前篇
「ちょっと、その勇者は空きがないんだよねぇ・・・。」
髪をオールバックにまとめた男が、手元の資料をめくりながら言った。
ついさっき、将樹はこの目の前の男に、「1年間、好きなものにしてあげよう」と持ちかけられたのだ。おなかが減って力が出ない彼に、うまい棒をあげたお礼だった。
「何でもいいぞ、これを機会に夢を叶えてみないかい?」
いきなりそんな馬鹿なことを真面目に言い出すからには、この男、本当にすごい神様なのかもしれない。昔話とかで、ワザと汚い格好して人を試す神様の話って聞くし。
それなら、異世界で魔王を倒すかっこいい勇者なんか面白そうじゃないか?(丁度、今そんなゲームやっているんだ)なーんて、ダメもとで希望してみたのだけど・・・。
「・・・じゃぁ、魔王は倒さなくてもいいや・・・。そうだ、戦隊物とか、変身ヒーローとか、ないの?」
「ちょっと、そっち系も。」
「じゃぁ、超能力者、海賊・・・ダメェ?魔法使い、格闘家、天使、死神、宇宙人・・・なんだよ、何でもいいって言ったじゃなんか。」
上げるもの片端から首を振る男に、将樹はついに怒った。
「言ったけれども。結構人気があるものばかりじゃないか。そういうのは希望者が多い上に枠が少ないから、30年待ちよ、30年待ち。そうじゃなくてさ、ケーキ屋さんになりたい、とか、現実味のある願い事ないの?将来の予約も受付けてるぜ?」
「そういうのは自分で叶えんの。自力じゃ無理なのを頼まないとソンだろ。ねー、なんかないの?」
「なんかと言われても・・・ないよ・・・最近の小学生はしっかりしてるね、まったく・・・。」
果たして、ここまでで「ない」という言葉を何回使ったであろうか?
大体、「枠がない」だの「空きがない」だの夢のない話だ・・・コイツ、実は単なるオジサンなんじゃないか?
疑いの眼差しに気付いたのか、男が仕方なさそうに言った。
「人系以外なら、勇者の枠あるんだけど。」
「人系、以外?」
人系以外とはなんだろう?よくゲームで出てくる、獣顔のキャラみたいなのかな?それともケンタウロス?ハーピーとか・・・?
「もちろん人間じゃないからさ、必要に応じて変身して戦う感じ?まぁ、めったにそんなこと無いんだけど。それでもいいなら、できるよ、勇者。」
実の所、もう浮世離れしたものは止めて、おとなしく億万長者あたりにしようと思っていたけれど、できると言われちゃそっちに気が移る。それに戦いモノは何だかんだでかっこいいし、一度は体験してみたい!
「んじゃ、それで。」
・・・と答えるか早いか、男は将樹の目の前でバチンと手を合わせた。
……。
「これでキミは勇者だ、おめでとう!!」
「・・・いや、おめでとうって、何も変わってないじゃん!なんだよ期待させといてー!」
「キミを必要とするものが現れたら、変身して戦う。今はいないんだろう、そのうち現れるよ。じゃぁ、1年間、楽しんでくれ。」
そういうと・・・男は、消えた。
・・・。
そういえば家に帰る途中だった。
ずいぶん長いこと立ち話をしていた気がしたけれど、さっき向こうから歩いてきた人とまだすれ違っていない事を考えると、そんなに時間は経っていないのかもしれない。
将樹はもう一度、男が立っていた場所を目を凝らせて見つめた。
なんもない。…なんだろう、起きたまま夢でも見てたのかな?
将樹は、今日は書き取りの宿題があることを思い出して、さっさと家に帰ることにした。
普通にご飯を食べて、風呂に入り、TVを見ている時に、宿題を思い出してあわてて済ませ、そうして布団に入るころには、今日会った不審人物のことはすっかり忘れていた。
今日も一日疲れた。明日の給食はなんだったっけ…
ゆっくりと気持ちのよい眠気がやってくる…
『勇者殿…勇者殿…』
ふいに、やけに重々しい声が耳に飛び込んできた。
「…ん、なんだ…むにゃ…。」
『勇者殿…起きてください、勇者殿…。』
うるさい。寝ぼけ眼で部屋の電気をつけても、声の主は見えない。
「…おい、誰だよ。」
『そのままでは、我らが判らないでしょう、変身してください。顔の前でバチーンって。』
バチーン?
将樹は、とりあえず顔の前で手を打った。
すると、みるみる視界が低くなって、そうして座っていたベットがぐんぐん大きくなり、布団がものすごい質量で体をつつんでくる。
動きにくい体をくねらせながら、どうやら布の海を脱出し、さきほどからの声の主の前まで到達…
「おお、勇者殿。お分かりになりますか?私、カンダと申します。」
将樹の時間が止まった。
だって、そこにいたのは…自分の筆入れだったのだから!!!!
えええ?!しゃべっとるぞ、コイツ!…え?ってことは…?
おそるおそる自分の体を確かめると…割と丈夫そうな、引き締まりかつ弾力性のある体、青いストライプが決まった服、そしてどこまでも角ばった…顔……?
―人系以外なら勇者枠あるよ。―
「生き物ですらねーじゃねーかー!!!!あのデコおやじ!」
「ともかく勇者殿。お助け下さい、我らが仲間ボルンが凶暴な人間に食われようとしています。」
将樹の混乱などお構いなしに、カンダが嘆願してくる。というか、人間に食われる?今ひとつ事態が飲み込めていない彼を、カンダはひっぱって隣の部屋へと連れ出した。
お読みくださりありがとうございます。
こんな感じでまったり進んでいきます。
後編へ続く!




