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《暗躍》

 「ーーあれ? 樹君? …………何、珍しいね?」


 「まあな」


 「どうかした?」


 「…………どうかした。なあ? すぐーー」


 「……何?」



 「俺、さ。……………お前の“兄貴”、…………倒しちゃって構わないか?」



 「……………え? ……………どした」



 ×   ×   ×



 「ーーて、事なんだよ」


 「ーーまじか」


 「本気マジだ、なーー」





 「樹君怒らすとか、何やってんのあのひと(あの馬鹿兄貴は)」と、“佐木 直夏”は言ったのだった。




 ×   ×   ×



 時は少し遡り、タウンタウンで海が泣いた日だ。海お気に入りのアトラクションも、効果を為さなかった。敦之はもう、諦めていた。


 樹の方は何とか海が気分を回復してくれる様にと、何かしら言っていたが、其れも余り功を成さなかった。海はずっと、暗い顔で“大丈夫”と言い続けた。××××




 ーーーーーーーーーーーー



 “樹”は決意した。華月邸に行き、先ず陽藍に話を通した。それから佐木家を訪れ、隼人の父夏央とも話した。


 樹の決意は、固かった。隼人に勝負を挑む事に、決めたのだ。もう誰が何と云おうとだ。樹当人には“時間”も無いのだからだ。××××××××





 話再び戻って、いや進んでだ。樹と直夏の会話だ。


 直夏は樹の決意の報告を聞いて、驚きを示したのだ。




 ーーーーーーーーーーーーーー




 そういった理由で隼人が海を泣かせた週末だった。土曜の休日に隼人は兄に連れられ、“道場”にいたのだ。いや、やって来た所だ。兄からは“手合わせ”と聞いていた。いや聞いて来た。隼人の勘違いは“相手は兄では無い”と云う事だ。道場の略中央で待ち構えた男は、勿論樹だったのだ。××××




 「……………。樹?」


 隼人はそう言った。××××



  ーーーーーーーーーー




 「お早う、隼人君。見ての通り“手合わせ”を、挑みます。さ、準備して」と、


 樹は言ったのだ。樹は既に身支度を整え、待機していた。静かに流れる大気の中で、一部の様な佇まいだった。年齢的に中学の二年に為ったばかりである樹だったが、そのポテンシャルは、高い。空手に置いては隼人がやや優勢でも油断は為らず、事、合気道の手合わせに置いては隼人はかなりの劣勢だった。其れ以前に隼人は“稽古”嫌いだ。隼人の鍛錬とは、独り黙々と隠れて努めるものだった故に、隼人は此処最近の更なる樹の成長振り等は、知らなかった。××××××故に断わった。が、



 逆に“断られ”た。



 「ーー隼人。」


 兄からも苦言された。兄に頭上がらない隼人は仕方無しに樹の申し込みを受けたのだった。危機感から口の中が苦く感じた。其処に樹は条件を出して来たのだった。




 「ーー何?」


 余計苦い顔をした隼人はそう聞いた。樹は静かに言ったのだった。“海の事”ーーと。



 「ーーーー海が何」


 「“苛めるな”って言っても“する”でしょ? 隼人ハヤ君、無意識・無自覚だから。だから、約束して欲しいと思ってさ。ーー“海”に“関わらないで”くれるかな? 隼人君はーー、さ。 …………良いよね?


 そもそも海が如何で“在ろう(丶丶丶)”と、隼人君には“無関係(・・・)”でしょう? 放って置いてくれる?



 其れを俺と“約束”して欲しい。ーー勿論俺が負けたら、隼人君の“下僕”やります。ーー如何?」


 樹は至って真剣だった。××××





 暫く沈黙で考えた隼人は、兄、大和の視線で漸くの様に決意した様だ。小さく“分かった”と言った隼人の声が、二人にも聞こえた。そして、



 ××××××××××××××××




 云う迄も無いのか無論か樹の圧勝だった。樹は“流れ”を掴むのが、巧いのだ。隼人の速さにも負けていない。そして何より“眼”が良いのだ。“視えて”いるのだ。彼の周囲の“大気”の移り、が。其れに伴う身体能力を持ち得ている樹には、隼人の意外性の無い動きは、捉え易かった。勿論樹とて、誰も彼にでも勝てる訳では無い。苦手とする相手も存在するし、単純に、純粋為る“身体能力”の劣る相手には、苦戦もするし勿論負ける事は在る。だが今の所隼人に負けるビジョンは彼には浮かばなかった。隼人が弱い訳では無い。其の理由は隼人自身の中の“劣等感コンプレックス”だ。其れから“思い込み”でも在る。隼人自身“樹”の戦闘スタイルが“苦手”なのだ。此の意識的邪魔が、樹相手に隼人が弱く為る“要因”だった。樹との手合わせは、“苦手な物を食べろ”と言っている様なものだった。



 要は樹の方が“精神”が上なのだ。隼人が“繊細デリケート”過ぎるーーとも、言えたが。


 隼人はつまり、知り合いを相手に“真剣”に“勝てない(丶丶丶丶)”のだ。余計な感情が入り混じって邪魔をする。其れは無意識で有って詰まり無自覚だ。其れに気付き克服しなければ“自分が勝つだろう”と思った樹は、勿論油断もしなかった故の、勝利だった。根回しも済んだ。隼人が“約束”を違えば、勿論“手”も打って在った。




 隼人と“海”を、引き離すのだ。樹は既に“最悪のケース(場合として)”の想定で、準備も根回しも整えて来たのだ。其の位の覚悟で隼人に挑んだ。正直に言ってしまえば、隼人の方が歳の差の為も有り、体格的にも優勢だった。力任せでは勝てない事は明白で又、其の証拠と証明の様に、実は樹は兄敦之には勝てない。卓や龍等にも勿論勝利した事は無いのだが、実は数回“友”には勝った事が在る。“合気道”の、手合わせでだ。友はやや“力任せなところがある”と、彼の父等も言っていた。“良く視れば勝てるのに”と。



 つまり“うっかりさん”タイプだ。ーーと、樹は思った。そんな樹は初めて隼人と手合わせをした際に、隼人とは友のスタイル・スタンスと通ずるものが有るなと、感じたのだった。其れからずっと隼人には勝っている。ーー此れが隼人が“稽古(こそこそ)嫌い(鍛錬)と為る(する)発端だったのだが、樹自身は知らないのだ。



 まあ其れは“さておき”だ。




 隼人を倒した樹が帰宅すると、兄敦之が彼を案ずる様子で其処にたのだ。“無茶しやがって”と。





 「…………怪我したら如何するつもりだった…………浅はかだぞ」と。


 樹は答えた。



 「その為の“大和君(立会人)”だよ」と。敦之が返したのは、溜息だった。“本気なのか”と。






 「……………うん、取り敢えず“夏休み”利用して“行って来る(様子見て来る)”よ」と樹は答えた。




 「……………姉貴と紗綾サヤが、何て言うか…………だな」



 「……………其処は其れ。“お兄様”に、御力添えを、ば。お願い申し上げたく、ですね」と、樹は言ったのだった。




 更に苦い顔で敦之が言ったのは「…………海が泣くぞ」だった。樹は何も言えなかった。




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