってこれ以上兵を増やしたら、見つかって各個撃破されるだけだ。勝ち目が無くなったというのが彼と参謀の共通の見解である。


 陛下が新しく登用した者が、アリサカライフルと同等の能力を持つ新型銃を開発したと話してたが、使ってみたら断然能力が劣る。新型銃は確かに今までの銃より射程が伸びたが、アリサカライフルと比べたらまだ絶望的な差があり、なおかつアリサカライフルの高い連射能力がこの銃には無い。


 なにより、ルテティア王国側の要塞砲に対抗する手段がこちらにない。最初、砦から10キロ離れた地点に陣を組んだら砲撃されて、慌てて岡の向こう側の砲撃が絶対来ない場所に陣を組みなおした。王都からの使者が一日も早くヘッセン砦を落とすようにと言ってきてるが、砦を落とす前にこちらが全滅しかねない。


 ノイラート将軍は、軍議の後こう呟いた。


「あの新参者が作った蒸気機関車とやらで奇襲出来たのはいいが、向うにも同じものがあると考えなかった我々が愚かだったという事なんだろうなこれは」


 結局彼らは、同盟国として出陣させたシュヴァイニッツ公国の兵1000を殿としてその場に残して撤退した。



 


 王都から5千もの兵を積んでやって来たのは、魔導列車だった。鉄道馬車を見たミレーユが思いついたもので、一度に500人を乗せて移動する事が出来る。戦車と違い乗務員席に余裕が取れるので、ミレーユ一人もしくは王都の一流魔法使い5人で動かすことが可能である。


 これを使って王都からピストン輸送をした。最初、蒸気機関車やディーゼル機関車を作れないのかとミレーユはアルベルトやモブに問いかけたのだが、エンジン工学は二人とも素人なので危険だから出来ないとの返答だった。


「全く、アルベルトってば一国の女王を魔力エンジンか何かと勘違いしてるよね」


 そんな文句をモブに言いながらミレーユが砦の中に向かっていく。モブは昨日、アルベルトが滞在しているヘッセン砦に、ヴィスワ王国が攻めてきたと知ってパニック起こして大騒ぎになったことも、魔導列車を出して早く兵士に乗るように催促し続けたのもしっているので、苦笑いしながらそれに続く。


 ヘッセン砦の執務室では、アルベルトがこれ以上ないという作り笑いで、両手を広げて歓迎していた。


「やあやあ女王陛下にワキヤーク公爵、遠路はるばるお疲れ様でした。これで後は向うが帰るのを待つだけです」


 なるべくおどけた調子で、俺が王城から居なくなった理由が無かった風にふるまう。だが、相手は許すつもりが無いようだ。


「ねえアルベルト、貴方王城でなにやったかもう忘れたの?それともここで思い出させてあげましょうか」


 凍り付くような笑顔で答えるミレーユだが、アルベルトはなおも余裕を崩さない。崩したらそこで負けが決まってしまうからだ。


「え?ブリギッテのお尻を撫でた事?それともマヤのお尻を撫でた事?もしかしてワンダのお尻を撫でた事かもしれないけどアリアネのお尻を撫でた事じゃないよね。あの子は楽しそうに触られてくれたから」


「アンタがそうやって侍女の尻を誰彼かまわず撫でまわすからでしょうが!前世でもセクハラで2回訴えられたとか、勘違いした女にストーキングされたとか言ってたんだから凝りなさい」


「誰彼かまわず手出すわけじゃなくて、手出すのはお前だけだから。お尻を撫でるのはスキンヒップという奴だよ」


「オヤジギャグで誤魔化すな。あと手まで出したら離婚するからね」


 いつも通りの痴話げんかが始まったので、いつも通り適当な所でモブが止めに入る。大体途中からモブの方をチラチラ見だして止めてほしがるのが馬鹿らしい。多分モブが居るからこの二人は安心して喧嘩できるのだろう。


「とりあえず、真面目な話をしてくれ。あそこに残ってる殿はシュヴァイニッツ公国の旗を掲げている。ヴィスワ王国軍は同盟国を死地に追いやって自分たちだけ逃げたらしい。追撃するのか?」


「それが困ってるんだよ。小銃だけだと被害がそれなりに出るし、山砲持ち歩いたら追いつかない。悲壮な覚悟で残ってる連中を相手にするのも馬鹿らしい。だからといってこのまま放っておくと、もっと準備を済ませた大軍が来てもおかしくない」


「それが、こっちに来る前に密偵からシュヴァイニッツ公国の面白い話を聞いたのよね。実は…」


 ならばこうしようかと、3人は密談をはじめた。細かい内容を詰めて女王の裁可が降りたのは昼を過ぎてからだった。




 シュヴァイニッツ公国軍では、太子のマクシミリアンが絶望的な撤退戦の指揮を執る事になっていた。先日の攻撃でも矢面に立たされて、2千持ってきた兵が千まで減らされて、なおかつヴィスワ王国軍に捨て石にされたともいえる殿である。


 父に疎まれているのは知っていたが、こうまで直接的に殺しにかかってくるとは思ってなかった。もはやここで死ぬか、逃げ帰ったら軍法会議で死ぬかの差でしかない。


 そこに、ルテティア王国側から使者がやって来たとの報告があった。恐らくは降伏勧告であろう、決裂させるしか選択肢は無いのだが、ここで少しでも時間を稼げれば全滅までの時間を引き伸ばせて生き延びる目が出てくるかもしれない。少なくともヴィスワ王国に貸しを作る事が出来る。


 使者は奇妙な男だった。貴族的な風体なのに手は鍛冶師のように節くれだっている。物腰は柔らかなのに鍛え上げられた体つき、若いのに老獪そうな目つき。頬には疱瘡の痕が少し残っているが、本人は気にしていないようだ。


「お初にお目にかかりますマクシミリアン殿下、私めはアルベルト・ド・ベルリオーズと申します。今回お互いの間に不幸な行き違いがあった事をお詫びするとともに、双方に利のある解決法をご提示させていただければと思います」


 すると、この男がマチアスの乱で多大なる功績をあげ、ミレーユ女王の王配となり若くして王国宰相に登りつめた男なのか。そんな男が単身敵陣まで乗り込んでくる事にマクシミリアンは驚愕した。しかし、誰が相手であろうと我々のやらなくてはならない事はただ一つ、戦って滅びる事だと思い直し、マクシミリアンは答えた。


「名高きルテティア王国の宰相殿がこんな小国の軍に何のご用でしょうか?暗殺を恐れてはいないのですか?」


「非才の身なれど、私めが手打ちになったと知れれば、シュヴァイニッツ公国は紅蓮の炎に焼かれましょう。ただ、私めのご提案は双方の利益になると確信しておりますので、そのような事をする必要がありません。その点はこのアルベルトの名にかけてお約束いたします。と言っても結果としては降伏を勧告させて頂く形になりますが、今すぐではありません、3日ほど戦ったふりだけすればヴィスワ王国にも面目が立ちましょう」


 マクシミリアンは確信した、このアルベルトという男は自分と同じ転生者であると。元々、新型の銃を開発したとか、新型の大砲を開発したとか聞いた時、転生者ではないのか疑っていた。そして自軍の兵が極力減らない様な戦い方、何より人の好さ。


 だとしたら信用しても大丈夫だろう。警戒は必要だが、無理して襲い掛かって兵士を減らすような真似はすまい。


 こうして、マクシミリアンとアルベルトは細かい条件に付いて話し合い、双方納得のいく結果を得る事が出来た。




 双方全く死者も負傷者すら出ない小競り合いを繰り返した末、3日後、シュヴァイニッツ公国軍司令官マクシミリアン太子はルテティア王国に降伏した。ルテティア王国側はマクシミリアンの奮闘ぶりを称え、特別に身代金無しでシュヴァイニッツ公国に送り返した。また、講和条件としてルテティア王国とシュヴァイニッツ公国の間に5年の不戦条約を結ぶことになった。


 ルテティア王国はその後、ヘッセン砦の10キロ先に新しい砦を建設し、その砦が新しい国境線であると発表した。ヴィスワ王国は抗議したものの、奪い返す力は無く新しい国境線での講和に応じることになった。これにより、国境そばにある鉄鉱山がルテティアのものとなった。

あと何話か続きます。

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