《海の“お出掛け”》
「叔父さん、海の事、借りれる?」ーーと、言ったのは、敦之だった。
朝食の最中だった海は、きょとんとした。
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「ん?」
キッチンに居た陽藍は其れを聞き返した。“如何したんだ?”と、彼は其処から言った。敦之は身支度も整え、今直ぐにでも出掛けられそうだった。海の箸ーーいや“スプーン”は、止まったままだ。箸は一応練習中である。それはさておきだが。
「……………、敦兄ちゃん?」
漸く海が、そう言った。××××
「ああ、良いよ、ゆっくり食べてろ。別に急かせて無いから。食べたらちょっと出掛けないか? 樹も家で待機してる。 タウン・タウン辺りに、買い物がてら遊びにいこうぜ。新しい菓子屋とか見がてら、さ。な?」
海は“ぽけら”としてから、敦之へと聞いた。
「……………、連れてってくれるの?」と。敦之は薄く笑って、言った。
「叔父さんが許可くれれば」と。それで海は父を見たのであった。期待を込めて。不安も交ぜながらだが。××××
陽藍はキッチンから出ながら、“そうだな”……と、言った。
「“海”が行きたいなら……な。海、お父さんは行けないけど、“大丈夫”か?」そう言った。
海は“うん”と答えた。「 “大丈夫”っ 」と。頰を紅潮させながら。久々に明るい顔が見れたと、陽藍は自然と笑っていた。
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「海、先ず、何処行く?」
「……樹、海に聞くな。 大体行くとこなんて、決まってるだろ………」
タウン・タウンと云う“大型総合商業施設”にやって来た彼等は、そんな会話の遣り取りをしていた。××××
「…………“アイス”食べたい……。」
「“後で”な。おまえ朝飯済ましたばっかだろう………腹痛めるぞ。その前に少し“買い物”でもしようぜ」
「…………お菓子?」
「…………………海………………」
“樹”は呆れていた。××××××××××
× × ×
歩きながら、彼等は会話していた。
樹が言い出した。“兄貴、狡くないか”と。
「は?」
「樹兄ちゃん?」
「“海”、俺も“肩車”したい」
「馬鹿言うな。お前じゃ未だ安定感無いんだよ」
然し海は“こう”言った。
「樹兄ちゃん、敦兄ちゃんに“肩車”頼みたいの? ごめんね、敦兄ちゃん、僕降りるから」と。××××××××
勿論敦之は海の見当違いを訂正し、樹を肩車等、しなかったが。
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昼少し前、海は“パンケーキ”を、もぐもぐしていた。十時も過ぎたので敦之の判断で休憩を取っていたのだ。
イケメン兄弟と、其の横の可愛い従兄弟。休日の為もあってか、周囲人も多く、彼方此方から溜息が零れ落ちていた、光景で在った。敦之は気にしなかったが、樹はやや居心地が悪かった。
「おら、もうひとくち。チョコ美味いか?」と。何故なら“敦之”が海が食べ過ぎ無い様にと、切り分けて取り分けてやり、更に口に運んでやっていたのだ。海はとても満足そうだった。“うん”美味しいよと、頷いた。××××
樹は大分、居場所無かったが、だ。××××××××
「この“アイス”、美味しいね」
「だろ?」
「さっきのお店は“駄目”なの?」
「………向こうはあんまり“おまえ好み”じゃ、ないな」と。
「? 人気そうだったのに? 美味しくないの?」
と。
「いや、ちょっと“苦”い」
敦之の説明に海は成程と思い、敦之を“流石”と思ったのだ。海は敦之を“信頼”していた。“頼りになる”と、そう思っていた。
海はとても賢い。
海は敦之を頼りにするが、“隼人”には甘えない。何故なら隼人は“他人”だからだ。三歳にして海はその辺を良く理解しているのだ。良く“みている”とも言える。“観察力”だ。父や兄達の態度や様子からそういった“境界線”を、見極めるのだ。
其れが隼人の瞳には“異常”にも映り又、“海”の態度“そのもの”が、彼には気に入らないのだ。つまり隼人は海に、海が“敦之”に接する様に、自分にも“接して”欲しいのだ。
だから隼人は海を“子供らしく無い”と、結果“嫌う”のだ。
要するに隼人は“大人気無い”のだと、樹ですら気が付いていた。××××××××
海は、此処二ヶ月程。
つまり隼人が家出してしまい、暦ももう“六月”となり、その間に友や青や、更に敦之迄も。略全く隼人の事を口にしなく為ってしまい、心の底から彼を心配していたのだった。“大丈夫なのか?”と。
父も母も隼人の両親も、心配無いと海に伝えて来るが。聞いた話では隼人は兄の大和の処に転がり込んだらしい。大和の妻、紘は、海の従姉弟だ。実家に寄ると、海にも会いに来てくれる。隼人の話もしてくれる。学校にも“行かせているから、心配ないよ”と、教えてもくれる。
それでも海は心配だったのだ。
落ち込んで、兄の巧にも言われた。“海のせいじゃ無いだろ”と。それでも海は隼人の家出は自分のせいだと思ったのだ。「僕の配慮が、足りなかった」ーーせいだーーと。
樹は思った。『三歳児が“配慮”って知っている』ーーーーと。隼人に見習わせたかったが、逆効果かと直ぐ改めたのだった。××××××××
苦い顔で取り敢えず敦之は海の口の中にアイスを突っ込んで置いたのだった。ミルクアイスにメープルシロップが絶妙で美味しいね敦兄ちゃんと、従兄弟は言っていた。
「次は“パンケーキに載せ”て、お願いしたいです、敦兄ちゃん。」と、
海はほんの少しだけでも、元気づいた様子で。敦之達はやはり少しだけでも、ほっとしたのだった。
“連れ出して良かったな”と。××××××
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それはパンケーキ食べ終え、さて行くかと成った、その時だった。敦之は海の表情が強張ったのを見たのだ。
そして視線の先にいたのは、“隼人”だったのだ。××××××
「……………なにやってるんだ…」そう言ったのは、隼人の方だった。
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「……………パンケーキ…………」
海は戸惑いでそう言った。
敦之は隼人に背を向けた位置で。それで対処が遅れたのだ。それは言い訳だが。“油断”でもあった。結果、最悪だった。
「…………また“お前”は。敦之に“我儘”言ったのか。あ〜あ、“樹”まで連れ出したのかよ。海、あのなあ、そいつ等はお前の“家来”じゃ無えから、な? 都合良く振り回すなよ。 此の“我儘”小僧……たくっ」
遅かった。
其の言葉で“やはり自分は隼人に嫌われているのだ”と悟った海は、不意討ちに、反射的にだろう。ぼろぼろと涙を零して泣き出してしまったのだ。
敦之が言う前に隼人が言った。“又だよ”と。「泣けば済むと思ってやがるよ」と。海に“甘ちゃん”と言ったのだ。
隼人は忘れている。海は“三歳”だと。そう、海の優秀さ故に、其れは忘れがちになるのだ。
敦之の顔から、すっと表情が失せた。 隼人に向き合う。 其れは樹には止める間は無かった。
「隼人」
敦之はそう呼んだ。表情無いままで。隼人が其れを見た時には、手遅れだった。敦之はもう、そう言ったのだ。
「何も落ち度が無い海を、お前の物差しで測るな。俺の従兄弟が気に入らないなら、俺にそう言ったら如何だ?
此奴は未だ“三歳”なんだよ。お前三歳の時に、十以上、上の奴からそんな言葉言われたら、如何思うんだ?」
敦之は言葉を切って、もう一度言った。
「俺の従兄弟云々“以前”か。ーー此奴苛めて、子供“虐め”て、楽しいか? 隼人。お前“最悪”だぞ。
悪いが“友達”でいたく“無い”な、そんな最悪な奴と、な。はあ。行くぞ、海、ーー樹。海、“アトラクション”で遊ぼうぜ。 おまえ“好き”だろ。ほら」と。
言った敦之はもう隼人を見なかった。海を抱えて、歩き出していた。驚きの為か、涙止まった海を。躊躇った樹は一度隼人を見たが、声掛ける事無く、兄の背中を追ったのだった。




