第二話【失恋!?】
凄く気に入って買ったピンクのワンピース。
厚手の生地の裾に、白いレース、そのレースには、小振りなリボンがあちこちに結ばれている。
ホットカーラーで髪にウェーブを作って、白のジャケットを羽織り、私は家を出る。
いつもの通学路。
でも、いつもと違って薔薇色に見えた。
もうすぐ、景都さんのマンション。
ドキドキする胸に手をあてて、深呼吸して前に進む。
マンションが目に入ると、下に景都さんが立ってるのが見えた。
「あ……っ」
二回目だ。
窓からじゃない、景都さん。
私に気付いて手を振ってる。
私は嬉しくて、景都さんの元へ駆け寄った。
「こ、こんにちは……」
「こんにちは。わぁ、今日凄く可愛いね」
「う……ありがとう、ございます……」
満面の笑みで、可愛いとか言われて。
顔に血が逆流しそうになるのを、グッと堪えた。
だって、また赤くなって恥ずかしがったりしたら、景都さんとちゃんとお話し、出来ないし。
今日は、頑張るって決めたんだから。
「どうぞ。上がって」
「あ、お邪魔します」
でも、今日、何をするんだろう?
ちょっと付き合って、としか言われてないし。
もしかして……なんて馬鹿な期待はしない様に、用意されたスリッパを履いた。
室内は、凄く綺麗に片付けられていて。
思わずキョロキョロと見渡してしまう。
部屋中、この前微かに香った景都さんの匂いが支配していて。
知らず知らずのうちに、顔が綻んだ。
「どうぞ座って」
「え! あ、はい……!」
キッチンで紅茶を入れてくれていた景都さん。
後ろから声をかけられたから、ニヤケた顔を見られなくて良かった……。
ホッと胸を撫で下ろし、リビングにあるソファーに座った。
カチャっと私の目の前にティーカップを置き、景都さんも私と対面する様に腰を下ろした。
景都さんは、コーヒーを飲んでるみたい。
伏せた瞳に、長い睫が映えて。
私は、食い入る様に見つめてた。
「……エナちゃん」
「はいぃ!?」
バレた!? 見てたのバレたの!?
一人パニックになり、挙動不審になる私の手を、突然、景都さんが握り締める。
ドクンと、心臓が跳ねた。
「景都さ……」
「お願いがあるんだ」
「……お願い?」
ちょっと、ガッカリ。
手、握られて、やっぱり馬鹿な期待しちゃって。
そのガッカリを振り払い、私は景都さんを見る。
不意に、真剣な眼差しとぶつかった。
「お願いって……何ですか……?」
「……脱いで欲しい」
…………。
はい? 私、耳がおかしくなったのかしら。
「ちょ……ちょっと聞こえなかったみたい」
「脱いで欲しいんだ」
――……。
脱いで……欲しいとは? 脱いで……脱い……。
「はい!?」
「ごめんね! でも、一生のお願い!」
両手を合わせて拝まれて。
そんなことされても、いきなり脱いでくれって言われてもワケ分かんないよぉ!
「あの、何で……」
クラクラと目眩を起こす頭を庇い、私は額に手をあてる。
そんな私を見て、景都さんはポツリポツリと語り始めた。
「コンクールが近づいてて……。被写体をずっと探してたんだけど……」
話しながら、景都さんは本当に申し訳なさそうな視線を私に向ける。
追い詰められている様にも感じられた。
「構想は固まってるんだ。その絵にピッタリなモデルは、エナちゃんしかいなくて……」
どんな形であれ、私は、好きになった人から求められてる。
応えてあげたい。
でも……。
でも! ヌードなんでしょお!?
「コ、コンクールに出す絵なんですから、私なんかやめた方が…」
「君じゃなきゃ駄目なんだ! 三ヶ月前、初めて君を見た時から、この絵の構想を練ってたんだ!」
少し、驚いた。
いつも太陽みたいな可愛い笑顔の景都さんが、眉間に皺を寄せて、こんなに真剣に声を張り上げて。
「頭の中のイメージは、君なんだ……」
「でも、裸を男性に……なんて……」
いくら好きな人でも、いきなり裸を見せるなんて、流石に出来ないよ……。
「――エナちゃん、大丈夫だよ」
「……え?」
顔を上げると、景都さんは何故かニッコリと微笑んでいた。
「私、女の子には興味ないから」
ニコニコ笑いながら、景都さんが発した言葉。
耳を疑った。
脱いでくれって言われた時よりも。
私の頬を、冷や汗が伝う。
「そ……それってつまり……」
「うん、ゲイなのよ私ぃ」
「げ!?」
ゲイ……?
私が好きになった人は……ゲイ!!
「嘘ぉ!!」
「ほんとぉ」
全く曇りのない笑顔。
本当なの? 本当に頭痛くなって、目が回って。
思考が、纏まらない。
「心は女だから、心配することないの。だから……お願い」
そっ、そんな女みたいな色仕掛けを! ああ、でも、もうどうでもいいやぁ……。
「分かりました……」
「きゃー!! エナちゃんありがとう!」
抱きつかれて、ぎゅうってされて。
本当なら嬉しい行為なのに、ジワッと涙が滲んだ。
好きだって気付いて、すぐ失恋。
私の初恋の相手は、ゲイでした……。
うう、最低。




