第一話【初恋?】
「はぁ……」
あれ以来、窓からの景都さんしか見ていない。
それがいつも通りなのに、何か寂しい。
急に存在を近くで感じてしまったから。
これって、恋とか? ――分からない。
「初恋もまだだし……」
「マジで!?」
うっかり言葉にしてしまった。
一緒に下校する数人が、信じられないとばかりに私を見る。
「高二にもなってあんた……」
「いいじゃん別に……」
まだなものは、まだなんだもん。
「恋ぐらいしなよ」
別れ際、そんな捨て台詞まで吐かれてしまった。
私だって恋したい。
恋愛してみたいよ。
でも、私はそこら辺にゴロゴロ転がってる様な普通の女。
顔も普通で、性格も特に良いと言う所はない。
好きになって貰ったこともなければ、好きになったこともない。
みんなが言う様なドキドキは、感じたことなかった。
ただ、景都さんの前で高鳴ったあの鼓動。
私は恋のドキドキを知らないから、本当にまだ分からないけれど、予感がする。
でも、そんな急に恋に落ちることなんてある?
……急ではないか。
恋、なのかなぁ。
「うぅ…考え過ぎて頭こんがらかってきた」
うんうん唸って歩く私に、笑い声が降り注ぐ。
聞き慣れた声。
ビックリして見上げると、やっぱり窓に景都さん。
「エナちゃんてば凄い顔!」
「え……やだ!」
そんなに笑うなんて、私そんな酷い顔してたの!?
私は恥ずかしくて赤くなった顔を、隠す様に手で覆った。
やっぱり、ドキドキしてる。
心臓が馬鹿になりそうな程跳ねて。
これが、恋…?
「エナちゃん明日学校休みだよね?」
突然の問いかけに、私は思わず上を向く。
まだ顔が赤いかもしれないのに、そんなことも忘れて、景都さんを見た。
「休みです……」
浮かされた様に、答えた。
すると景都さんは、眩しいくらいの笑顔を見せて。
「明日ちょっと付き合って」
そう語尾にハートマークが付きそうな口調で言うもんだから。
更に赤くなった顔を、私は縦に振った。
「お昼頃うちに来てくれる?」
景都さんの家……。
招待されてしまった。
ドキドキが、うるさい。
ああ、きっとこれが恋なんだ……。
「わ、分かりました!」
それだけ言って、私はその場を走り去る。
だって、恋だって自覚したら、信じられないくらい恥ずかしくなって。
茹で蛸な私を、景都さんに見られたくなかったから。
「明日……景都さんの家に……」
その日は、よく眠れなかった。