正しい脇役の勤め方
脇役が主役のために動き、傷つき、失い、得るものとは。私たちの失敗は誰かの成功のための踏み台になっていく。
脇役が脇役であるためにあり続けるために。作者の思い通りにことを進めるために日々苦悩し続ける本作の主人公は全力の脇役です。(何を言っているのでしょうか…)
3月5日 卒業式。
先輩たちの華やかな門出を祝い後輩たちは群がる。憧れの先輩。思い入れのある先輩。お世話になった先輩。この世界に来て2日の俺には知らない人たちでしかなかった。
「えっと…脇家くんだっけ?」教室の角で一人ポツンと窓から卒業生のお見送りをしている生徒たちを眺めていた脇家克巳に学級委員長の柴田が話しかけてきた。
「はい?」当たり障りなく返事を返し用件を聞こうとする。
「なんか転入してきてからすぐこんな大事な行事で大変だよね。知らない人たちの晴れ舞台は見てもなんとも思わないよね!」
柴田は少し焦っているように見えた。気を使っているんだろう。
「俺は慣れてるよ。ずっと知らない人たちの背中を支えてきたから」
とりあえずその場しのぎの言葉を考えとっつき難い人を演じる。学級委員長が側にいられると変にストーリーに巻き込まれる。それだけは避けなくてはならない。
柴田は不思議な顔をしてこっちを見るポニーテールにした長い髪が非常に映える。綺麗ではあるがそこまでストーリーに出てくるキャラクターではない。しかし次期生徒会候補者あなどれん。
「春休み入るまでにね入部届を書いて伊藤先生に出しておいて欲しいんだ。部活に入らないのであれば帰宅の欄にチェックをつけて提出してね。前の高校では何かしてた?」
こいつはどうしても話を続けないといけないというシナリオでもあるのか…。結構話辛い人を演じたのだが…。
「別に。」
とりあえずこの最強の日本語を使い離れていくことを願う。
「そ、そうなんだ。でも脇家くん痩せてるから運動とかしてるんだと思った。陸上とか興味ないの?」
勧誘ダァァ!!!こいつ陸上部の勧誘のために卒業生の見送りを蹴ってまで俺の所にきやがった。こいつ綺麗な顔して悪どい!これから新入生が来るというのにまさかの編入生を先取りしようとしやがった。
「お、おう。俺足遅いけどな」
「走るだけじゃないんだよ!飛んだりできるし、投げたりできるよ!」
あぁ、この子彼氏できないタイプの子だ。空気読む気ない。教室にちらほら生徒が帰ってくる。
「じゃあ、入部届よろしくね!」
はい。と返事をして学級委員長は自席に戻った。さて、今回のシナリオの主人公は春休み後のクラス替えで俺とはクラスが変わる。その前にヒロインに興味を持たれる人物にしないといけないのだが、実は一人ポツンと外を見ていたのは別に知らない卒業生を見ていたわけではない。ずっと誰かと話をするわけでもないこの世界の主人公を見ていた。彼は文学部に所属する小説家を夢見る男の子なのだが…。冴えなさすぎるのもそうだがそもそもガタイもラブコメの主人公に出てくるような華奢なものではない。そう兵藤昇は非常に体格が太やかなのだ。
シナリオ通りの主人公の体格にするには少々時間がかかりそうであるためストーリーの始まる一ヶ月前に飛ばされた。そうこの世界でまずしなければならないのはこの主人公のダイエット計画である。
まず主人公と話をしなければならないが近づきすぎると今後のストーリーに俺が出てきてしまう。彼が興味があり、なおかつ俺がメインで教えず、記憶にさほど残らない方法。
都合の良い条件であることはわかっているがそれでもやらなければならない。このシナリオに書かれたストーリーは絶対。それに従えなければ世界は崩壊。俺の仕事はこのストーリーを波に乗せること。すなわち脇役を全力で勤めなければならない。
本人は痩せる気があるのか、そもそも太りやすい体質なのかいろんなことを考えなければならない。元から太っている人を痩せさせるのは一ヶ月では流石にできない。とりあえず彼をこの2日間調べた結果太り始めたのは中学1年生からでありそれまではだいぶ痩せている方だった。ただその前から運動もできていない。彼は足があまり良くないのだ。兵藤昇は小学2年生の頃交通事故に遭い足があまりよくない。走ることなどはできるが長時間はできない。もともとサッカーをしていたが激しい運動は難しく今でもたまに震えたりするようだ。
脇家克巳は肩を撫で下ろした。足が悪くて激しい運動ができないのであればどうやって兵藤を痩せさせればいいんだ…。
脇役の苦悩は続く。




