28話 ヤヨイ、運命の時 1
【31日目】
「じゃあ行ってくるね」
早朝のダリアちゃんの家の前。
ダリアちゃん母娘とキャシーちゃんの見送る中、出発する。
「もう、私の馬車を使えばよろしいのに!」
「魔法で飛んでいくから、馬車より早いよ」
「そんな魔法がありますの?
今度見せてくださいな」
「わかったよ」
キャシーちゃんと軽くハグをする。
魔法じゃなくて速さと力でジャンプしてるだけだけど。
キャシーちゃんの母親ともハグをして。
最後にキャシーちゃんの前に立つ。
「ヤヨイちゃん……」
三つ編みをいじって俯き加減。
また泣き出しそうになってる。
笑って見送って欲しいな。
「ダリアちゃん、見て。
私にはお守りがあるから」
服の中から本を出して見せた。
ダリアちゃんからもらった大事な本。
「……うん!」
笑って頷いてくれたので、ハグをする。
振り返りながら村の外まで出るとジャンプ飛行を始める。
女神様から賜った、白のドレスワンピにアーマーを装着している。
ジャンプしながらキャシーちゃんにもらった地図を確認。
王都には夕方までには着きそうだ。
お腹が空いたので昼食にする。
ダリアちゃんのお手製サンドイッチのお弁当を草原に座って食べる。
アカニ村は随分遠くになったな、とか考えていると。
<周辺結界>の魔法に魔族反応!
気が付いた一瞬後、目の前に5つの黒い光が落ちて、その爆風に身体が飛ばされそうになるのを耐える。
舞い上がった砂煙がゆっくりと流れていったその後には。
小さな5つのクレーターの中に5人の幼女。
ただの幼女じゃない。
左から赤肌、紫肌、浅黒い肌、青肌、緑肌をして、いずれも際どく露出度の高い服を着ている。
魔族との戦闘はまだ先だと思い油断していた。
急いで<能力可視>の魔法をオンにして相手を確認する。
左から、
『名前:アメク
種族:魔族・四天王
種類:騎士
レベル:480』
『名前:ザービ
種族:魔族・四天王
種類:黒魔術師
レベル:440』
『名前:アンテ
種族:魔族
種類:魔王
レベル:610』
『名前:アルミ
種族:魔族・四天王
種類:シューター
レベル:380』
『名前:テルメ
種族:魔族・四天王
種類:灰魔術師
レベル:420』
――魔王直々のお出ましだった。
「やっと出てきおって!
お前が女神の使いか!?」
真ん中の浅黒肌の立派な2本の角を生やした幼女が叫ぶ。
「そうだ、私が勇者 ヤヨイ=アイリス!
女神メル様の命により魔王を討ちに……」
「――だったら今までどこに行ってたのじゃあ!」
魔王が地団駄を踏むと地面に縦横の裂け目が出来る。
「女神に不穏な動きがあるのは知ってた。
勇者をこの地に降ろした気配があったので警戒をしていたのに!
各地に配置した四天王を集めて、お前を迎え撃つ用意までしておったのに!!
いままで何をしておったのじゃっ!!」
盗賊を倒した後は色々な幼女と仲良くなってキャッキャウフフ……。
などと本当の事はいえるハズはなく。
「あ、すみません……」
とりあえず謝った。
魔王軍の侵攻が止まったのも私のせいなのねー。
「む、なかなか殊勝な奴じゃな」
「魔王様、油断しないで。
コヤツのステータスにノイズがかかって見れません。
能力を偽る魔法ですら我々を遥かに凌駕しています」
そう進言するのは、大きな蛮刀を背負う赤い幼女。
<能力偽装>の魔法は人と魔族では見え方が違うのかな。
……そうだ、<能力抑止>の魔法を切らないと。
私のカンスト能力を存分にぶつけてやる!
「うるさい、お前が偵察のサキュバス失踪を軽んじて、
報告しなかったからこうなったんじゃろう!」
「申し訳ございません」
「まあよい、サキュバスの消えたオキサー国を突いたら出て来おったからな。
ヤヨイとやら、ワシが魔王アンテじゃ。
お前がモタモタしていたから魔王直々に出向いてやったぞ、感謝しろ!」
「うん、それはご苦労様です。
それより皆さん女の子なんですか?」
「だって、この姿の方が小さくて敵の攻撃に当たりにくいじゃろ」
あれ、どこかで聞いたような理由だな。
まあいい。
「この姿」と言ったって事は本当はもっと恐ろしい姿をしているのか。
しかし律儀に声まで幼女なので……戦いづらい。
肌の色が普通じゃないとはいえ、全員美少女。
「しかし出向いて正解じゃったな。
仲間と合流する前に勇者一人を叩けるのは僥倖!」
「仲間? 私は一人で戦いに来たんだよ」
「くっ、すごい自信だな!
女神はとんでもないヤツを遣わしてきたか。
皆、気を引き締めて戦え!」
姿は幼女でも魔王は魔王。
正体はきっと醜い化け物、容赦はしない!
思念パネルからMP消費が最高の光魔法<神光降射>を選択。
光る両手を相手に向けると光の巨大な柱が魔王達を飲み込んだ。
激しい振動と轟音。
フハハハ、これで終わりだ!
……とか言うと無傷の魔王が土煙の中から現れて負けフラグになる。
実際、敵のHPは大きく減っていっているがゼロでは無い。
念には念を入れて何度も<神光降射>をかける。
さらに念を入れて最強の重力魔法もかける。
土煙が去った後には荒れた台地が広がり、何一つ残っていなかった。




