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もう無理

短め~

 ノトスの街とは、比べ物にならないほど整った街並み。

 月(時計)に目を向けると、針の示す時間は18時。


 いま俺は、アキイシ伯爵と二人で街の中を歩いていた。

 服装は地味な色の物に着替え、アキイシ伯爵も一般人を装った格好をしている。ただ、顔バレしている為か、すれ違う人達が此方を振り返っている気配を感じた。




 あれからラティとは会えていない。

 一応サリオから、用事があっていま来れないっと伝言だけは貰っていた。

 食事も何処か別の場所で取っている様子。


 彼女はアキイシ伯爵の屋敷にはちゃんといる様子であり、俺以外の人はラティを目撃しているようだった。


 だが俺の視界には全く入ってこない。




 そして俺は例の作戦を実行すべく、アキイシ伯爵と階段へ向かう。

 階段にまで向かう間、しっかりと整備された石畳の道を歩きながら、俺はアキイシ伯爵に昔話を聞かされていた。


 その内容は、いま通っているこの道を、その昔、ノトス領主とも歩き、そして階段まで冒険に行ったという話であった。


 ノトスの領主、アムさんの父親は、一時エルフにハマってよく通ったのだという。西よりも栄えていない南では、エルフを扱う階段の下は極端に少なく、見目麗しいのは稼げる西ばかりだったと。


 最終的には、ノトスの公務が疎かになり、身請けのように一人のエルフをノトスへ移籍する形で落ち着いたと言うのだ。


 そしてその一件以来、ノトスの領主はアキイシ家には強く出れなくなってしまったと、そう自慢げにアキイシ伯爵は語った。


「お! そうじゃ、あの時の借りを返して貰う意味で、お前さんを要求しようかのぅ、確かノトスで雇われておるんじゃよな?」

「残念ですね、息子の方のアムドゥシアスに雇われているんですよ」


「っく、あのヤンチャな次男の方か、あの小僧め、昔から抜け目の無い奴だったからのう、必要な仲間はしっかりと掴んでおるわい」

「アムさんを知っているんだ‥」


 ――あ~~確かにそんな印象あるな、

 兄貴を暗殺する時も、しっかりと味方を集めてたし、

 付加魔法品《アクセサリー》職人のららんさん、冒険者でもスペさんミズチさん‥

 


 思い出すようにしてアムさんを再評価しつつ、俺は後ろを気にしていた。

 距離にして約100メートル、普通の人では気付けないだろうが俺には分かる、遥か後方で俺達を付けている地味なローブ姿がラティだと。


 重心のブレを一切感じさせない歩み、凛とした背筋に隙を感じさせない所作。姿勢が良いの一言では言い表せない歩き姿。

 あれは絶対にラティであると確信する。


「ラティ、やっぱ追って来たか」

「うん? どうしたんじゃ?」


「いや、何でもないです」

 



 俺はラティの追跡を知りつつ、堂々と階段まで向かう。

 アキイシの街の階段がある場所は、水上都市(ゼピュロス)と同じで、一直線の広い道に密集しており、直線の入り口側が安い店で、中央側が高級階段だとアキイシ伯爵が教えてくれた。


「それでの、今日は真ん中(高級階段)に行こうと思うんじゃが、それで良いか?」

「お任せします」 



 

 そして階段通りに入ってからは、少々際どい服装の女性が増えて来ており、中央側の階段付近で俺は初めてエルフの女性を目にする。

 背はスラッと高く顔は小さめ、長い耳がより目立つシルエット。

 身体の線が細い為、出るところは出ているように見えるのだが、やはりボリューム感は無さそうな身体つき。しかし、それを補ってもあまりある秀逸な容姿。


 清楚、というより神秘的。

 妖艶、ではなく触れがたい高嶺の花。

 一言で言うならば、『本当にイイのですか?』っと正座しながら尋ねてしまいかねない容姿であった。


 男であれば誰もがクラッとくるであろう、だが俺は今、それよりも後ろが気になっていた。お目当ての階段に一歩近づくごとに強く感じるモノ。


 それは背中に突き刺さる視線などではなく、もっと芯の方に流れ込んで来るモノ。

 俺はその流れ込んで来るモノを感じながら、もう自覚しようと思った。これは決して気のせいではないと、もう間違いないと自覚する。


 ――もう無理だっ、

 もう認めるしかないな、  



 俺の中に、ラティの感情が流れて来ていると。


 思い起こせば、そのような予兆はあった。

 聞こえるはずの無いラティの声が聞こえたり。ラティがどんな決断をするのか、口から言葉を聞かなくても答えが分かる時があった。


 【蒼狼】(フェンリル)の中にある効果の一つかもしれない、それとも狼人の尻尾が成せる不思議なモノなのかもしれない。


 今、俺の中に。

 焦燥、不安、後悔、戸惑い、そして悲しい気持ちが激しく流れ込んで来ていた。

 それら全てを纏めて、そこから感じ取れるのは、”行かないで欲しい”という願い。



「ふ~~、っはぁ~~」


 深い深呼吸を一つ。

 そして心の中で血の涙を垂れ流し、俺は嘘をつく。


「アキイシさん、スイマセンちょっと急用を思い出しました」

「むん? 今すぐにいかんといけないのか?」


「はい、一秒でも早く行ってやりたくて‥」

「ほう、あれを目の前にしても、行かねばならん要件か」


「はい、ではっ」



 アキイシ伯爵は、目の前のエルフがいる階段を目で示したが、俺はそれを断り、いま来た道を駆けて戻る。




 俺が引き返した瞬間に霧散する、ラティからの不安な思い。そして心の揺れを抑えたのか、ラティから流れてくるモノはなくなっていた。


 走って来る俺に、立ち竦みながら待つラティ。どうやら逃げる気は無さそうであり、走って来る俺をじっと無表情で見つめている。


 

「ラティ」


 俺はラティの目の前まで行き、彼女の名前を呼ぶ。

 余程の鈍感でない限り気付く。彼女が何故俺から逃げ回っていたのかを。

 何故俺にキスをしたかという真意は分からない、だが彼女は俺が寝ていると思って、俺の唇を食んだのだろう。そして俺が起きていた事を知り、キスの理由を聞こうとしていた俺から逃げたのだと。


 きっと疑問の感情に染まりきった俺の心を、【心感】で察知し、そしてその疑問に答えたくなかったのだろう。


 

 でも俺は、それはそれで満足していた。

 俺に聞かれたくないという事は、きっと悪い事ではないのだろうと、もしどうでも良い理由であれば、きっとラティはそれを俺に話しているはずだから。


 俺はラティのその反応で満足した。



 そして俺は、ラティの着ているローブの中へと手を伸ばす。

 

「戻ろうラティ」

「あの‥はい、ご主人様」



 俺はラティのローブの中に手を入れて、彼女の尻尾を撫でたのだ。

 ラティも俺が何をしようとしていのか察して、そのまま動かずにいてくれた。彼女であれば、俺が手を伸ばした時点で避けることなど容易なはずだが、寧ろ腰を捻り尻尾を差し出してくれていた。


 言葉では伝わり切らないと思い、俺は尻尾を撫でて己の心を晒し、何も聞かないと心の中で彼女に告げたのだ。



 そして俺の心に納得したラティと一緒に屋敷へと戻った。

 

 

 


  


          閑話休題(尻尾が万能過ぎるっ)


 





「がぉーーん! やっと帰ってきたよですよです」

「サリオ、まだ起きてたのか」

「サリオさん、スイマセン伝言などお願いしてしまって」


 アキイシの屋敷に戻った俺達を、サリオは大袈裟に喜んでくれた。

 きっとサリオにしてみれば、あのラティの行動はとても心配だったのだろう。はしゃぎながらラティのお腹辺りに顔を埋めている。


 ラティもサリオの大袈裟な行動には驚き、そしてサリオの頭の後ろに手を回してそっと抱え込み、優しく言葉を落とす。


「あの、申し訳ありませんでしたサリオさん。私事でご心配をおかけしてしまって」




 その後、がぉーんと叫びながらサリオは、小一時間ほどラティを占拠し続けた。

 

 そしてサリオから解放されたラティを、今度は俺が約2時間ほど耳と尻尾を撫でまわし占領し続けた。もしかすると、先程のも含めて、安らぎ以外を目的に撫でたのは今回が初めてかも知れなかった。




 そんなこんなあった二日後、俺達はノトスへの帰路に着いた。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想やご質問など頂けましたら嬉しいです


誤字脱字なども、出来ましたら‥



待ってください! あと127話ほど進めばきっと、ラティの心境を語る機会が来ると思うのでっ



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