無骨な
話が脱線してばっかりだ、
俺はアキイシ伯爵から、中央の城へ行って証言をして欲しいと要請された。
ある程度濁した説明ではあったが、要は急がないと綾杉が身籠ってしまって、勇者保護法違反で潰せなくなる可能性があると言うのだ。
出来る事なら、綾杉を引き離せれば良いのだが、レフト伯爵は勇者綾杉の正式な支援者であり、勝手に引き離すと、逆に此方が勇者保護法に引っ掛かるので、それは出来なかった。
予想ではあるのだが、アキイシ伯爵がレフト伯爵を公衆の面前で殴ったり、ラティに髪を引き抜かさせたのは、勇者綾杉がレフト伯爵に愛想を尽かすのを狙った、パフォーマンスだったのかもしれない。
普通なら、ああ言った話は室内で行うだろうから。
だが俺は、その証言を自分の身の安全の為に断った。
それなのに――
「だから、ワシはお前さんに槍を贈りたいのじゃよ」
「へ? なんでいきなり‥」
「まぁそう警戒するな、これで懐柔しようという訳じゃない、ちと一つだけ要求を聞いてくれれば良いだけじゃよ」
「おい、やっぱ下心あるんじゃねえか‥」
――何を要求するつもりだ?
考えられるのは証言だよな‥それ以外は‥
っまさか!? ラティの【心感】か!?
「芝居に使わせて欲しいんじゃ、」
「ラティの心か‥‥へ?」
「だから芝居の話で、ワシが槍を贈ったっていうエピソードを付け足したいのじゃよ、それに一ファンとしても、純粋に贈りたいのだ」
アキイシ伯爵は俺に槍を贈り、それを芝居の話として使いたいと。
人気のあるお芝居、”狼人売りの奴隷商”の続編になるかもしれない、”狼人奴隷と主の恋”なるモノに使わせて欲しいと言って来た。
「どうじゃ? 悪い話ではなかろう、それにワシにも利があるしの、上手くイケば良い人気取りにもなるわい」
「それ言っちゃうんだ‥でも、それならイイかな」
「付いて来るが良い、アキイシ家のコレクションを見せてやるぞ」
「ああ」
いつもの癖で、肩に付けている髪飾りの付加魔法品を確認するが、寝間着だった為、付加魔法品は付けておらず、若干の不安はあるが素直に付いて行く。
案内された場所は屋敷の本宅の裏側、元の世界でいうところの土蔵のような建物の前に連れて来られる。
「ここが?」
「ああ、そうじゃ。ほれ周りには何も無いから、ここに近寄る者がおればすぐに気付けるのじゃよ、勿論、ワシ以外が近寄ったら即捕まるがな」
アキイシ伯爵はそう言って辺りに目を向ける。
「なるほどね」
分かり易く、見張り役だと思わしき者達が、建物の四方に配置されていた。
「自慢のコレクションだからの、これぐらいはしておかんと」
「で、そんな大切な物を俺に? 本当にイイんですか? そのタダで‥」
「条件はさっき言っただろう、それで十分じゃよ」
そう言って建物の扉の前に立ち、アキイシ伯爵は――
「開けゴマ!」
「へ?」
その言葉に反応するようにして、目の前の扉が開いた。
「どうじゃ? 歴代勇者様が残した秘密の合言葉じゃ」
「また馬鹿共の悪ふざけか‥」
こうして中に入った土蔵?の屋内は、一目で良い物だと判る武器で溢れかえっていた。とても実践向きとは思えない派手な装飾の大剣や、刀身が透き通る刃の剣など、いかにも希少品を収集しました、といった感じである。
「すげぇな‥」
「どうじゃ? 驚いたであろう、このワシの”ハウス・オブ・バビロン”は!」
( 絶対に、馬鹿共が関わってるな‥ )
それから暫くの間、アキイシ伯爵の武器自慢が続いたが、俺が少し苛立って来たのを察して、贈りたいと言っていた槍を持って来る。
「この槍なんじゃが、4代目勇者様が作ったといわれる一品でな、東に保管されている聖剣と対なす槍じゃよ、まぁ製作者は違うのだがな」
そしてまたしても、アキイシ伯爵の武器自慢が始まる。
この槍は4代目勇者が作った槍であり、アキイシ伯爵が言うには、4代目勇者達は、半数近くが武器の製造を行っていたらしい。
そして、その中でも傑作品とされていたのが、椎名の持っていた聖剣。
本来であればこの槍は、自分の支援している勇者に渡すべき武器なのだろうが、アキイシ伯爵が支援している勇者は、鉄壁の二つ名で呼ばれている小山清十郎。しかし小山は槍の適正は持っていなかったはずであり。
――なるほど、
それでこの槍は出番が無く、この土蔵に眠ったままか、
「どうじゃ? 良い槍であろう、銘は神龍槍ゲイボグニールじゃ」
「混ぜんなよ‥」
( マジで馬鹿なの歴代は‥ )
アキイシ伯爵に手渡された槍は、青色に黒と赤がマーブル模様のように巻き付いたファッショナブルな色合い。そして手に持った感触はとても軽く、刃の形状も突き刺す事の特化した形。
どちらかというと、投げ槍。
自分の戦闘スタイルとは、明らかに合わないタイプの槍だった。それと――
「これ、色のセンス悪すぎだろ‥」
「う、痛い所を突くのう、その通りじゃ、他の勇者様もその色合いから避けたらしい」
一応、良い槍であるらしいのだが、自分には合わないと思い、他に別の槍はないのかと辺りを見渡すと、一か所だけ違和感を感じさせる場所があった。
それはまるで煌びやかな舞踏会に、華やかさの欠片も無い傭兵が一人紛れ込んでいる、そんな印象を抱かせる違和感。
そしてその違和感の正体は、とても無骨な槍。
過剰とも思える装飾を凝らした武器の中に、ポツンと横に掛けられた一本の槍。
長さは2メートルちょっと、材質は分らないがくすんだ灰色の柄、そして柄の色よりももっと暗い色をした、横幅が手の平2枚分ほどありそうな肉厚な刃。
完全に、敵を倒すことのみを考えた無骨な槍。
見た目など一切気にしない、そんな槍が紛れ込んでいたのだ。
「む、その槍か‥」
俺がその槍に魅入られているのに気付いたのか、アキイシ伯爵がその槍の説明を始める。
「その槍は、さっきも言った聖剣とこの槍を作った4代目達の作品だ」
「だから、ここにあるのか‥」
きっと勇者作でなかったら、此処に置かれていなかったであろう無骨な槍。
「ああ、見た目に華が無いが、一応勇者様の作品だからな」
「これが欲しい」
「むう?」
声が出ていた。
俺は思わずこれが欲しいと言ってしまっていた。本来であればもうちょっと言い方があったはずだが、俺はこの槍が気になってしまっていた。
槍の形状から、自分の戦闘スタイルに合いそうなのもそうだが、この煌びやかで華やかな中に、ポツンと紛れている槍に、俺は自分を重ねていた。
まるでそれは、希望の星として輝いている勇者達に紛れてしまった、ゆうしゃの自分のように感じて。
「おいおい、お前さんそれで本当に良いのか? それには特殊効果とか付加されていないぞ? ただ頑丈さだけが売りのような槍だぞ?」
「ますます気に入った」
『まぁ付加魔法品で、その辺りは何とかなるか』っと呟きながらアキイシ伯爵は、その無骨な槍を俺に手渡す。
しっかりとした重み、そして柄の太さと長さ、その全てが何故かしっくりときた。まるで長年使い慣れたような感覚、俺は一発でこの槍を気に入ったのだった。
因みに、最初に渡された奇抜な色合いの槍の付加は、突撃強化・命中率上昇・追加効果毒・対竜効果などであった。
勿論、それは返した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は槍を受け取り、アキイシ伯爵と共に土蔵から外へ出る。
「さてと、これで用事は全部済んだのう」
「あ、ありがとう御座います。槍を貰っちゃって‥」
「それなりの見返りもあるしの、お前さんのファンとしては当然の事じゃよ」
ニカっと野性味のある笑みを浮かべ、俺に気にするなと言ってくれるアキイシ伯爵。そして次に、先程とは違う、ニヤリとした悪そうな笑みを浮かべ。
「どうじゃ、もう歩けるならワシにちと付き合わんか?」
「っう、その顔からして嫌な予感しかしないのですけど‥」
「がっはっは、何を言うか、良い場所へ連れて行ってやろうと言うのじゃよ」
「良い場所って、さっきの土蔵以外に?」
「お前さんは何を言っておるんだ、西で良い場所と言えばアレじゃろうが」
「――ッ!? まさか‥」
「さすがにゼピュロスの街みたいに兎人は多くないが、こっちにはエルフが多いぞ? だからワシと下りにいかんか?」
「エルフ‥」
――ああ、そうだった、
エルフの村には行ったけど、野郎ばっかりだったな、
でも此処には女性のエルフが‥‥
俺は女性エルフに少なからず興味はあった。
ファンタジーの定番エルフ。俺はこの異世界で野郎のエルフは見たことはあるが、女性のエルフは今まで見たことがなかった。
美形しかいないといわれるエルフ、男としてはやはり興味はある。
「エルフはいいぞ~、ちと線が細くて感触的には物足りんが、見た目はピカイチじゃからのう。昔、南の領主がドはまりしてな、よくお忍びで来ておったわい」
『ワシがよく案内してやったんじゃ』っとドヤ顔で語るエロジジイ。
そしてこれは是非行きたいと思った瞬間、俺はある事に気付く。
――駄目だこれ!
そうだったんだ、これは間違いなくラティに察知されるんだ、
あ、でも‥これならラティを誘き寄せられるかもしれないのか‥
俺は逃げたラティと会う為に、階段へ向かう事を決めた。
そう、ラティと会う為に‥‥
「行きましょうエルフに会いにっ」
「なんだか、昔のノトスみたいだなお前さん」
俺は再び冒険に出るのであった。
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