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硝子玉の宇宙、箱庭の娘たち【旧版】  作者: 硝子玉の宇宙
箱庭の娘たち

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第42話-娘たちは知らない監理局

監理局の輸送船《第六封印輸送艇》が、帰路から消えた。


船には、先日封印処置を終えたばかりの神性存在の断片を積む予定だった。

今は別の任務の帰り道。

監理局へ向かい、その断片を輸送する予定だった船。

断片そのものは小さい。

指先ほどの透明な結晶片。


だが、そこに残っている権能は、惑星ひとつの精神汚染を引き起こすには十分だった。


だからこそ、監理局は三重封印を施し、輸送任務を通常航路から外し、護衛記録すら分散して任務を行わせる予定だった。


そして、敵が奪ったのは、まだ空の輸送船。


断片を輸送しているはず、という敵側の誤認だった。


通信室の大型スクリーンに、敵組織の映像が映る。


白い仮面。


黒い制服。


船内通路に整列する敵兵。


そして、その奥で拘束された監理局職員たち。


二十六名。


全員、生存。


全員、首に細い金属針のような魔術器官を刺されている。


映像の中央で、仮面の男が言った。


「惑星監理局局長、ジェレミー・クリエットとの交渉を要求する」


副長の目が細くなる。


「組織名は?」


情報班の上位職員が答える。


「《灰視院》です」


その名前を聞いた瞬間、室内の数人が息を止めた。


戦闘組織ではない。


暗殺組織でもない。


《灰視院》は、捜査と索敵の専門家集団だった。


失踪者を探す。


秘匿施設を見つける。


偽造記録を剥がす。


魔力残滓から逃走経路を復元する。


嘘を、隠蔽を、替え玉を、魔術的偽装を暴く。


戦う前に、逃げ場を潰す組織。


仮面の男が続ける。


「要求は、神性存在の断片。交渉相手は局長本人のみ。代理人、複製体、幻影、遠隔操作体、身体情報の偽装、すべて無効とする」


画面が切り替わる。


船内に敷き詰められた生体認証魔術。


骨格反響。


血液温度。


神経伝達速度。


呼吸圧。


虹彩反射。


魔力波形。


歩行時の重心移動。


発砲姿勢に入る直前の肩甲骨の沈み。


そこまで読む術式だった。


「局長以外が入れば、五秒以内に露見します」


技術班長が言った。


「露見した場合は?」


「人質の首に刺さっている針が起動します。神経遮断、心停止、同時処理です」


副長が薄く息を吐く。


「よく調べていますね。こちらが替え玉を出すと分かっていて、それを前提に罠を組んでいる」


ジェレミーは黙って画面を見ていた。


仮面の男の声が、通信室に響く。


「局長本人が来なければ、人質を一人ずつ殺す。神性存在の断片を渡せば、乗員は返す」


監理局の上位職員たちは、誰も騒がなかった。


怒鳴りもしない。


机を叩きもしない。


ただ、全員の表情から、日常が消えた。


そこにいるのは、レトたちが知っている「ゆるい職員さん」ではなかった。


惑星監理局の黒い部分を知り、必要ならそれを実行する者たちだった。


副長が言う。


「局長、戦闘班は突入できません」


「分かっている」


「私も船内には入れません。隠密魔術を使っても、生体認証の副次スキャンに引っかかります。私の魔力の癖は、向こうに登録されている可能性が高い」


「だろうな」


「ですが、外からなら支援できます。船体外殻、換気魔術孔、断熱層、配線空間。そこまでは認証域ではない」


「十分だ」


医療班の上位職員が、人質の生命反応を解析する。


「針は遠隔命令式です。制御室を押さえれば解除可能。ただし、敵術者が手動発動権を持っています」


情報班が続ける。


「敵は神性存在の断片を、自分たちの本拠惑星に発生している神性災害の抑制核に使うつもりです。成功率は低いですが、彼らはそれに賭けています」


ジェレミーが短く答える。


「賭けに使っていいものではない」


「はい」


「交渉はしない」


その一言で、作戦の性質が決まった。


人質を救出する。


断片を奪還する。


敵組織の実行部隊を壊滅させる。


必要なら、全員殺す。


それが、箱庭の娘たちには見せない監理局だった。


ジェレミーは拳銃を一丁、机に置いた。


古いハンドガン。


魔術武装ではない。


現実の宇宙から持ち込まれた、人間の武器。


副長がその銃を見て言う。


「弾数は?」


「装填済み一つ。予備弾倉二つ」


「それだけで?」


「それだけでいい」


情報班の若い職員が、思わず言った。


「局長、相手は索敵の専門家です。死角を使っても読まれます。銃を抜く動きも、予測されます」


ジェレミーはその職員を見た。


静かな目だった。


「なら、予測の後に動く」


若い職員は言葉を失った。


副長だけが、少しだけ笑った。


ジェレミー・クリエットは、硝子玉の宇宙の人間ではない。


現実の宇宙から迷い込み、帰れなくなった男。


その前の時代、彼は生体改造を受けていた。


強化筋肉。


神経伝達の高速化。


思考速度の拡張。


視覚情報の圧縮処理。


超反射神経に追従可能な肉体スペック。


魔術ではない。


権能でもない。


奇跡でもない。


現実の宇宙で、人間が人間を戦闘用に作り替えた結果。


だから、魔術スキャンには引っかからない。


魔力反応がない。


術式補助もない。


ただ、人間の肉体が、人間の範囲を踏み越えている。


《灰視院》は、それを知らない。


知っていても、理解できない。


シャトルが接舷する。


ジェレミーは一人で敵船へ向かった。


副長は別ルートを取った。


船外装甲の上。


真空に近い冷却層。


普通の魔術師なら数秒で術式痕を残す場所を、副長は何も揺らさずに進む。


隠密魔術とは、透明になる技術ではない。


「見つかる理由」を消す技術。


足音。


熱。


魔力の揺れ。


空気の押し出し。


術式の起動痕。


存在したという記録の輪郭。


副長はそれらを、針の先ほどまで細くする。


消すのではない。


敵の索敵が「無視していい誤差」と判断する大きさまで削る。


だから、《灰視院》のスキャンを抜けられる。


ただし、船内には入れない。


生体認証魔術は、そこまで甘くない。


副長は外にいる。


ジェレミーだけが、中に入る。


扉の前で、敵の声がした。


「武装を置け」


ジェレミーは拳銃を床に置く。


「弾倉も」


抜いて置く。


「予備弾倉」


二つ置く。


「袖、靴、歯、皮下、骨格内蔵物、すべてスキャンする」


銀色の光が、ジェレミーの全身を舐めた。


敵の術式が異常値を拾う。


神経反射速度、通常人類基準の数倍。


思考反応、計測限界付近。


筋肉密度、異常。


だが、魔術反応なし。


偽装なし。


外部接続なし。


本人。


敵が一瞬だけ沈黙した。


「……確認した。局長本人だ」


扉が開く。


交渉室に入った瞬間、ジェレミーは自分がどこで殺される予定だったかを把握した。


正面、仮面の代表。


左右、護衛六名。


天井、索敵眼八基。


床、拘束陣。


壁、反射スキャン糸。


空調口、麻痺粉。


机の下、指向性爆裂符。


敵は交渉する気がある。


同時に、いつでも殺せる準備をしている。


仮面の代表が言った。


「ようこそ、局長」


「職員を解放しろ」


「断片が先だ」


「断る」


代表は笑わなかった。


「あなたは状況を理解していない。こちらは乗員を握っている」


「理解している」


「なら、なぜ断る?」


「お前たちに断片を渡せば、もっと多く死ぬ」


「我々の惑星が滅びてもいいと?」


「監理局へ正式に救援要請を出せばよかった」


「間に合わない!」


代表の声が荒れる。


「我々は探した! 調べた! 封印記録も、輸送記録も、断片の性質も! あれがあれば結界核を組める!」


「組めない」


ジェレミーは即答した。


「断片は抑制核にならない。神性災害を別の形に変質させるだけだ」


「やってみなければ分からない!」


「分かるから封印した」


その瞬間、代表の指が動いた。


交渉決裂の合図。


護衛が動く。


速い。


訓練されている。


ジェレミーが床に置いた銃までは、距離がある。


敵の判断は正しい。


普通の人間なら、銃を拾う前に殺される。


ジェレミーは銃を拾わなかった。


一歩踏み込む。


右の護衛が短銃を抜く。


その手首を掴む。


掴むと同時に、親指で安全装置を外す。


銃口の向きを変える。


発砲。


弾は、左の護衛の喉元に入る。


ジェレミーは撃った本人の指を使って撃たせていた。


次の瞬間、護衛の身体を盾にする。


背後から撃たれた弾が、その護衛に当たる。


ジェレミーは倒れる身体の陰で、短銃を奪う。


一発目。


天井の索敵眼。


二発目。


拘束陣の基点。


三発目。


机の下の爆裂符。


爆発は起きない。


術式の起動核だけが砕ける。


敵の代表が目を見開く。


「撃つ順番が――」


言い終える前に、四発目。


代表の隣にいた術者が倒れる。


ジェレミーは、敵より速く動いているのではない。


敵が何を見るかを、先に見ている。


索敵の専門家は、必ず情報を読む。


反応を見る。


予兆を見る。


だからジェレミーは、予兆を出してから、その意味を変える。


右へ行く足運びで、左へ行く。


銃を拾う視線で、術者を見る。


殴る肩の沈みで、撃つ。


撃つ呼吸で、撃たない。


敵の索敵精度が高いほど、騙される。


「囲め!」


代表が叫ぶ。


護衛が三方向から詰める。


ジェレミーの脳内で、選択肢が同時に並ぶ。


一人目を撃つ。


二人目の刃を避ける。


三人目の膝を砕く。


代表の手元を確認する。


人質針の副命令符。


距離、三メートル半。


必要時間、〇・四秒。


敵の最短発動、〇・六秒。


間に合う。


ジェレミーの肉体が、思考に遅れずついていく。


床を蹴る。


筋肉が悲鳴を上げる前に、強化骨格が負荷を逃がす。


膝を沈める。


身体を捻る。


刃が服を裂く。


皮膚には届かない。


発砲。


一人。


肘打ち。


二人。


奪った刃を投げる。


三人。


代表の手が副命令符に触れる。


ジェレミーの左手が、その手首を掴む。


骨が鳴る。


代表が初めて恐怖の声を漏らした。


「人間か、お前」


ジェレミーは答えない。


短銃のグリップを代表の顎に叩き込み、意識を半分飛ばす。


殺さない。


まだ情報がいる。


だが、交渉相手としてはもう見ていない。


通信が入る。


副長の声。


「局長、船内広域スキャンが再起動します。十秒後、私の針も通りにくくなる」


「制御室は」


「船尾側、第三区画。敵中核十二名。人質針の主命令権あり」


「行く」


「途中、右通路は罠です。左は露骨すぎる囮。天井整備路が本命ですが、そこも読まれています」


「なら中央を抜ける」


「ですよね」


副長は笑った。


「中央通路、敵二十名。重火器なし。断片暴発を恐れています。魔術拘束と近接武装中心」


「十分だ」


ジェレミーは代表を床に落とし、歩き出した。


中央通路。


敵が待っていた。


彼らは強い。


監理局の通常職員なら、複数班で当たる相手だった。


索敵術者が後衛に立ち、前衛の視界を共有している。


誰か一人がジェレミーを見るだけで、全員がジェレミーの位置を把握する。


壁の銀糸が、動きの癖を読んで予測線を出す。


床の術式が、次の足場を潰す。


普通なら、詰み。


ジェレミーは通路の照明を撃った。


暗闇。


敵は動揺しない。


暗闇でも索敵できるからだ。


だが、ジェレミーの目的は視界を奪うことではない。


照明が落ちた瞬間、予測線が熱残滓を補正に使う。


その補正の一瞬。


〇・一秒未満。


ジェレミーは、敵の予測から消える。


最初の三人が倒れた時、まだ銃声は一つしか聞こえていなかった。


「後ろ!」


違う。


「上!」


違う。


「熱反応、左!」


それは撃たれた銃身の熱。


「正面!」


遅い。


ジェレミーの超反射神経は、敵の攻撃に反応するためだけのものではなかった。


敵の判断が生まれた瞬間、その判断に肉体を割り込ませる。


敵が撃つと決めた瞬間には、もう銃口の外へいる。


敵が防ぐと決めた瞬間には、防御の薄い側にいる。


敵が逃げると決めた瞬間には、逃げ道を塞いでいる。


人間の戦闘ではない。


だが、魔術でもない。


現実の宇宙で作られた、戦闘用の肉体。


それを、硝子玉の宇宙の監理局局長が使っている。


「第二区画、沈黙」


情報班の上位職員が通信室で呟く。


画面には、敵反応が次々に消えていく。


医療班長が確認する。


「人質、生命反応安定。針の手動発動権はまだ残っています」


監理班の上位職員が言う。


「敵外部通信、八割遮断。残りは偽情報を流しています。本拠地には、交渉継続中と認識させています」


技術班長が指示を飛ばす。


「封印ケースの温度変化、ゼロ。断片はまだ安全域」


副長は船外から、細い魔力針を一本ずつ通していた。


敵の足首。


指。


眼球ではない。


喉でもない。


殺すためではない。


ジェレミーが殺す順番を狂わせないため。


敵が針に気づくころには、すでにジェレミーがいる。


制御室の前で、敵の中核が待っていた。


十二名。


全員、仮面を外していた。


顔を隠す必要がない、という意思表示。


そのうちの一人、年老いた女が言う。


「局長。あなたは我々を殺すつもりか」


「人質の針を解除しろ」


「断片を渡せば解除する」


「なら、殺す」


女は静かに笑った。


「私たちの惑星には、子供もいる」


ジェレミーは足を止めない。


「この船にも、私の職員がいる」


「あなたの箱庭の娘たちが同じ状況なら、あなたはどうする?」


その言葉で、通信室の空気が冷えた。


副長の目が細くなる。


上位職員たちは、誰も声を出さない。


ジェレミーだけが、変わらなかった。


「彼女たちのために人を害することはない」


女の指が動く。


制御室全体が発光した。


十二人分のスキャン魔術が、ジェレミーの全身を解析する。


筋肉の動き。


神経の発火。


視線。


呼吸。


心拍。


次の射線。


次の歩幅。


次の攻撃。


すべてを読む。


そして、敵が同時に動く。


完璧な包囲。


完璧な先読み。


完璧な殺害手順。


だから、ジェレミーは一瞬だけ止まった。


完全停止。


全身の動きをゼロにする。


敵の予測が、空振りする。


次の瞬間、彼は一気に動いた。


一人目の喉元へ発砲。


二人目の腕を掴み、術式を暴発させる。


三人目の膝を撃つ。


四人目の胸を撃つ。


五人目の発声器官を潰す。


六人目が自爆術式を起動する前に、眉間を撃つ。


弾倉が空になる。


ジェレミーは銃を捨てる。


敵が一瞬、勝ったと思う。


床に落ちた敵の短銃を、足で蹴り上げる。


空中で掴む。


七人目。


八人目。


九人目。


副長の針が十人目の指を止める。


ジェレミーが撃つ。


十一人目が人質針の最終命令を口頭起動しようとする。


情報班が音声回線を潰す。


ジェレミーが撃つ。


最後に残った年老いた女が、胸元の術式核を握った。


「私を殺せば、解除鍵は失われる」


「嘘だ」


ジェレミーは即答した。


「解除鍵はお前ではない。お前の左奥歯に埋め込まれた記録片だ」


女の表情が崩れる。


通信越しに、情報班の上位職員が言った。


「解析完了。局長、左奥歯です」


副長が続ける。


「殺害後でも回収可能です」


女が何かを言おうとした。


ジェレミーは撃った。


制御室が沈黙する。


医療班が叫ぶ。


「人質針、主命令停止!」


技術班が続く。


「解除鍵、確保!」


監理班が即座に命令する。


「戦闘班、突入。生存敵性反応は全排除。人質区画優先」


ようやく、戦闘班が入る。


それまで彼らは待っていた。


どれほど歯痒くても。


どれほど人質が近くても。


生体認証魔術がある限り、突入はできなかった。


ジェレミー一人に任せるしかなかった。


だから任せた。


局長がそういう男だと、上位職員たちは知っていた。


数時間後。


輸送船は奪還された。


神性存在の断片は無事。


乗員二十六名、生存。


敵実行部隊、全滅。


《灰視院》本拠地への追跡は、すでに始まっている。


公式記録には、こう残る。


「輸送船通信障害。監理局上位職員による封印安全確認。異常なし」


それだけ。


人質のことも。


交渉のことも。


ジェレミーが単騎で敵船を制圧したことも。


副長が船外から認証域の隙間に針を通したことも。


上位職員たちが敵の通信、術式、記録、逃走経路をすべて潰したことも。


表には出ない。


箱庭の娘たちには見せない。


朝。


監理局の食堂。


レトがぱたぱた走ってきた。


「お兄さん! おはよー!」


ジェレミーは、いつも通りの顔で振り向いた。


「おはよう、レト」


レトはにこにこしながら、トレーを持ち上げる。


「今日はね、プリンあるよ! 朝プリン!」


「朝からか」


「朝だからだよ!」


ロジーが横から顔を出す。


「局長、なんか今日、上位職員さんたち全員しれっと眠そうなんだけど。徹夜?」


副長がコーヒーを片手に答えた。


「書類です」


「うわー、黒い仕事だ」


ロジーは本気で嫌そうな顔をした。


副長は笑った。


「ええ、とても黒い仕事でしたよ。インクで指が汚れますから」


エルがジェレミーの袖をつまむ。


「あ。ここ、焦げてる」


ジェレミーの袖口には、小さな焦げ跡があった。


戦闘中、弾丸が掠めた跡だった。


ジェレミーは平然と言う。


「コーヒーをこぼした」


エルはじっと見る。


「コーヒー、銃みたいな匂いする?」


一瞬、周囲の職員たちの動きが止まる。


副長だけが、にこにこしたままコーヒーを飲んだ。


ジェレミーは表情を変えない。


「濃いコーヒーだった」


「そっか」


エルは納得した。


たぶん、半分くらい。


レトはそんなことより、プリンを一口すくってジェレミーに差し出した。


「お兄さん、はい! 元気でるやつ!」


ジェレミーはそれを食べた。


「甘いな」


「でしょ!」


レトが笑う。


ロジーが騒ぐ。


エルが観察する。


副長が薄く笑う。


職員たちは、いつも通りのゆるい顔に戻っていく。


その朝、箱庭の娘たちは何も知らなかった。


ジェレミーの反射神経が、敵の予測を置き去りにしたことも。


現実の宇宙で作り替えられた肉体が、硝子玉の宇宙の魔術師たちを殺したことも。


副長の隠密魔術が、敵の誇るスキャン網の隙間を縫ったことも。


上位職員たちが、人質救出の裏で敵組織の逃走先まで潰していたことも。


そして、監理局が必要なら、善意で動いた者たちでさえ容赦なく殺すことも。


知らなくていい。


知らないままでいい。


レトが「お兄さん」と呼ぶ男が、朝の食堂でプリンを食べる。


その光景を守るために、夜の監理局は黒い仕事を終わらせる。


血も。


銃声も。


死体も。


記録も。


すべて、朝が来る前に片付けられる。


それが、箱庭の娘たちには見せない惑星監理局だった。



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