第24話. 情報
翌日。
メドックの荘園領主たちを説得する仕事は、依然として順調だった。
「い……行きます、城主様。いえ、今すぐ忠誠を誓います。」
よろめく足取りでアイマルへ近づこうとする領主。
ベルトランが前へ出て、彼の行く手を遮った。
「城主様にはそれ以上近づかないでいただこう。」
領主はアイマルの後方をちらりと見た後、ひどく不安そうな目でベルトランに尋ねた。
「私は……私は大丈夫なのですよね?」
「……万聖節の忠誠宣誓式に来さえすれば問題ない。」
「はい、行きます。必ず参ります。」
また一つ口約束を取りつけ、荘園を出ていく道中。
ベルトランはため息をつき、マルタンに言った。
「……どうやらマルタン殿には、姿を隠していただいた方がよさそうです。」
「なぜだ?」
「相手へ圧力をかけるためにマルタン殿が必要だったのですが……殿の影響があまりにも大きすぎます。」
彼は心配そうな顔で続けた。
「このままでは……忠誠宣誓式にまで偽りの意思で来る者が出そうなのです。」
マルタンはしばらく考え込んだ。
これまで会った者は、全員レスパールの宴会場で顔を合わせた領主たちだけだった。
メドックには、彼と会ったことのない領主たちもいた。
「私を見たことのない荘園領主たちは?」
「……マルタン殿が殺した領主たちの後継者のことですか?」
ベルトランは不思議そうな表情で聞き返した。
「そもそも彼らと会う時には、殿を前へ出すつもりはありませんでした。復讐心を燃やしている者もいるでしょうに、そのような者たちを相手に殿を前へ出せるはずがないでしょう?」
マルタンは答えた。
「私は、その復讐心を抱いている者たちに用がある。」
恐怖よりも憎しみの方が強い者たち。
彼らがサンチョの下へ入ろうと、アイマルの下へ入ろうと、何人かは必ず問題を起こすはずだった。
「奴らはいずれ問題になるのではないか?」
「……完全に根絶やしにしたいということですね?」
マルタンは無言で頷いた。
ベルトランはしばらく考えた後、尋ねた。
「目の前に殿がいれば、こちらへ来ようとしていた者まで離れてしまうのではありませんか?」
「味方になるつもりなら、私を見てもこちらへ来るべきだ。」
ベルトランは呆れたように笑った。
「まあ、まったくの間違いとも言えませんね。」
彼はそのまま続けた。
「それなら……今後は、そのような者たちの前でだけ姿を見せてください。」
マルタンは何も答えなかった。
しばらく何かを考え続け、やがて口を開いた。
「いや、私一人で行ってみよう。」
「……?」
理解できないという顔をするベルトラン。
マルタンは彼のために詳しく説明を付け加えた。
「一人でいる私を敵視するなら、こちらにつく気がない領主ということだろう? これが一番確実だ。」
「それはそうですが……。」
ベルトランは言葉を濁し、マルタンを見つめた。
長い間悩んだ末、慎重に口を開いた。
「……お望みでしたら、綿入り鎧と盾くらいはご用意できます。」
マルタンは軽く首を横に振った。
「このまま行く。」
荘園にいる兵力の質と量など、たかが知れていた。
わざわざ他人が着ていた綿入り鎧を身につけるほどではなかった。
***
名も知らぬ荘園領主の屋敷。
目的地へ到着したマルタンは馬から降りた。
ドン――ドン――
マルタンは扉を叩きながら、領主の屋敷の庭へ入った。
庭にいたのは、井戸から水を汲んでいた召使いが一人。
彼は怪訝そうな目で尋ねた。
「……どなたですか?」
マルタンは辺りを見回しながら答えた。
「血の復讐を受けに来た。」
「……はい?」
「血の復讐を知らないのか?」
召使いは真っ青になり、持っていた釣瓶を落とした。
彼はマルタンを上から下まで眺めると、慌てて屋敷へ走っていった。
「領主様! 血の復讐です!」
屋敷へ入った後も響き渡る召使いの声。
続いて、どこかしゃがれた声が聞こえてきた。
「何だ? どういう戯言だ?」
「誰かが血の復讐をすると言って訪ねてきました!」
「……早く俺の武器を持ってこい! お前たちもだ!」
慌ただしいばかりで、なかなか姿を現さない者たち。
マルタンは長い間庭に立ち、相手を待った。
ギィ――
ついに扉が開き、綿入り鎧を着た男が三人、屋敷から出てきた。
彼らの視線がマルタンへ集まり、領主と思しき男が前へ出て尋ねた。
「血の復讐だと……戦を宣告しに来たのか?」
マルタンは眉をひそめて口を開いた。
「血の復讐を受けに来たと言ったはずだが?」
「……?」
マルタンは困惑した表情を浮かべる領主に、事情を説明した。
「私はポワイヤックのマルタンだ。血の復讐をするのは私ではなく、そちらだ。」
「……ポワイヤックのマルタン?」
領主は顔をしかめたまま、マルタンを睨みつけた。
その正体を確信できないのか、顔を向けて兵士たちを見た。
「私たちも、その顔は知りません。」
「まあ……とりあえず剣はかなり高そうに見えますが?」
領主は相変わらず顔をしかめたまま、マルタンへ尋ねた。
「お前がマルタンだと?」
無言で頷くマルタンに、領主は再び問いを投げかけた。
「ここへ何をしに来た?」
「復讐するつもりがあるのか、確かめるためだ。」
その場に立ち、目だけを動かしている領主。
いくら待っても反応がないため、マルタンが尋ねた。
「復讐する気はないのか? それなら帰る。」
領主はゆっくりと口を開いた。
「……復讐にはあまり興味がない。」
「そうか。」
マルタンが背を向けようとした瞬間、再び領主の声が聞こえた。
「だが……門の外にいる馬は、お前のものか?」
マルタンは顔を向け、馬の正体を確かめた。
レスパールから連れてきた自分の馬だと確認すると、頷いた。
「そうだが。」
領主は満足そうな笑みを浮かべた。
「……実に立派な馬だな?」
マルタンはきっぱりと首を横に振った。
「そこまでではない。」
「いや、実に立派だ。」
領主は意味ありげな表情を浮かべたまま、隣にいる兵士へ尋ねた。
「……お前はどう思う?」
「……確かに立派ですね。」
マルタンは顔を向け、兵士を見た。
いつの間にか槍の柄を握り直している兵士の手。
今すぐ槍を投げてもおかしくない位置にあった。
スッ――
兵士の腕が、投槍の構えを取るように背後へ引かれた。
ヒュウウウッ――
速くはないが正確な投槍。
マルタンは横へ一歩踏み出し、体を捻った。
ドスッ――
槍はそのまま彼の横を通り過ぎ、地面へ突き刺さった。
投擲用でもない槍であれほどの威力を出すのだから、相手はジャックよりも数段優れた兵士に違いなかった。
「今のを避けるのか?」
領主は驚いた目をしながら、腰に下げていた剣を抜いた。
「なるほど、すべてが根も葉もない噂というわけではなさそうだ。」
彼は剣先をマルタンへ向け、宣言した。
「考え直した。兄上の復讐をすることにしよう。ついでに、その剣と馬ももらう。」
マルタンは頷くと、地面へ突き刺さった槍を引き抜いた。
「……復讐を手伝う者は他にいるか?」
領主は鼻で笑った。
「はっ、鎧も着ずに来た奴を捕らえるのなら、三人で十分だ。」
領主が顎で合図すると、兵士たちは退路を塞ぐためにマルタンの背後へ回った。
それを見ていたマルタンは無言で槍を持ち上げ、領主へ投げつけた。
ヒュウウウッ――グシャッ――
「ぐあああっ――!」
そのまま脇腹の上部を抉り取られた領主。
彼は膝をつき、傷口を押さえた。
『意外と速いな。』
相手が投槍をわずかながらも避けたことに感心しながら、兵士たちへ目を向けた。
すぐさま剣を抜き、彼らへ駆け寄った。
「はあっ!」
先ほどの見事な投槍とは違い、兵士の槍術はひどいものだった。
マルタンはそのまま間合いを詰め、兵士の一人の首を斬った。
「ごぼっ……。」
骨に剣が食い込まない程度に斬り、そのまま次の兵士へ近づいた。
シュッ――
かなり鋭く槍を突き出してくる相手。
マルタンは剣でそれを受け流し、懐へ入った。
ゴッ――
「かはっ……!」
剣の柄頭を顎へ叩き込み、崩れ落ちる相手の心臓へ剣を突き刺した。
ドクン――
鼓動に合わせ、剣を押し出そうとする心臓の動き。
マルタンはその力を借り、ゆっくりと剣を引き抜いた。
残ったのは、負傷した領主だけ。
マルタンは壁へ背を預けて座り込む領主へ近づいた。
「ぐぅぅ……。」
苦痛に呻きながら、マルタンを見上げる領主。
マルタンは無言で剣を持ち上げた。
***
公爵の内城、サンチョの寝室。
コツ――
サンチョは椅子に座ったまま、指で机を叩いていた。
コツ――
コツコツ――
コツ――
『マルタン……。』
イベリアで活動した後、こちらへ渡ってきたという元傭兵の男。
あの男のせいで、自分を支持していたメドックを丸ごと失いかねない状況だった。
『いったい何をしてきた男なのだ。』
サンチョは顔をしかめたまま、腹心を見た。
「メドックの領主全員が、私の提案を恐れているというのか?」
「申し訳ございません。先ほど申し上げましたとおり、マルタンという男のせいで、皆が積極的に関わることを避けている様子でした。」
サンチョは頭を下げた腹心へ尋ねた。
「復讐を企てる者は? その程度の度胸を持つ者すらいないのか?」
腹心は慎重に答えた。
「どうやら……ガルシア殿があれほど簡単に敗れたことで、皆が尻込みしているようです。」
「ガルシア殿?」
サンチョはすぐに頷いた。
「ああ、レスパールの武官長か……惜しい男ではあった。」
メドックだけでなく、ガスコーニュでもある程度名を知られていた人物。
頼もしい味方だっただけに、その死がもたらした影響は大きかった。
「……主君?」
サンチョは腹心を見た。
「少々欲深い男ではありますが……メドックの領主の中に、マルタンを恐れていない者が一人おります。」
「それでも一人だけではないか?」
「……仰るとおりです。」
サンチョは不要だと言わんばかりに手を振った。
「一人で何ができる。そのまま放っておけ。」
サンチョは再び考え込んだ。
指で机を何度叩いただろうか。
規則的な音が止まり、サンチョの視線が腹心へ向かった。
「……しばらくパンプローナへ行ってこい。」
「何のためでしょうか?」
「母上の一族へ私の近況を伝え、マルタンについての情報を探れ。」
サンチョの瞳が冷たく沈んだ。
「あの男がイベリアでも同じように暴れていたのなら、王宮に彼を知る者が一人くらいはいるだろう。」




