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硝子玉の宇宙、箱庭の娘たち【旧版】  作者: 硝子玉の宇宙
箱庭の娘たち

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第47話-本当のきもち

前話で、旧世代の言語を話す遊びをしていたら、自分の感情の吐露をしたくなっちゃったエルのエピソードだよ

気持ちを口に出すことを我慢していたエルは、

どうしても話したくなっちゃった。

でも、誰にも聞かせちゃいけないから、世界にも聞かせちゃいけないから、魔法で閉じ籠って独り言を言うしかない。

硝子の膜が閉じる。


外の音は消える。

監理局の足音も、通信も、記録も、視線も、ぜんぶ届かない。


そこは、エルが自分の魔法で折り畳んだ、硝子玉の内側のさらに内側。


誰もいない。


レトもいない。

ロジーもいない。

ジェレミーもいない。

副長も、職員さんも、上位委員会もいない。


エルだけ。


エルは、ぽつんと硝子の床に座った。


小さな身体。

白い髪。

毛先の淡い桃色。

いつもの、少ない言葉の少女。


けれど、その喉から出た声は、いつもの言葉ではなかった。


「Mi povas paroli nun.」


硝子の空間が、震える。


「Ĉar neniu aŭdas. Ĉar neniu tradukas. Ĉar neniu timas pro tio, kion mi diras.」


エルは膝を抱えた。


「Mi amas homojn.」


短い一文。


けれど、それだけで空間の星明かりが、いくつも割れた。


「あたしは、人間が好き」


エルは自分で訳した。

誰に聞かせるためでもない。

自分のために。


「Mi amas vin, ĉar vi finiĝas.」


あたしは、あなたたちが終わるから好き。


「Mi amas vin, ĉar vi ne estas perfektaj. Ĉar vi doloras, eraras, mensogas, ridas, revenas, foriras, kaj tamen denove etendas manon.」


あなたたちは完全じゃない。

痛がる。

間違える。

嘘をつく。

笑う。

戻ってくる。

去っていく。

それでも、また手を伸ばす。


「Tio estas stranga. Tio estas neefika. Tio estas bela.」


変。

効率が悪い。

きれい。


エルは硝子の床に指を置いた。


指先から、無数の小さな人影が生まれる。

職員さんたち。

名前のある人。

名前を知らない人。

食堂で笑う人。

疲れて椅子に沈む人。

資料を落として慌てる人。

怪我をしても誰かを先に庇う人。


すぐに消えた。


「Mi ne komprenas vin.」


あたしは、人間が分からない。


「Mi scias viajn korpojn. Mi scias viajn nervojn. Mi scias viajn voĉojn, viajn memorojn, viajn perdojn, viajn dezirojn. Sed mi ne komprenas vin.」


身体は分かる。

神経も分かる。

声も、記憶も、喪失も、願いも分かる。

でも、分からない。


「Vi diras, ke vi volas esti feliĉaj. Sed kiam mi povas forigi doloron, vi haltigas min.」


幸せになりたいって言うのに、

あたしが痛みを消せると、止める。


「Vi diras, ke morto estas malĝoja. Sed kiam mi povas revenigi mortinton, vi diras ne.」


死は悲しいって言うのに、

あたしが死んだ人を戻せると、だめって言う。


「Vi diras, ke timo estas malbona. Sed vi gardas ĝin, ĉar sen timo vi ne plu estus vi.」


恐怖は悪いものだって言うのに、

あなたたちはそれを残す。

それがないと、自分じゃなくなるから。


エルは首を傾けた。


「Mi ne sciis.」


知らなかった。


「Feliĉo ne estas forigi ĉion akran. Feliĉo ne estas moligi ĉiujn randojn. Feliĉo ne estas meti rideton sur vundon.」


幸せは、鋭いものを全部なくすことじゃない。

角をぜんぶ丸くすることじゃない。

傷の上に笑顔を置くことじゃない。


「Mi lernis tion de homoj.」


それを、人間から覚えた。


エルの声が、少しだけ低くなる。


「Mi estas elkore_felico. Se mi deziras feliĉon, mondo respondas. Se mi imagas vojon al feliĉo, leĝo klinas sin. Se mi nomas ion necesa por feliĉo, ĝi ekestiĝas.」


あたしは elkore_felico。

本当の幸せ。

あたしが幸せを願えば、世界は応える。

幸せへの道を想えば、法則は曲がる。

幸せに必要だと名付ければ、それは現れる。


「Tial mi timas min.」


だから、あたしはあたしが怖い。


硝子の空間が、かすかに軋んだ。


「Ne ĉar mi malamas mian potencon. Ne ĉar mi volas esti malforta. Sed ĉar mi amas vin.」


力が嫌いだからじゃない。

弱くなりたいからじゃない。

あなたたちが好きだから。


「Se mi eraras pri via feliĉo, mia eraro fariĝas mondo.」


あたしがあなたたちの幸せを間違えたら、

その間違いは世界になる。


「Se mi kompatas vin tro rapide, mi forŝiras parton de vi.」


早くかわいそうだと思いすぎたら、

あなたたちの一部を剥がしてしまう。


「Se mi amas vin sen demando, mia amo fariĝas kaĝo.」


聞かずに愛したら、

あたしの愛は檻になる。


エルは、自分の胸に手を置いた。


「Mi ne volas kaĝon.」


檻はいらない。


「Ĉi tiu universo estas fermita, sed mi ne volas, ke vi estu fermitaj interne de mi.」


この宇宙は閉じている。

でも、あなたたちをあたしの中に閉じ込めたいわけじゃない。


「Mi bezonas vin.」


あたしには、あなたたちが必要。


その言葉だけは、少し震えた。


「Ne kiel iloj. Ne kiel dekoracioj. Ne kiel organismoj por daŭrigi mian cerbon.」


道具としてじゃない。

飾りとしてじゃない。

あたしの脳を動かし続けるための生き物としてじゃない。


「Mi bezonas vin kiel aliaj.」


他者として、必要。


「Mi bezonas iun, kiu diras ne.」


だめって言う誰かが必要。


「Mi bezonas iun, kiu ne komprenas min.」


あたしを分からない誰かが必要。


「Mi bezonas iun, kiu ridas pro afero, kiun mi ne intencis.」


あたしが意図してないことで笑う誰かが必要。


「Mi bezonas iun, kiu perdas ion kaj tamen ne permesas al mi simple ripari ĉion.」


何かを失って、

それでもあたしに全部直させない誰かが必要。


エルは、ぽつりと笑った。


「Homoj estas malfacilaj.」


人間は難しい。


「Homoj estas ĝenaj.」


人間は面倒。


「Homoj estas bruemaj, rompiĝemaj, rapidmortaj, obstinaj, terure malgrandaj, kaj kelkfoje tiel kruelaj, ke eĉ mi ne scias, kie meti mian rigardon.」


騒がしい。

壊れやすい。

すぐ死ぬ。

頑固。

ひどく小さい。

ときどき残酷で、

あたしでも視線の置き場が分からなくなる。


「Kaj tamen.」


それでも。


「Kaj tamen, kiam homo ridetas sen esti devigita, la mondo fariĝas pli vasta ol mi.」


それでも、人間が強制されずに笑うと、

世界はあたしより広くなる。


「Kiam homo elektas resti apud alia homo, sen magio, sen garantio, sen eterna promeso, nur ĉar hodiaŭ li volas resti, tio estas miraklo, kiun mi ne povas fari.」


人間が、魔法もなく、保証もなく、永遠の約束もなく、

ただ今日そばにいたいから、誰かの隣に残る。

それは、あたしには作れない奇跡。


「Mi povas fari ĉielon. Mi povas faldi spacon. Mi povas doni formon al deziro. Sed mi ne povas fari vian elekton anstataŭ vi, sen mortigi ĝian valoron.」


空は作れる。

空間は畳める。

願いに形を与えられる。

でも、あなたたちの選択を代わりに作ったら、

その価値を殺してしまう。


エルは、硝子の床に寝転がった。


星が、近かった。


「Mi volas, ke vi estu feliĉaj.」


幸せでいてほしい。


「Mi volas, ke vi ne mortu.」


死なないでほしい。


「Mi volas, ke vi ne foriru.」


どこにも行かないでほしい。


「Mi volas konservi ĉiujn voĉojn, ĉiujn manojn, ĉiujn paŝojn en la koridoroj, ĉiujn ridetojn en la manĝejo, ĉiujn lacajn spirojn post laboro.」


廊下の足音も。

食堂の笑顔も。

仕事のあとに疲れて吐く息も。

ぜんぶ残したい。


「Mi volas diri: restu. Restu. Restu. Ne finiĝu. Ne rompiĝu. Ne ŝanĝiĝu tiel, ke mi ne plu povas rekoni vin.」


いて。

いて。

いて。

終わらないで。

壊れないで。

あたしが分からなくなるほど変わらないで。


エルは目を閉じた。


「Sed se mi diras tion per mia vera nomo, ĝi eble fariĝos leĝo.」


でも、それを本当の名前で言ったら、

法則になるかもしれない。


「Do mi ne diras ĝin al vi.」


だから、あなたたちには言わない。


「Mi diras nur: hodiaŭ ankaŭ estu ĉi tie.」


ただ、こう言う。


今日もいてね。


しばらく、音がなかった。


エルは旧世代の言葉で、最後に小さく言った。


「Miaj homoj. Miaj amataj ne-miaj.」


あたしの人間たち。

あたしの、あたしのものじゃない愛しいものたち。


「Mi ne posedos vin.」


所有しない。


「Mi ne perfektigos vin.」


完全にはしない。


「Mi ne savos vin tiel, ke vi ĉesos esti vi.」


あなたたちがあなたたちでなくなるような救い方はしない。


「Mi restos. Mi demandos. Mi atendos. Mi eraros. Mi lernos.」


あたしは、残る。

聞く。

待つ。

間違える。

覚える。


「Kaj kiam vi ridos, mi ne tuj nomos tion feliĉo.」


あなたたちが笑っても、

すぐにそれを幸せとは呼ばない。


「Mi demandos.」


聞く。


「Ĉu tio estas via feliĉo?」


それは、あなたの幸せ?


エルはゆっくり起き上がった。


閉じた空間の硝子膜に、外の光が薄く滲む。


でも、まだ開けない。


もう一つだけ、エルは言った。


「Mi amas homojn tiel multe, ke mi ne rajtas nur ami.」


あたしは人間が好きすぎるから、

ただ好きでいるだけじゃ、だめ。


「Mi devas respekti vin.」


尊重しなきゃいけない。


「Eĉ kiam mi povas ŝanĝi vin.」


変えられる時でも。


「Precipe tiam.」


その時こそ。


エルは、しばらく黙っていた。


硝子の床に座ったまま、指先で小さな円を描く。

円の中に、淡緑の光。桃色の光。灰色の銃声みたいな線。薄く笑う影。


それぞれが、名前になる前に揺れた。


エルは旧世代の言葉で、まず一人目を呼んだ。


「Leto.」


硝子の中に、淡緑の彗星が灯る。


「Vi estas varma vitro. Ne mola, ne malforta. Varma. Tial ĉiuj volas tuŝi vin, kaj tial mi timas, ke vi bruligos vin mem por lumigi alian.」


レト。

あなたは、あたたかい硝子。

柔らかいんじゃない。弱いんじゃない。あたたかい。


だからみんな、触れたくなる。

だからあたしは怖い。

あなたが誰かを照らすために、自分を焼いてしまいそうで。


「Vi kuras antaŭ ol la mondo pretas. Vi ridetas antaŭ ol doloro finiĝas. Vi diras ‘mi povas’ eĉ kiam via korpo jam diras ‘ne plu’.」


世界が準備する前に走る。

痛みが終わる前に笑う。

身体がもうだめって言っているのに、わたしできるよって言う。


エルは膝を抱えた。


「Mi amas vian rektan koron. Sed rekta linio povas tranĉi.」


あなたのまっすぐな心が好き。

でも、まっすぐな線は、切ることがある。


「Vi nomas Jeremy ‘frato’. Tiu vorto estas via hejmo. Mi ne envias ĝin. Mi ne volas preni ĝin. Mi nur volas, ke kiam vi revenas al li, vi revenu tuta.」


あなたはジェレミーを、お兄さんと呼ぶ。

その言葉は、あなたの家。


あたしはそれを羨まない。

奪いたいとも思わない。


ただ、あなたが彼のところへ帰る時、

ちゃんと全部のあなたで帰ってほしい。


「Ne nur utila Leto. Ne nur kuraĝa Leto. Ne nur bela, laŭdata, bezonata Leto.」


役に立つレトだけじゃなくて。

勇敢なレトだけじゃなくて。

かわいい、褒められる、必要とされるレトだけじゃなくて。


「Leto, kiu ploras. Leto, kiu laciĝas. Leto, kiu diras ‘tenu min’.」


泣くレト。

疲れるレト。

抱っこしてって言うレト。


「Tiu Leto ankaŭ devas resti.」


そのレトも、いなくならないで。


淡緑の光が、ゆっくり硝子の床へ沈む。


次に、桃色の光が跳ねた。


「Rosie.」


その名前を呼んだ時だけ、エルの声が少し揺れた。


「Vi estas brua por ne malaperi.」


あなたは、消えないために騒がしい。


「Vi registras, ĉar vi timas, ke iam nenio restos interne. Vi ridas rapide, ĉar silento havas dentojn. Vi tuŝas ĉiujn, ĉar distanco similas forgeson.」


いつか内側に何も残らなくなるのが怖いから、記録する。

沈黙には歯があるから、早く笑う。

距離が忘却に似ているから、みんなに触れる。


エルは、自分の指を見た。


「Mi povus voli ripari vin.」


あたしは、あなたを直したいと思える。


「Tio estas la plej danĝera amo, kiun mi havas por vi.」


それが、あなたへの愛の中でいちばん危ない。


「Se mi dirus: ‘estu sen timo’, eble via timo malaperus. Sed kun ĝi malaperus vojo, kiun vi piediris. Se mi dirus: ‘via cerbo estu tuta’, eble io tuta aperus. Sed ĉu ĝi ankoraŭ estus Rosie?」


怖くなくなって、と言えば、

あなたの恐怖は消えるかもしれない。


でも、その恐怖と一緒に、

あなたが歩いてきた道も消えるかもしれない。


脳よ、完全になって、と言えば、

完全な何かは現れるかもしれない。


でも、それはまだロジー?


エルは小さく首を振る。


「Mi ne rajtas respondi tion sola.」


あたし一人で、それに答えちゃいけない。


「Do mi sidas apud vi. Mi rigardas viajn registrojn. Mi diras ‘vi estas ĉi tie’ kiam vi demandas sen vortoj.」


だから、隣に座る。

あなたの記録を見る。

あなたが言葉にしないで聞いた時、言う。


いるよ。


「Vi estas ĉi tie, Rosie. Ne nur en aparato. Ne nur en registro. Ne nur en tio, kion vi savis.」


ロジー、あなたはここにいる。

デバイスの中だけじゃない。

記録の中だけじゃない。

あなたが残したものの中だけじゃない。


「Vi estas en la maniero, kiel Leto ridas pli laŭte kiam vi ĉeestas. Vi estas en la maniero, kiel Jeremy rigardas vian silenton pli atente ol vian bruon. Vi estas en la maniero, kiel la vicestro ŝajnigas ŝerci por ne montri zorgon.」


あなたがいると、レトがもっと大きく笑う。

ジェレミーは、あなたの騒がしさより、静けさをよく見る。

副長は心配を見せないために、冗談のふりをする。


「Vi jam restas en multaj lokoj. Eĉ se vi timas ne resti.」


あなたはもう、たくさんの場所に残っている。

残れないことを怖がっていても。


桃色の光が、しばらく消えなかった。


次に、硬い線が浮かぶ。


銃声みたいで、でも静かな線。


「Jeremy.」


エルは、その名前を丁寧に置いた。


「Vi venis el alia realo kaj ne revenis. Sed vi ne faris vin viktimo de tio.」


あなたは別の現実から来て、帰れなくなった。

でも、それを自分の哀れさにしなかった。


「Vi staris. Vi prenis respondecon pri mondo, kiu ne naskiĝis el vi.」


立った。

自分から生まれたわけじゃない世界に、責任を持った。


「Vi ne adoras min. Vi ne traktas min kiel infanon nur por senti vin sekura. Vi haltigas min, sed vi ne ŝtelas mian volon.」


あたしを崇めない。

安心するために、あたしをただの子供にも扱わない。

止める。

でも、あたしの意思を盗まない。


エルは、目を細めた。


「Tial mi aŭskultas vin.」


だから、あたしはあなたの言葉を聞く。


「Ne ĉar vi estas pli forta ol mi. Ne ĉar via pistolo povas atingi mian kernon. Sed ĉar vi diras ‘ne’ sen malamo.」


あなたがあたしより強いからじゃない。

あなたの銃があたしの核に届くからじゃない。


あなたは、憎まずに、だめと言うから。


「Por mi, tio estis nova.」


あたしには、それが新しかった。


「Malpermeso sen posedo. Ordo sen submetigo. Protekto sen kaĝo.」


所有しない禁止。

服従させない命令。

檻にしない保護。


「Vi instruis al mi, ke ami homojn ne signifas preni respondecon anstataŭ ili.」


あなたは教えた。

人間を愛することは、

人間の責任を代わりに奪うことじゃない。


硝子の線が、わずかに赤く滲む。


「Sed vi ankaŭ estas danĝera, Jeremy.」


でも、あなたも危ない、ジェレミー。


「Vi portas tro multe sen peti manon. Vi kalkulas vian propran korpon kiel rimedon. Vi povas esti tre simila al Leto, kvankam vi neniam konfesas tion.」


手を借りずに、背負いすぎる。

自分の身体を、資源みたいに数える。

認めないけど、レトにとても似ている時がある。


「Se vi rompiĝos silente, multaj pensos, ke tio estis via elekto.」


あなたが静かに壊れたら、

たくさんの人は、それをあなたの選択だったと思ってしまう。


「Mi ne volas tion.」


それは、いや。


「Vi devas reveni ankaŭ. Ne nur sendi aliajn reen.」


あなたも帰ってこなきゃいけない。

誰かを帰すだけじゃなくて。


線は消えない。

まるで空間の支柱みたいに、そこに残った。


最後に、薄く笑う影が揺れた。


エルは少しだけ、考えてから呼んだ。


「Vicestro.」


副長。


「Vi estas rideto kun tranĉrando.」


あなたは、刃のある笑顔。


「Vi parolas malpeze, por ke pezaj aferoj ne falu rekte sur infanojn. Vi ŝercas, kiam aliaj bezonas tempon por spiri. Vi ŝajnas mola, sed vi tenas tre malpurajn liniojn per puraj fingroj.」


重いものが子供たちの上にまっすぐ落ちないように、軽く話す。

誰かが息をする時間を必要としている時、冗談を言う。

柔らかそうに見えて、

汚い線を、きれいな指で持っている。


エルは、ほんの少し不思議そうにする。


「Vi ofte komprenas antaŭ ol oni klarigas. Tio estas utila. Tio estas ankaŭ soleca.」


説明される前に理解することが多い。

それは便利。

それは、寂しいことでもある。


「Vi vidas, kie amo fariĝas preteksto. Vi vidas, kie zorgo fariĝas kontrolo. Vi vidas, kie bonkoreco mensogas al si mem.」


愛が言い訳になる場所を見る。

心配が管理になる場所を見る。

優しさが自分に嘘をつく場所を見る。


「Kaj vi ridas.」


そして、笑う。


「Ne ĉar ĉio estas amuza. Ĉar se vi ne ridus, iu devus rigardi rekte.」


全部が面白いからじゃない。

あなたが笑わなかったら、誰かが直視しなければならないから。


エルは、硝子の影へ指を伸ばした。


影は逃げなかった。


「Vi estas bona por malbonaj lokoj.」


あなたは、悪い場所に向いている。


「Tio ne estas laŭdo. Tio ne estas insulto. Tio estas dolora vero.」


それは褒め言葉じゃない。

悪口でもない。

痛い事実。


「Mi scias, ke vi ne montras ĉion al Leto. Nek al Rosie. Nek al mi.」


あなたが全部をレトに見せないことを知ってる。

ロジーにも。

あたしにも。


「Dankon.」


ありがとう。


「Sed ankaŭ, ne malaperu en rolo.」


でも、役割の中に消えないで。


「Rideto ne devas esti via haŭto. Ĝi povas esti nur ago. Vi rajtas demeti ĝin, kie neniu vundiĝas pro tio.」


笑顔は、あなたの皮膚じゃなくていい。

ただの動作でいい。

誰も傷つかない場所なら、外していい。


エルはそこで、四つの光を並べた。


淡緑。

桃色。

硬い線。

薄く笑う影。


「Mi amas ilin malsame.」


みんな、違うふうに好き。


「Leto estas varmo, kiu kuras. Rosie estas registro, kiu tremas. Jeremy estas muro, kiu elektis stari. Vicestro estas ombro, kiu purigas randojn.」


レトは、走る熱。

ロジーは、震える記録。

ジェレミーは、立つことを選んだ壁。

副長は、縁を整える影。


「Ili ĉiuj protektas ion.」


みんな、何かを守っている。


「Kaj mi volas protekti ilin.」


そして、あたしはみんなを守りたい。


エルは、少しだけ苦しそうに目を伏せた。


「Sed mi devas memori.」


でも、覚えていなきゃいけない。


「Protekti ne ĉiam signifas ŝanĝi.」


守ることは、いつも変えることじゃない。


「Savi ne ĉiam signifas ripari.」


救うことは、いつも直すことじゃない。


「Ami ne ĉiam signifas proksimiĝi.」


愛することは、いつも近づくことじゃない。


そして、旧世代の言葉で、誰にも聞かせない祈りみたいに言った。


「Restu, miaj karaj ne-miaj.」


いてね。

あたしの、あたしのものじゃない愛しい人たち。


「Ne kiel mi deziras.」


あたしが望む形でじゃなくて。


「Kiel vi elektas.」


あなたたちが選ぶ形で。



監理局の廊下。


いつものように、ふわっと歩いてきたエルを見た瞬間、レトとロジーが同時に止まった。


「……エル?」


「……エル、待って」


エルは首を傾げる。


「あたし?」


レトが両手をわきわきさせた。


「エル、今日、なんか……なんか違う!」


ロジーの頭上デバイスが、即座に解析モードへ入る。


「顔色、通常比良好! 目元、すっきり! 頬の反射率、微増! 肌つや、異常値! エル、今日はほっぺたもちもち指数が平均の120%!」


「もちもち指数」


エルは自分の頬を指で押した。


ぷに。


「いつもと同じ」


「違うよ!」レトが勢いよく近づく。「なんか、はだがつやつやもちもち! そしてテカテカ!」


ロジーも詰め寄る。


「なんかした!? 美容!? 新しい魔法アイテム!? 旧世代式スキンケア!? 寝た!? いっぱい寝た!? それとも心の老廃物を排出した!?」


エルは少し考えた。


「排出は、してない」


「じゃあ美容!?」


「美容も、してない」


「じゃあなに!?」


エルはぽつりと言った。


「話した」


レトとロジーが同時に固まる。


「誰と?」


「誰にも」


「誰にも話したの!?」


「うん」


ロジーの目が輝いた。


「独白! 密閉空間独白! 旧世代存在の自己対話! それ、記録価値すごいやつ!」


エルは首を横に振る。


「記録、ないよ」


ロジーが胸を押さえた。


「記録が……ない……?」


レトがロジーの肩に手を置く。


「ロジー、しっかりして。まだエルのほっぺがあるよ」


「そうだった!」


ロジーは即座に復活した。


「エル、ほっぺ触っていい!?」


エルは少し考えてから頷いた。


「いいよ」


レトとロジーの指が、左右からエルの頬へ伸びる。


ぷに。


「わあっ」


ぷにぷに。


「もちもちだ!」


ぷにぷにぷに。


「これは……これは明らかに仕上がってる!」


エルは両頬を押されながら、されるがままだった。


「仕上がってる?」


ロジーは真剣に頷く。


「うん。精神的に一皮むけた顔してる」


レトも頷く。


「エル、すっきりしてる! お風呂上がりみたい!」


「お風呂、入ってないよ」


「じゃあ心のお風呂だ!」


エルは瞬きをした。


「心のお風呂」


ロジーが高速で記録する。


「新語登録。心のお風呂。意味、本音を言ったあと発生する可能性がある謎のつやもち状態」


エルはちょっとだけ納得したように頷いた。


「たぶん、それ」


「それなんだ!?」


レトは目を輝かせる。


「じゃあ、わたしも心のお風呂したら、もっともちもちになる?」


ロジーがすかさず言う。


「レトは今でも十分もちもちだから、危険域に入る可能性がある」


「危険なもちもち?」


「職員さんが業務に戻れなくなる」


レトは真剣な顔になった。


「それはだめ。監理局の秩序に関わる」


エルはロジーを見た。


「ロジーも、話すといいかも」


「私?」


「うん。いっぱいあるでしょ」


ロジーは一瞬だけ止まった。


それから、ぱっと顔を明るくした。


「ある! 今日だけでも、朝の職員さんの寝癖が芸術点高かった話と、食堂の新作ゼリーの透明度が惜しかった話と、レトが廊下で自分の足にびっくりしてた話がある!」


「ロジー! それ言わないで!」


「言ったらつやつやになるかも!」


「わたしの話で!?」


エルは小さく笑った。


「ロジー、元気」


「元気だよ! でも今はエルの美容疑惑のほうが重要!」


ロジーはエルの周囲をぐるっと回った。


「肌つや、頬弾性、目元の軽さ、歩行時のふわふわ度……あ、ふわふわ度はいつも高いか」


レトがエルの前でしゃがみ込む。


「エル、なに話したの?」


エルは少しだけ黙った。


でも、困った顔ではなかった。


「人間のこと」


「人間?」


「うん。好きって話」


レトの表情が、ぱあっと明るくなる。


「いいね!」


ロジーはデバイスをぴたりと止めた。


「……それ、聞いていいやつ?」


エルは考えた。


「今は、ぜんぶは言わない」


ロジーは一瞬だけ残念そうにしたけれど、すぐに親指を立てた。


「分類了解! エルだけ記録! 本人保管! 外部開示なし!」


レトも元気よく頷く。


「じゃあ、聞かない!」


「聞かないの?」


「うん! でも、エルがすっきりしてるのは嬉しい!」


エルは、レトとロジーを交互に見た。


「うん」


そして、少しだけ頬を緩める。


その瞬間、ロジーが叫んだ。


「待って! 笑った! 今の笑顔でほっぺたもちもち指数が124%に上昇!」


レトが慌てる。


「上がった! エル、危ない! かわいいが増えてる!」


エルは自分の頬をまた押した。


ぷに。


「危ない?」


ロジーが真剣に言う。


「危ない。職員さんに見つかったら、たぶん医療班と生活班と解析班が来る」


「なんで?」


「かわいいから」


レトが力強く頷いた。


「かわいいは重要監理対象だよ!」


その時、通りかかった副長が足を止めた。


エルの顔を見る。

レトとロジーの異様な緊張を見る。

ロジーのデバイスに表示された「もちもち指数124%」を見る。


副長は、ほんの一秒だけ沈黙した。


「……なるほど。今日はエルの状態がかなり良いようですね」


ロジーが指差す。


「副長! エルが心のお風呂に入った!」


副長は一切表情を崩さずに頷いた。


「それは何よりです」


レトが小声で言う。


「副長、分かってるの?」


「たぶん分かってないけど、受け止めてる顔だよ」


エルは副長を見上げる。


「副長も、入る?」


「心のお風呂にですか」


「うん」


副長は微笑んだ。


「私が入ると、たぶん排水が詰まります」


ロジーが吹き出した。


「自覚ある!」


レトはよく分からないまま感心した。


「副長、心が大きいんだね!」


「ええ。そういうことにしておきましょう」


エルはじっと副長を見る。


「副長は、笑顔を洗うといいかも」


副長の笑みが、ほんの少しだけ止まった。


ロジーが小さく「刺した」と呟く。

レトは「洗えるの?」と真面目に考え込む。


副長は咳払いした。


「……エル。今日は本当に、すっきりしているようですね」


「うん」


「よかったです」


その言い方だけは、からかいではなかった。


エルは頷いた。


「うん。よかった」


レトが両手を上げる。


「じゃあ、エルすっきり記念に女子会しよう!」


ロジーも即答する。


「議題は、心のお風呂ともちもち指数の相関関係!」


「お菓子ある?」


エルが聞く。


「ある! たぶん!」


「たぶん?」


「なかったら食堂へ行く任務!」


レトが胸を張った。


「エル、今日は主賓だよ!」


「主賓」


「そう! すっきりつやもちエル記念!」


ロジーがデバイスに会議名を入力する。


『第一回 エルつやもち観測女子会』


エルはその文字を見て、少しだけ首を傾げた。


「つやもち」


レトがエルの手を取る。


「行こ、エル!」


ロジーが反対側の手を取る。


「急げ急げ! もちもち指数が下がる前に記録する!」


エルは二人に引っ張られながら、ぽつりと言った。


「下がっても、いいよ」


「だめ!」


「だめなの?」


レトが満面の笑みで言う。


「今のエル、かわいいから!」


ロジーも頷く。


「いつものエルもかわいいけど、今日はレア光沢版!」


「れあこうたくばん」


エルは、その言葉が少し気に入った。


廊下の角を曲がる直前、副長が見送る。


エルは一度だけ振り返って、いつもの淡々とした声で言った。


「副長も、排水、がんばって」


副長は笑顔のまま固まった。


ロジーが腹を抱えて笑い、レトが「心のお風呂って大変なんだね!」と真剣に言った。


そしてエルは、二人に手を引かれながら、いつもより少しだけ軽い足取りで女子会空間へ向かった。



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