私のペア
「な、に言ってるの?」
先輩の作った笑顔はぎこちなくて、でもその笑顔はやっぱり困った時に見せる彩羽の笑顔と同じだった。
「確証とかそういうのは無いんですけどね。
ただそんな気がして…。
先輩の表情って全部彩羽のに似てるんです。
彩羽にしか思えない。」
もしももう一度、彩羽に合うことができたのなら私はきちんと謝りたかった。
支えてあげられなくて、一人にしちゃってごめん。
「本当のこと教えてください。
先輩は彩羽とどんな関係なんですか?」
先輩は少し下をむいてまた諦めたように笑った。
「私が彩羽ちゃんっていうのは少し違うかな…。
私にはね、彩羽ちゃんが短い人生の中で体験したすべての記憶があるの。」
ちょうど先輩の頭の先、大きな山がわたし達を照らしていた太陽を隠した。
ちょっとずつ暗くなっていく教室の中で気がつけば先輩は大粒の涙をその目からこぼしていた。
「私と彩羽ちゃんが出会ったのは大きな大学病院で、同じ病気で入院していたわたし達はたまたま同じ病室になって、そしてわたし達は仲良くなった。
だって、毎日毎日、天井とか窓から見える景色とかそんな変わらないものしか見れないんだよ。
お互いのこと共有したら楽しいじゃん。
ホントにホントに仲良しだった。
だからこそ言えたけど、彩羽ちゃんはもう助からないって最初からわかってた。睦月ちゃんがこうなることももちろんわかってた。
さすがに私に彩羽ちゃんの記憶が残ることは想像できなかったけどこれは神様が彩羽ちゃんにあげた最後のチャンスなんだよ。
そう…思うんだ。
だから私は君をすくいたい。
睦月ちゃんを救いたい。
彩羽ちゃんがそう望んだように、大好きなバドミントンをあきらめないで欲しい。」
ニッコリと笑った。
彩羽だった。
「ごめんね、彩羽ちゃんじゃなくて。
私なんかでごめんね。
でもね、好きなんだ。
私の頭の中、彩羽ちゃんの記憶の中で楽しそうにバドミントンする睦月ちゃんが大好きなの。」
私はどうしてなんだろう。
いつだって気づくのは失ってからで後悔することしかできなかった。
「結城先輩。」
気づけば私に笑いかける彼女を抱きしめていた。
もう失いたくない。
まだ、失ってない。
「咲桜先輩。
私は、もう一人じゃないんですね。
…違うな、ずっと一人なんかじゃなかったんですね。」
青空だけじゃなかった。
友達も親も天国にいる彩羽も、そして先輩も。
ずっとずっと私のことを支えてくれてた。
「行きましょう。全国大会。
どんなに辛くても、苦しくても行きましょう!
そして彩羽に見せつけてやるんです。
わたし達の方が強いって。」
自然と笑がこぼれてた。
もう大丈夫。
もう何も怖くない。
「うん!」
結城咲桜。
それが彼女の名前。
私を変えたただの女の子。
だけど私にとって何よりも大切な大切な…。